相思相愛

海の上で君と出逢って
いつの間にか君を見失って
気づけば私だけ陸にいて
私北上して今世田谷の踏切の前に立っている。
君はといえば今も海の上で本を広げている。
私が「ドビュッシーはどうして『月の光』の後に『パスピエ』をもってきたんだろうね」と言ったって
君は興味ない。本を広げてる。
「砂漠かブラックホールどっちがいい?」と聞いたら
「ブラックホールの先に高次元世界が広がっていたらおもしろいよね」と
的外れな回答だけ返ってくる。
「白夜は最後の希望かな」と独り言を言うと
「昼も夜もちゃんとふたつないとバランスが壊れるよ」と君は言う。

呪いなんだと思う。
きっと一生解けない呪いにかかったんだと思う。
君はまともに生きている。私もまともに生きている。
気が狂いそうな「まとも」を生きている。
だからずっと煮え切らない。
「ほらね、やっぱり白夜は希望なんだよ」と私が言って
「そうかもしれない」と初めて君が折れる。
「いつか砂漠へ行って白夜を見ながらドビュッシーの『月の光』を聴こう」
最高に君らしくないセリフで、なぜか涙が止まらなくなる。
やっぱり、君と私は無理なんだと思う。

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