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【story】予期せぬ展開 ~コウキくんとミチルさんの話

コウキくんと一緒に過ごした夜、そして朝。
私の家で一緒に朝ご飯を食べるなんて、想像すらしなかったな…。
先輩後輩だった私たちが、ここ数ヶ月で交際すると思ってなかったというか、はっきりしなかった期間もあったし、何とも言えない交際スタートとなった。

そして朝食後にコウキくんから
「今日の夜は、僕の家で過ごしませんか?」
と言われ、朝食後浅草を散策した後、一旦荷物を取りに戻ってから、都営浅草線に乗った。向かうは、コウキくんの家がある上大岡駅。

コウキくんは横浜出身。ご実家は今は川崎にあるそうだけど、コウキくんは一人暮らしの場所を上大岡に決めたそう。高校が上大岡で良く知っている場所だからということみたい。
私は上大岡へは初めて降りる。
これまで京急は横浜駅より先へ行ったことがない。コウキくんと話がしたくて付いていってもせいぜい横浜止まりだったから。

浅草駅からふたりで京急に乗るのは新鮮。
しかもお互い私服。
手を繋ぐのは恥ずかしいかな、と思ったけど電車に乗ろうとした時にコウキくんから手をひいてくれて一瞬ときめいてしまった。

彼はこういう感じだったかな…

浅草から上大岡まではだいたい1時間。
長いといえば長い。
けれどコウキくんと一緒に仕事してた頃の話とか、上司の話、コウキくんに好意を寄せている飯田さんの話、などなど話題は尽きることはなかった。会えなかった時間をこの1時間で埋める勢いだ。
それにしても、後輩の飯田さんはわかりやすくコウキくんにぐいぐい迫っているようで、前に電車内で見かけた時も確かに可愛らしくて、上目遣いが何とも言えなくて。そのスキルを少し分けて欲しいと思えるぐらい「私はこうすれば可愛い」を理解している。
これで仕事が出来ればモテそうな気がするのに、天は二物を与えなかったらしい。

気がつけば横浜まで来た。
そういえばここで降りてふたりでご飯食べに行ったね。あの時食べたチーズフォンデュ美味しかったね、なんて話していたら…1人の女性が乗車して来てこちらを見るなりニコッと笑った。

「あ!」

「…あ。」

コウキくんが怪訝そうな顔をしている。最初にコウキくんが配属された時に私が雑談をしたのに会話をすぐ終わらせようとした時の怪訝そうな表情と同じ。つまりは、困っているということ。
…この可愛らしい子が、後輩飯田さんか。

「先輩!どうしたんですか~?お出かけの帰りですか?…あ!お隣の方は…」
「ああ、俺の彼女。」

コウキくんは迷うこともなく、私を『彼女』って紹介した。
多分ちょっとした修羅場?のはずなのに、私を『彼女』って紹介したコウキくんの声にときめく。
しかし、さっき話にも聞いていたけれど、後輩飯田さんはさすがだ。動じてない。だから何?って顔している気がする。

「初めまして。和久井先輩と一緒にチームで働いている、飯田チサキと申します!よろしくお願いしますね!…時々、先輩をお借りして食事に行きますけど、許して下さいね!」

…はあ?
これは癖が強すぎる。
コウキくんがまさに嫌いなタイプだ。
しかも、私の方が遙かに年上なのをわかってて、上から目線で自己紹介したよね。これは自分がいかに可愛いか知ってるわ。

「飯田さん、そういうの止めてくれる?食事なんて行ってないし、彼女は飯田さんの前任で先輩だから、そういう言葉遣いは困る。」

コウキくんが即座に飯田さんの言葉遣いを注意する。彼の真面目なところは変わらない。仕事を一緒にしていた時のことを思い出した。
…コウキくんも上から目線で私に意見を言ったことが多かったけれど。

「ごめんなさ~い。先輩の彼女さん、前任だったのですね。失礼しましたぁ。」

飯田さんは23歳なので、初々しいというか世間知らずというか。語尾が延びる話し方は率直に嫌だな。こういう子がいると全女性が否定されちゃう気がして哀しくなる。
コウキくんから聞いてはいたが、彼女の自宅は金沢文庫駅。
つまり、上大岡駅の先なのでそこまでこの攻撃が続く。

と思っていたけれど、ここはやっぱり私が好きになった彼。
彼は本当に素敵だった。

「その語尾を延ばす話し方、何度も注意しただろう。とにかく今はプライベートだから、俺ら別車両に移るよ。お願いだからそっとして。」

コウキくんの表情は…過去に一度だけ見たことがあるけれど、仕事で大きなミスをして、チームメンバー総動員で資料を再作成していて、課長が無理難題を私に命令した時に

「今はこの案件を処理することが先です!先輩にこれ以上業務を渡したら倒れてしまいます!それは困ります!」

と強い口調で課長に食ってかかったあの表情。
コウキくん、さすがに怒っている。口調も強めだ。
これで後輩飯田さんが何も感じなかったら、彼女は相当なものだ。

「…先輩、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですう…」

だから、語尾だって。
コウキくんは、後輩飯田さんをその車両に残して、私の手をひいて隣の車両に移動した。
けれど、この一連のコウキくんの対応に、私はずっとドキドキしっぱなしだった。かっこよかった。

「ミチルさん、ごめんなさい。不快な思いをさせてしまって。まさか会うとは思わなくて。同じ路線だから仕方ないけれど、後輩飯田は本当にヤバい奴でしょ?」

うん、本当ヤバい奴だった。

上大岡駅に着いた。
コウキくんと一緒にホームに降り立つ。
そしてふと2人振り返る。
電車の扉が閉まって、ゆっくり発車する電車の車窓から
横浜駅から乗車した、後輩飯田さんの様子が見えた。
彼女もこっち見てたな。
しばらくは、後輩飯田さんのコウキくんに対するアタックは続くだろうけれど、彼のさっきの対応で自信がついた気がする。

「どうする?ちょっと京急百貨店でも寄る?小さい百貨店だけど、地域密着って感じで僕はいつも立ち寄りするんだけど。何か見る?」

うん、と笑顔で答え、コウキくんの腕につかまる。
コウキくんの照れた横顔、初めて見た。

*****

コウキくんとミチルさんの続編です。前回の話はこちら↓

まさかの、後輩飯田の登場でしたね(笑)
さて、この続きは何をどうしようかな。
京急電車の旅が進んだら、続きを書こうと思います。
ちなみに、上大岡駅の画像ですが。本当に上大岡まで行ってきました。理由はありまして、突然京急に乗りたくなって、上大岡の京急百貨店でやっていた北海道展がどんな感じかマジで見に行きました。
10/1~世界のワインが販売されるイベントをやっているのですが、その日程に上大岡への再訪が難しそうなので諦めます。

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