観了記録37「TOKYO NOIR トーキョーノワール GIRL'S LIFE」

トーキョーノワールを見た。短編だったが面白かった。

 ひと昔前の日本の女子大生が主人公である。大学でキラキラとしたギャルを演じながらその裏ではヘルスで人気の嬢をやっている。そこに元カレがやってきてしまうことから物語が動き始める。いや、動いたと言ってもそのまま何が変わるわけでもないのだろうなというのは最後のシーンでなんとなくわかってしまう。物語とは行って帰ってくる話である。だがその際には何かしらの変化なりなにか成果物を持っているものである。でも主人公はそんな風にならない。ただちょっとした問題があっただけの波しか彼女の心には起こしていない。

 全体を通して主人公の言動には重みがない。終始薄いぺらりとした感情と考えと言葉で生きている。目元につけるほくろもどきのメイクで知り合いから誤魔化せると思えてしまう軽さも、わざわざ紹介してもらった男に気分が変わったのか暴言を吐いてたばこを投げつけたりできる軽さも、本当に目の前のことしか見えていないし覚えていないのだろうなと思わせる。

 働き始めた元カレとの一悶着も結局元カレが今の彼女との破局を以て終わりを告げる。しかも元カレの彼女は冒頭で男を紹介してもらった同級生である。彼女の浮気を告げ口をしてつかみ合いの喧嘩をするのだがその時に言い放った「本当に誰かを好きになったこともないくせに」というのはきっと主人公の生きざまそのものなのだろう。とっさに出る悪口は自分が言われたくない言葉だとも言う。

 最後のシーンで母親に頼まれたメロンパンを手に入れたが美味しくないと言われて自分でも食べ、美味しいじゃんと嬉しそうに語るその顔には元カレのことも一応は友達だった女との破局も、自分がヘルスとして働いていることが噂になっていることを微塵も感じさせない。終始まとわりつく軽薄な生き方がここに収斂されているように感じられる。

 これにはトーキョーノワールという恐らくこれの本編に当たる短編集があるらしいのでいずれ見てみようと思う。

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