ミュージカル刀剣乱舞 結びの響、始まりの音ー喪失に向き合うということー


※ネタバレあります。

結論から言うと、今までの刀ミュの中で一番泣いた。

まあ泣くだろうなとは思っていたのだけど、予想以上に滅茶苦茶に泣いた。自分でもどうしたんだろうと思いながら泣いた。現地で一回見て、ライビュはまあ泣かないだろうと思ったら更に泣けて自分でもびっくりした。

もともと新撰組が好きだったので、感情移入しやすかったというのはある。刀ミュの中では「幕末天狼傳」が好きで、特に人間キャストの新撰組3人が大好きだったので、その続編とも言える「むすはじ」には思い入れが増したというのも、ある。

でも一番泣いたのは、この作品全体に流れている「喪失」の空気にだ。

坂本龍馬の死で幕を開ける冒頭から、近藤勇と沖田総司の死を経て、敗走をつづける新撰組と土方歳三、そして「刀の世」に迫りくる終わりの予感。土方の死をもって幕を閉じるこの作品には、最初から最後まで終わりの気配がつきまとう。

「終わり」誰にでも起こることだ。刀の世だけではない。自分や身近なひとの喪失、学校や職場やコミュニティの終わり、卒業、解散。どんなふうに言い換えてもおなじ。始まったものには、いつかは終わりが来る。言ってしまえば簡単、当たり前のこと。だけど、とてもつらいこと。

中盤、命の使いどころを探しつづけ、そして「見つけた」土方歳三の姿に、ひたひたと近付く終わりの気配を感じた。わかっていてもどうにもならない、迫りくる「その時」に懸命に向き合おうとする和泉守兼定に、別れを前にしたときの自分の姿を重ねた。

刀剣乱舞は刀の付喪神たちの物語だ。乱暴に言ってしまえば、現実の私達と乖離しているキャラクターたちだ。だけどこの物語は、「失う」という誰にでも起こることについてとても真摯に向き合い、すごく普遍的なところで喪失を描いてくれた。だから、こんなにも刺さったのだと思う。

そんなことを、ライビュの劇場でぐすぐす泣きながら考えていたのでした。



あとちょっと構成の話をすると。

刀ミュではしばしば取られる技法だけど、取り扱う時代と無関係な刀が編成に1振り入ってくるのがすごくうまいやり方だなと思う。今作の場合は巴形。幕末天狼傳では蜂須賀虎徹だった。つはものは、完全に無関係というわけではないけど性質的に髭切かな。

彼ら「その時代を知らない刀」が1振り加わると、彼らに向けての体で時代背景の解説をしやすくなる。そしてある意味傍観者になることで、当事者たる刀たちと私達観客との橋渡しのような役割も果たすことになる。1振り立場の違うところからものを見るから、作中のバランスもとりやすくなっている気がする。

そういうことを計算して物語を作っているのだとしたら、凄いなあ…と、心底思う…。



さてここからはいつもの役者さん雑感。

鳥越裕貴くん(大和守安定)

ちょっと見ないうちにすごく演技が変わってて驚いた!もちろん良いほうにですよ!

鳥ちゃんの演技に今まで感じていた癖が抜けて、すごくすっきりした演技になったなという印象が強い。鳥ちゃんの癖に関しては全然否定的ではないんだけど(たとえばペダステの鳴子はそれと役がすごくマッチして良い味を出していたと思う)、安定に関しては個人的にはこっちが正解かな。演技の幅、着実に広がってる!

あとダンスめっちゃうまくなったよね!

有澤樟太郎くん(和泉守兼定)

今回の個人的MVPは有澤くんでございました。すっっっごく上手くなった!!!演技も台詞回しも殺陣も歌もダンスも、ちょっとした表情の作り方や声の出し方まで全部上手くなってた。本当にびっくりした。役が本人に落とし込まれた感じがするし、兼定のべらんめえ口調がめちゃくちゃ板につくようになってるじゃないですか!兼定に説得力が増したから観てるこっちがより泣けたっていうのは絶対にある。

有澤くん、今後が楽しみな役者さんになったね、って、帰り道ずっと友人と話しておりました。……というのをここに書き記しておいて、もっと活躍したら引っ張り出してきて「ほらだから言ったじゃん!見る目あったでしょ!」って鼻高々になる予定なのでよろしくお願いします。

田村心くん(陸奥守吉行)

むっちゃんの笑顔が良すぎてな!!!むっちゃんが笑うたびに涙腺が決壊してたのは何を隠そうここにいる私だ。

むっちゃんの明るさの裏に隠れた哀しみがすごく伝わってきて、おどける仕草、黙って空を見上げる仕草、ひとつひとつに泣かされてばかりだった。田村くん、緩急のついた演技が上手…!

でも殺陣も演技もあんなに堂々としていたのに、2部のファンサはまだちょっと初々しかったのが大変可愛らしかったですw

阪本奨悟くん(堀川国広)

2代目って、どうしても前と比べちゃうところがあると思うんですよ。おごたんの初代国広が良かっただけに、正直心配していたところがあったんだけど、全然杞憂だった!しょごくんの国広もすっごく良かった!最高にかわいかった!

……というか、ちょっと寄せてた?何度か初代の面影がかぶってはっとする瞬間があって。しょごくんの演技をあまり観たことがなかったので、意識して寄せてたのか元々2人のタイプが似ているだけなのかわからないんだけども……元々似ているのだとしたら、それはそれで越前リョーマのDNAすげえ…ってなるね笑

あと流石しょうごくん、歌が抜群に上手い。純粋な歌唱力ももちろんだけどそれだけじゃなくて、歌の魅せ方、伝え方がすごく上手だと思った。まさにシンガーソングライターの本領発揮!2部のソロ、めちゃめちゃ綺麗だったなあ……。

伊万里有さん(長曽祢虎徹)

伊万里さんの長曽祢さんは、新撰組刀の中での良い兄貴分なところ、周りの刀をフォローする年上なところ、でもまだ未熟だったり迷ったりもするところ、の配分がうまいなあと思う。長曽祢さんとむっちゃんの会話シーンが大好き。

かと思えば、(続投組は総じてだけど)2部の振る舞いが堂に入るようになっていて、めちゃ楽しそうに歌い踊っておられるのでニコニコしてしまう。

あと何度観てもスタイルが良すぎですね伊万里さん!?もうちょっと重心落としたら殺陣に重みが増すんじゃないかなって考えかけて、これは脚が長すぎるからだと気付いた。何頭身あるんです?!?!

丘山晴己さん(巴形薙刀)

巴ちゃんすごかった……もう語彙力を失うしかない。素人目ですけど、ああいう役って役作りとても難しいと思うんですよ、感情表現ひかえめなうえに捉えどころがなさそうで。なのにあの存在感……口数の少ない中でもしっかりと伝わる感情表現……すごい。

身のこなしがものすごく良くて基本的に見惚れていたよね。指先まで神経の行き届いた動きがあまりにも巴ちゃんを体現していた。そしてあの薙刀捌き!どう見ても難しそうなあの大薙刀をまるで自分の一部のように扱っていたあの薙刀捌き!最高でしたありがとうございました。歌もさすがの安定感だったし。RENTの時丘山さんのエンジェルを見なかったの今になって後悔してる、やっぱりWキャストは両方観ておくべきだったな……。痛恨。

そして何と言っても2部!なにあれ!!巴形からほとばしる色気!匂い立つフェロモン!そして!二の腕!!二の腕ガン見ですよ衣装さんありがとう大感謝。オペラグラスを構える手が震えましたね。刀ミュ初参戦でこれって控えめに言ってとんでもなくない?!

高木トモユキさん(土方歳三)

人間キャストからも抜粋で。この人を語らずしてむすはじは語れないでしょう。

なんといっても土方さんの演技が最高だった。彼のうしろにいつも、近藤さんや沖田くん、死んでいた新撰組の仲間たちの影が見えていた。近藤勇の死後、憑き物の落ちたようになり、死に場所を探してさまよっているような土方と、生来の懐の大きい兄貴分器質な土方、その両方を兼ね備えた、とても魅力的な土方を作り上げてくださったと思う。彼になら皆ついていく、と自然と思わせられる土方だった。

土方さんの最期――撃たれて倒れるところ。最初に観たときはTDCの2バルだったので姿が見えず、ガタタッ という音だけが聞こえた。それはそれで胸を打つ終わり方だったのだけど。ライビュではじめて顔が見えたとき、鳥肌が立った。あのひと、笑って死んでいったんだ――最良の終わりを、本当にありがとうございました。

今回2部で人間キャストの歌があったの、本当に良かったなあ!また歌詞が最高で…「闇を切り裂いて進め」自分の誇りを歌い上げているようにも聞こえ、兼さんたちに言っているようにも聞こえ。まさか2部で泣かされるとは思わなかった…!

天狼傳のころから友人と話しているんだけど、この人間キャストで新撰組の舞台を一本観たい!この彼らの生き様を最初から最後まで見届けたい!どうですか茅野さん御笠ノさん!

藤田玲さん(榎本武揚)

出てきて歌い出した瞬間に藤田さんがキャスティングされた理由を悟り、フランス語をしゃべりだした瞬間にこれは藤田さんにしかできない役だと思った(笑)むしろ当て書きしてません?

纏う西洋の空気が榎本さんにぴったり。そして彼が土方さんと並ぶと、土方さんの武士らしさ…ある種の泥臭さのようなものが際立つのですよね。彼なら先を託せると、土方さんが見こんだのもすごくわかる。そういう説得力があった。

藤田さん見るのはGANTZに続いてなんだけど、見るたびこのひと上手いなと思う!A3も観たいんですけどね、あのチケットの取れなさはなにごと…?ライビュお待ちしてます…!

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