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【story】LINE LOVE STORY-8

スマホを手にして、どうしようか悩んでからスマホをベッドの上に投げては、スマホを拾い上げてまたどうしようか悩むことを繰り返し。
この動作を多分1時間ぐらい繰り返している気がする。
朝起きて、簡単にトーストを食べてすぐ部屋に戻り、スマホとにらめっこしている理由はLINEにある。
僕は、LINEを送れずにいる。

同僚と会うことになった。
2人で会うとばかり思っていたから、そこら辺の居酒屋でいいかなと思っていたが、同僚は2人女性を連れてきた。
ひとりは同僚の同期で別部署の子。もうひとりが小豆澤さんだった。
小豆澤さんは同じ部署ではあるが、会話を避けてきた。
以前部署の飲み会で僕は小豆澤さんの隣に座って話をしていた。小豆澤さんと意気投合して盛り上がった後、二次会には行かず小豆澤さんと抜け出した。小豆澤さんはかなり酔っ払ってしまい、僕は彼女を家まで送ることに。
可愛いとは思ったが、さすがに同じ部署の新人を襲う訳にはいかず…おとなしく彼女を送り届けた時に

「…野瀬さん、私…」
と、小豆澤さんは僕に抱きついた。
「野瀬さんが、好きです…」
どうしていいか、どうすることも出来ず、とりあえず理性を保つことだけで精一杯だった僕は彼女を抱きしめることが出来ず、手を離してしまい
「今日はもう遅いから帰るよ。」
と伝えて彼女の家を出た。

それから何気なく彼女を避けてしまった。
仕事上ではとりあえず普通に会話しているつもりだが、時折小豆澤さんが悲し気な表情をするのを見逃さなかった。
あの時は小豆澤さんも酔っていたことだし、変に僕もぎこちないのもいけないと思っていたせいか、結果的に避けるようになってしまったのだと思う。
そんな状況がずっと続いた中で、同僚が彼女たちを連れてきた。

「あれ?今日はふたりじゃ…」
「あー。駅に向かう最中に彼女たちに出会ってさ。一緒にどう?って誘ったんだよね。」
「…そうなんだ。」
「野瀬さんこんにちは!泉野です!小豆澤と一緒に買い物していたら内藤さんに声かけられました!」
小豆澤さんは僕を見て軽く会釈する。僕もつられて会釈する。
内藤がイタリアンレストランに行こうと先陣切って歩き出した。お店が案外すぐ近くにありすぐ座れた。ピザ何種類か頼んでシェアしようよとマルゲリータときのこのピザ、お肉がたっぷり載ったピザの3種類を頼んだ。

「うわ~。こんなに食べられるかなぁ。」
泉野さんって、可愛いを全面に出すタイプだ。内藤がさっきからデレデレしている。そうか、内藤は泉野さん狙いか。
泉野さんは小豆澤さんと仲が良く、お昼は必ず小豆澤さんのところに顔を出していた。内藤はその時から泉野さんに声かけてたことを思い出した。
ただ、小豆澤さんがさっきからひとことも喋らない。
その様子に気がついた内藤が声を掛けた。
「小豆澤さん、ピザあんまり食べてないけどお腹空いてない?」
「…いえ、そんなことないです。」
たぶん、僕が一緒に居ることで気にしているに間違いない。ただここで僕が察しでお店を出たら余計に彼女を悲しませる気がしてどうしていいか迷っていた。

彼女を送っていったあの日。
電車はもう無かった夜。彼女の家から僕の家までは電車で2駅ほど。タクシーを拾えば良かったが歩きたかった。星が綺麗な夜空を一際明るい月を目指して歩きながら。
小豆澤さんが僕の胸にゆっくりうずくまる姿を思い出しながら、
あの時思わず頭を撫でてしまった。
本当はそっと抱きしめても良かった。
あの時の葛藤が僕の答えで、小豆澤さんのことが好きだと解った。
ただあそこで抱きしめたら離さなくなるような気がして、
いや、それは単なる言い訳で、
あのまま抱きしめて理性を抑えられず押し倒してしまったらと闘っていた。
そう、彼女を大事にしたい。
自分の家に着いた時、大きな溜息が出た。
ふとスマホを見たらLINEの通知が届いていて、

『突然告白してごめんなさい。野瀬さんを困らせてごめんなさい。また明日いつも通りで。』

その小豆澤さんのLINEメッセージを見て、僕は泣いてしまった。
彼女は何も悪くないんだ。

そのLINEに対して返事も出来ないままだった。
ずっとずっとスマホとにらめっこしていたって解決しない。
このままではダメだ。

「内藤、あのさ。僕ちょっと小豆澤さんと話がしたいから、ピザいくつか持ち帰りしていい?」
僕の発言に小豆澤さんが「え?」という表情をした。
内藤も泉野さんとふたりっきりになれるし、好都合だろう。内藤も一つ返事で了承しピザをいくつか包んでくれた。
小豆澤さんの手を掴んだ。手を繋いでそのまま彼女を引っ張っていく感じで歩く。そして彼女に僕は、
「僕の家、すぐ近くなんだ。突然で悪いとは思うけど、あの日からずっとずっと小豆澤さんに話したいことがあって、だからふたりっきりになりたくて…」
途中で止まって振り返る。小豆澤さんの顔が真っ赤だった。

「あの日はごめん。せっかく勇気を出して僕に伝えてくれたのに。あんな態度でごめん。…続きは僕の家で話すから…」

そのまま彼女を引っ張るように歩く。
彼女の顔を見るのが恥ずかしい。
とりあえずスマホを取り出し、片手でぎこちなくメッセージを入力する。
小豆澤さんがスマホを見る。

『突然だったので驚いたけど、僕は困ってなんかいないから。』

あの時の、小豆澤さんのLINEにようやく返信をした。
僕の家に着いて、彼女を招き入れ、玄関で彼女をそっと抱きしめた。

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