消えた自転車

盗まれたのは、高校二年の頃。
学校の自転車置き場から、僕の水色の自転車は姿を消した。
通学は徒歩では遠く、都合のいいバスも走っていない。すなわち傷は深い。
鍵を抜き忘れたのだろうかと考えてみるに、実にその通りで、飛行機の形のキーホルダーが付いたそれは、通学鞄のポケットに入っていなかった。
「お前の自転車、捨てられてたぞ」
クラスメイトが教えてきたのは、それから二週間が経った頃。どこにあったのかと聞くと、彼の家の近くの空き地だという。キーホルダーを見たから間違いないらしい。
拾いに行くかと聞かれたのが数学の授業の前。やめておくと返事したのは授業の後。授業は聞いていなかった。
初めて出来た恋人を、後ろに乗せた自転車だった。もう別れていたので、思い出の整理になったと無理に考えた。
彼女は廊下側の一番後ろの席に座っていた。いつも静かに笑い、両足の先をきっちり揃えて授業を聞くような子だった。
数年後、バイト先の本屋の閉店作業中、彼女は突然現れ、自転車を盗んだのは自分だと言ってきた。
僕はぼんやりと彼女を見た。
そして、ここで働いてるのを、なぜ知っているのかと聞いた。

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