労働基準法

労働基準法(労基法)は、労働契約に基づく労働者と使用者の関係について一定のルールを強制的に貸す法律。

労基法では、保護の対象(適用対象)を明確にするため労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で賃金を支払われる者」と定義している(法9条)。
使用される、とは、使用者の指揮監督の下で労務の提供をすること(人的従属性)【関西医科大学研修医(未払賃金)事件:最判平成17.6.3】
賃金を支払われる、とは、労働の対償(法11条)として、報酬を受けること(経済的従属性)。
使用従属関係にあれば、労基法の保護の対象は正社員に限定されず、非正規のパートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者も対象となる。

労働基準法 昭和22年法律第49号
第一章 総則
第一条(労働条件の原則)
労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
②この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

第二条(労働条件の決定)
労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
②労働者及び使用者は、労働協約(労働組合と使用者またはその団体とか結んだ労働条件その他に関する合意で、原則として労働組合の組合員に適用)就業規則(使用者が定めた職場規律や労働条件で、その事業場の労働者に適用されるもの)及び労働契約(労働者が使用者の指揮監督の下で労務を提供することを約束し、使用者これに対して報酬を支払うことを約束する契約で労働者の労働条件などが定められる)を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

第三条(均等待遇)
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

第四条(男女同一賃金の原則)
使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

第五条(強制労働の禁止)
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

第六条(中間搾取の排除)
何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

第七条(公民権講師の保障)
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。

第八条削除

第九条(定義)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

労基法は原則として、労働者を使用している事業又は事務所であれば、その業種や規模に関係なくそこで働く労働者を保護するために、強制的に適用される。同居の親族のみを使用する事業には適用されない。家事使用人にも適用されない。

労働基準法
第二章 労働契約
第十三条(この法律違反の契約)
この堡塁津で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする(強行的効力)。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による(直律的効力)。

労基法は、当事者の合意の有無・内容にかかわらず当事者を規律する性格を持つ強行法規。

民法628条で、期間の定めのある労働契約が締結された場合には、その期間中はやむを得ない事由がなければ使用者も労働者も契約を解除することができない。

第十四条(契約期間等)
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、五年)を超える期間について締結してはならない。
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一号第一号において「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)

②厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。

③行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

第十五条(労働条件の明示)
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
②前項の規定によって明示された労働条件が事実を相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

民法627条1項では、期間の定めのない雇用契約について、2週間の予告期間を置けば、労働者側からであれ、使用者側からであれ、いつでも解約できる旨を定める。つまり、解雇権は認められている。ただし、最高裁で確立した解雇権濫用法理が、労働契約法で条文化されている。
※労基法が規制するのは使用者が行う解雇であって、労働者は民法の規定により、原則として2週間の予告期間で解約可能。

労働契約法第十六条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働基準法第十九条(解雇制限)
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間その他後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
②前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

第六十五条(産前産後)
使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあっては十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
②使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
③使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

使用者は、労働者を解雇する際は原則として少なくとも30日前にその予告をするか、30日分以上の平均賃金(予告手当)を支払わなければならない。平均賃金とは、これを算定すべき事由が生じた日以前の3箇月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を総日数で除したもの。

賃金=労働の対償
支払い方法5原則
①通貨払の原則
②直接払の原則
③全額払の原則
④毎月1回以上払の原則
⑤一定期日払の原則
日新製鋼事件:最判平成2・11・26
労基法第24条1項の賃金全額払の原則の趣旨は、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る。しかし、使用者が労働者の同意を得て相殺をする場合は、その同意が労働者の自由な意思に藻どついて行われたものと認められる合理的な理由が客観的に存在するときは、労働基準法第24条第1項の規定に違反しない。

シンガー・ソーイング・メシーン事件:最判昭和48.1.19
労基法第24条第1項の賃金の全額払の原則は、退職に際して賃金債権を放棄する意思表示を否定するものではないが、賃金債権の放棄は、その意思表示が従業員の自由な意思に基づくものでなければならない。

福島県教祖事件:最判昭和44.12.18
過払い分の控除は、過払いがあった時期と合理的に接着した時期に相殺が行われて、また、あらかじめ労働者にその予告をしていて、相殺をする金額が多額にならない場合で、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがない場合であれば、労働基準法第24条第1項の賃金の全額払いの原則に違反しないと判断。


労基法20条に違反して解雇をしたとき、解雇が有効かを争った裁判が細谷服装事件(最判昭和35.3.11)。
会社が即時解雇に固執する趣旨でない限り、30日の解雇予告の期間が経過した日か、定められた解雇予告手当を支払った日に、解雇の効力が生じると判断。
労基法違反の解雇は、6ヶ月以下の懲役、又は、30万円以下の罰金。
解雇予告の手続きを行っても、解雇権の乱用により解雇無効と判断される可能性がある。

労働基準法第二十六条(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当てを支払わなければならない。
※休業手当も賃金に含まれる。

民法第五百三十六条(債務者の危険負担等)
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2.債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

民法の規定(536条2項)を適用すると、債権者=使用者の責任で仕事ができなかった場合は、100%の賃金請求権が保障される。労基法の休業手当は60%以上の保障だが、使用者の責に帰すべき事由とは、民法のそれよりも広い範囲と解され、経営上の障害も含むなど、不可抗力の場合を除くほぼすべての自由が含まれる。

ノースウエスト航空事件:最判昭和62.7.17
ストライキの影響で組合員でない従業員が休業を命じられたとき、休業手当を請求できるかどうか、労働基準法で定められている休業手当の請求権と、民法で定められている賃金の請求権にどのような違いがあるかが争われた。
労働基準法の休業手当の制度は、従業員の生活を保障するために設けられた規定で、その支給額が平均賃金の6割以上とされていることから、休業手当の支払いが求められる使用者の責に帰すべき事由は、民法第536条2項の債権者の責に帰すべき事由より広く、会社側に起因する経営、管理上の障害を含むことが示された。
裁判でのストライキは、労働組合の主体的判断とその責任に基づいて行われたものとして、会社に起因するものではない、つまり、会社は休業手当を支払う義務はないと判断された。





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