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スペイン風邪と新型コロナ

 新型コロナのことを検索していた時、『愛と死』(武者小路実篤)のことが書かれていて読んだ。1937年に発表された、非常に古い作品であるが、今日的な意味があるとしたら、スペイン風邪でヒロインが死ぬ、という結末になっていることである。
 話の筋じたいは、若いヒロインが病死するという陳腐な悲恋物語でしかない。しかし、これを読むと、スペイン風邪と新型コロナ(スペイン風邪も、当時の新型コロナだと思うので、以下COVID-19)の共通点と相違点について、考えずにはいられない。
 この作品のヒロインは感染後、症状がでたのち、3日で亡くなる。そして、本人は死ぬとは思わず、精神的に苦しむ間もなく、絶命するのである。これは、COVID-19でも同じだ。
 心臓病や脳卒中の発作で亡くなる人は、既往歴があれば、ある程度は予測できるかもしれない。末期がんの場合は、確実に死ぬことが判る。しかし、感染症で短期間で死ぬ場合は、本人にとっては、予測外の最期となる可能性がある。また、感染させた人物を犯人のように考えれば、感染症による死は、犯罪被害の死に似ているということもできる。
 スペイン風邪の場合、亡くなったのは若い人達が多かった。当時は高齢社会ではなかったということもあったと思うが、若い世代にはコロナウイルスの免疫がなく、それにたいして年配の人達には免疫があったとされる。『愛と死』の中にも、元気な人ほどやられてしまう、という記述があり、この点で現在のCOVID-19とは異なっているということができる。もっとも、COVID-19も変異種の出現で状況が変わるかもしれない。
『愛と死』に戻ると、主人公の男性は、ひとりで海外旅行に出かけるのであるが、当時は船が旅行の手段だったので、帰国までに非常に時間がかかった。連絡の方法も手紙なので、これも時間がかかり、船旅の手紙のやり取りで愛情が深まるという、今日ならあり得ない設定があって、それもこの作品の特徴になっている。

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