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中学生の荒波横断、鎌倉-茅ヶ崎アウトリガーカヌーレース

「鎌倉から茅ヶ崎まで15km漕ぐレース、やってみたい?」
「自分たちだけで?」
「そう」
「面白そうじゃん!やりたい!!」


主催のワイレアカヌークラブの皆さんに温かく受け入れていただき、高校生以上であること・JOCC加盟という出場条件どちらにも該当しないとびうおユースが「レース参加というわけには行かないけれど」と横で共に漕がせていただくことになった。


ステア(舵取り)まで含め6人全員が中高生のメンバーが、自分たちだけで鎌倉から茅ヶ崎までの15kmを漕ぐ。嬉しくなるような晴天の下、大人に混ざって出艇していく6人の背中は気合い十分。漕ぎ出しも順調で大人たちに遅れをとることもなく、皆とても頼もしく見えた。



ところが、レース開始後15分。
予報ではもっと後に上がってくる予報だった南西の風が吹きはじめ、海の様子が激変した。カヌーのアマ(浮き/アウトリガー)側からうねりがしっかりと入り、船首が激しく浮き沈みする。風は、コンスタントに10m/s前後、ブローで13m/sはあったか。いつもは穏やかな海域に、白波が立っている。


先頭に乗った最年少メンバー・12歳の唯子が大きく浮いたかと思えばまた沈む中、カヌーが進んでいく。1番2番は全体のペースメーカーで、自分が漕ぐのをやめたら後ろが続かないことをよく分かっている。船首が浮き、自分のパドルが水に届かない中でも、唯子は安定してキャッチのリズムを刻み、2番のゆいがそこにピタリと合わせている。


エンジン役として3番4番シートに座ったまどかと大志は、身体を大きく前傾させて前から水を掴み、懸命に漕いでいく。横から大きなうねりを全身でくらっても、一定のペースで「ハップホー」の声かけを続けるまどか。漕ぐ合間に、船内に入った水をベイラーでかき出していく大志。


春にカヌーをはじめたばかりの5番大樹も頼もしい。出発前に仲間と確認した「前傾する」「前で水を掴む」「体重を乗せていく」に全身で取り組んでいるのがわかる。そして、舵取り役の6番、桃。強い風の中でのステアリングは重く大変で、一度はステアパドルを落としてしまった。


「ドロー気味に漕いでた側の水の重さに身体を取られて、全身が何度も浮いたの。”まじで落ちる!” と思って一瞬、パドルを持ってた左手を緩めたんだよね。その隙にパドルが水に取られて流れちゃって。
 とっさに(カヌーに積んでいた)予備パドルに切り替えたけど、小さなパドルじゃ最後までちゃんとステアできないし。もう、必死に(ジェットで並走していたコーチの)たくちゃんを呼んだよね。”たくちゃん、たくちゃん、たくちゃーん!”って。みんなのパドル、拾ってもらえてよかったよー」


大人の中に1艇だけ子どもチームが混ざるプレッシャーに加え、この海況。みんなの進路を預かるステアの責任は重かったはずで、背中の気迫は(インスタライブの)画面越しにも伝わるほどだった。


それぞれのシートでの自分の役割、仲間との呼吸。普段の練習や遠征の経験から少しずつ蓄積していたものが開花するのを見るようで、胸が熱くなった。


安全対策万全の大会であったが、刻々と悪化する海況は人の力ではどうにもできない。先頭を行くカヌーが江ノ島沖にさしかかった頃、NO RACEが決断された。大会は中止となり、どの艇も、それぞれのホームビーチに向かって引き返して行く。


とびうおユースも荒れた海の中で真剣な表情を緩めることなく、真っ直ぐに逗子海岸へと引き返していった。湾内に入ってからは皆、いい表情でラストスパート。あの海況で10キロ以上漕いだとは思えない速さとパワーで水を掴みながら、堂々とホームに帰り着いた。


到着すると、唯子が目に涙をにじませた。大人は皆「そうだよね… 怖かったよね...」と思った。ところがそこで、本人がひとこと。


「どうせ真剣に漕ぐなら、茅ヶ崎まで行きたかった…!」


すごい😂
君たち、本当にたくましい!!



それぞれに部活も勉強もある中で、小学校から続けてきたアウトリガーカヌー。日程を調整して真剣に漕いできたけれど、今年はコロナ禍で大会が軒並み中止に。

そんな中、こんな風に大人に混ざって漕がせてもらえたこと、この海況でも自分たちだけで漕ぎきることができたのは、大きな糧になったよね。


6人乗りのカヌーは、一人だけ速くても進まない。仲間との気持ちとリズムを一つにして、全員が全力を注いで初めて「グン!」と滑る感覚がいい。

身ひとつ、パドル一本で沖に出たら、向き合う相手は自分の力では到底コントロールできない自然であることも、いい。大きな海に出れば自分がどこまでもちっぽけで、地球という大きな循環体の一部でしかないことがわかる。

いや、むしろ、その一部であることさえできているのか?と、自分自身に向き合ういい時間を与えられる。


…って、そんな経験、少なくとも私は、中学時代にしたことがなかった。皆、ものすごくカッコ良かった!!



主催の Wailea Canoe Club Japan の皆さん、安心のサポートをしてくださった 日本ライフセービング協会 の皆さん、本当にありがとうございました。大会中止は残念でしたが、素晴らしい企画と運営でした。


そして、早朝から逗子と鎌倉(と仙元山!)を往復して、ユースにジェットで伴走してくれた名コーチ永井巧=我らがたくちゃん。レース前後のカヌーを運ぶ予定で動いてくれた父母仲間のみんな。皆と一緒にこうして子どもたちが育つのを見ていられる幸せといったら!


海と、地域と、気のいい人々に感謝です。
いつも本当にありがとう。

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