観了記録36「みなに幸あれ」

 みなに幸あれを見てきた。凄まじかった。これをみただけで一日が終わっても良いと思えるほど満足感の高い作品だった。

 不気味な田舎の風習という意味ではミッドサマーを思い出すが、知られざる家族、というか地域の秘密という感じでもある。
 前半に漂う不穏しかない空気は吐き気がするほど濃厚で、見ているだけで興奮してくる。映画館でもたまにあるが引き込まれるような、というにふさわしい引力を持っている。

 内容的には贄によって家族の幸福、作品内の言葉で言うのなら「幸せ」を保っていることを知ってしまう孫娘の話である。風刺なのか資本主義を究極的に露悪的に描けばこうなるという感じである。各家族に一人はいる贄がいるおかげでみんな健康で主人公もその恩寵に与かっているわけである。それを開放することで家族がおかしくなっていく。そしてその贄を新しく用意しなければ家族がまとめて死ぬらしい。

 幸せは誰かの不幸せで成り立っている、というのが徹底的に描かれている。贄がいるお陰で「幸せ」を享受できるという旨らしいが、贄がいなければ家族まとめて死ぬのならばそれはもはや幸福というよりも呪いである。贄がいなければ死ぬ、差し出せば幸福が手に入る。昔話である生贄を要求する悪神とどっこいであろう。
 しかも主人公が贄をダメにしてしまった時もみな半狂乱になるわけでもなくへらへらと笑いながら「次」を用意しなきゃみんな死ぬぞ~、と呑気なものである。別に死ぬことへの恐怖がないのか、既にそんなことを考えることもできないのか。

 まとめて仕舞えば資本主義の世界で生きることを金の代わりに贄で描いているのである。贄がなければ死ぬしかない、でもないならないでゆったりと死んでいく。贄が代々ない家系はみな幸せにならない。だから最後に贄のなくなった主人公に幼馴染が自分を差し出す。保険金みたいなものだろうか、だいぶ悪徳な商売だが。

 資本主義と生きた人類の行く末を暗示したかったのだろうか。己の幸せの為には他人の不幸せが必要で、それを悪徳と理解しながらも最早抜け出し方もわからない。本当に、吐き気がするほど面白い映画である。

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