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12歳の頃の私へ(インタビューwithセヴァン・スズキ①)

1992年、ブラジルで地球サミットが行われた。そこで世界のリーダーたちを前に「直しかたがわからないものを壊すのは、やめてください」と説教をした12歳の少女がいた。

彼女の名前は、セヴァン・カリス=スズキ。後にそれは「伝説のスピーチ」と呼ばれ、各国後に翻訳された。

そんなセヴァンも、今は二児の母となり、カナダ北西部のハイダグワイに暮らしている。豊かな森に囲まれて子どもたちを育てるセヴァンの声が聞きたくて、久しぶりにビデオ電話を繋いだ。

「サステナ*デイズ」では14分間というインタビューの枠、一つじゃ足りなくて二枠もらってお届けしたけれど、それでもまだ足りなかった。

聞いたことを全文翻訳したので、ここに残しておく。

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▶︎Ai: 今は、カナダでも一斉休校中だよね。この期間、私が初めてうちでやった勉強らしい勉強は、12歳だったあなたのスピーチを娘たちと一緒に読んで、英語を練習することだったの。今ちょうど、長女が12歳だから、感じることがたくさんあったみたい。久しぶりに読んだら、あなたが今どうしているか、何を感じているか、聞きたくなって。

Severn:
 わあ、あのスピーチを使ってホームスクーリングしてくれるなんて嬉しい。外出自粛で家にいても、こうして世界の友達と繋がることができる。いい時代ね。

▶︎12歳の頃のスピーチについて、母になったセヴァンから聞かせて。あのとき、どんな気持ちだった?当時、大人たちはあれをどう受け止めたと思う?

 私はあのとき、12歳。子どもだった。それなりに環境問題を理解していたつもりだったけれど、今、世界で起こっていることを伝えたら、大人たちに直してもらえるかもと思っていたの。 

 あの時のことはとてもよく覚えている。何を話したか、一語一句ね。大人たちが何をすべきかクリアにわかるように、どう伝えたらいいかを2週間毎日頑張って言葉にしたし、リオに行くまでのお金は1年かけて貯めた。
 あのスピーチを、当時の大人たちはしっかりと受け止めてくれた。スピーチの後はみんな総立ちで拍手してくれたし、閉会式でも取り上げてもらった。

 その成果として、リオのサミットでは地球憲章が作られた。その後、世界で初めて地球温暖化に対応しようと作った、気候変動枠組み条約のはじまりにもつながった。地球憲章の内容は、今読んでも先進的なものです。

 世界のリーダーたちに、声は届いた。憲章もできた。で、どうなったか?

 誰もが知っているよね。その後は、地球環境にとって最悪の28年間だった。行動が足りていなかった。いい行動が足りなかっただけでなく、その反対の動きも大きくなっていった。石油産業は過去最大の勢いで世界中の採掘をして、大企業が国よりも力を持つようになり、気候変動の勢いは止まらなくなった。

 これは、どういうことなんだろう?その間、私はティーンエイジャーとしてそんな世界を眺めながら、疲れ果てた。世界のリーダーに声は届いたのに、彼らは動かなかった。大企業に物申すことができなかった。この28年間は、理解がゆっくりと進化するのに必要な年月だったのかもしれない。

 今ようやく、皆の理解が新しいフェーズに入ったと感じてる。リオでのスピーチや地球憲章に込められたメッセージが、今の時代の若い人たちの心には、しっかりと届いているみたい。グレタとその周りの若い人たちが世界中で Fridays for Future を行い、ストリートに出て「Enough is enough / 十分といったら十分だ」と叫んでいる。それが今、私にとって、気持ちの深いところに響いています。

 私が子どもだったとき、今から約30年前、世界はまだ準備ができていなかったのかもしれない。若い人たちの力を得て、ようやく転換点を迎えているのが今なのだと思う。12歳のセヴァンに伝えたい。「あなたの時代からさらに地球環境が最悪になるまで、みんな気づくことができないかもしれない。でも、今ようやく、変化の時を迎えているからね」って。

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▶︎12歳のセヴァンは、今、大人になったセヴァンを見て、どう言うかな?満足していると思う?

 笑。なんていい質問なの。そうだな…。うん、きっとハッピーなんじゃないかと思う。大人になって一つわかったことは、世界は、子どものセヴァンが思っていたよりもっとずっと複雑だったということ。あの頃の私はラディカルで、大人になったら流木だけで作った小屋で暮らそうと思っていた。

 でも、どうかな。今、私は結婚して、カナダの田舎でサステナブルな暮らしをしている。6歳の頃に初めて訪れてからずっと大好きだった土地で今、暮らしている。12歳のセヴァンは、私が今ここで暮らしていることを知ったら、きっと嬉しくて飛び上がるんじゃないかな。私の子どもたちは、伝統的なものと現代的なもの、どちらにも手が届く距離で、先祖もしていたように土地から食べものを得て暮らしている。うん、私たち、とてもいい人生を送っていると思うな。

 いま私は、土地とコミュニティーに深く根差している。若い頃より「政治的」ではなくなったかもしれないけれど、子どもと時間を過ごすこと、コミュニティーで暮らすことは、実は私にとって、とても政治的な行為なの。

 欲しい変化があるのなら、私たちみんな、自分自身が見たい世界の一部でないとね。地球のために闘う次世代を自分自身が育てないとね、って思っています。

 毎日、子どもと一緒に、とって、食べて、学ぶ。それ以上に大事なことって他にない。あまりに普通で、日常的なことだけど、とってもパワフルで大切なことだと思っています。

 そうね。だから、12歳のセヴァンは、今の私をみて、きっと誇りに思ってくれるんじゃないかな。

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     (10年前くらい?懐かしい写真出てきた...)

▶︎今のこの世界的な状況、どう見てる?

 今、私たちは本当に面白いときを生きているよね。日本でもきっと同じなんだろうと思う。みんなが家族単位や個々に戻り、膨大な時間と向き合っている。ホームスクーリングをしていた家族だけじゃなく、みんなが家で、子どもと一緒に過ごしている。時間がある今だからこそできること、見えてきたこと、たくさんあると思います。私にとっては、3つあるかな。

1)時間があることの大切さ
 車に乗って遠くに行ったりできないから、時間は自ずとスローダウンする。みんな、ものを買わなくなったんじゃない?あるものでやるって大事だよね。このゆっくりとした時間そのものが、今すごく大事。何が大切だったか、どう生きたかったかをしっかりと考える、いい機会だと思っています。

 これまでの歴史でも、社会は、大きな危機がない限り、変わることができなかった。いま私たちが直面している危機は、戦争でも飢餓でもない。世界が同時に「普通に戻る」という危機を迎えているんです。さあ、ここからどう進む?
 これをいい機会に、これまで通りに戻るのではなくて、意思を持って前に進めるようになりたい。こうした危機の時代には、大企業をはじめ、力あるものがより力をつけてしまうリスクももちろんある。でも、正しい方へ、地球全体にとっていい方へと進んでいかないとね。

2)国民皆医療の大切さ
 そんな中で、すでに基本的真実をたくさん突きつけられているよね。私はカナダに住んでいて、国民皆医療ほか、基本的な社会保障が大事だったこと、痛感しています。皆で皆を守り合うためのこの制度が、実際に本当に役に立っている。隣の国アメリカでは、それがないが故の惨状が起こっている。皆が保険に入っていて安価で医療を享受できる大切さ、そして、誰もが基本的な暮らしを保証されている大切さ、いま痛感しています。これを機にもう一歩進んで、こうやってお互いを守り合うための社会制度を拡充してもいいかもしれない。

3)科学の力、専門家の声の大切さ
 そして、世界を正しく理解することも本当に大切だと学んでいる。科学は必要。専門家って大事。感染症のような分野を研究し続ける人がいたことのありがたさ、理論や秩序に価値を置く人々がいることのありがたさを、いま実感しています。
 これまでも、科学者たちは地球環境の危機をいろんな形で訴えてきた。でも「そんなこと関係ない」「間違っている」なんて言って耳を貸そうとしなかった人も一定数いた。けれど、彼らの声を聞き、行動するのは本当に大切なこと。

 こうしていま、私たちがコロナ危機の間に学んでいることを、どうか実際に使っていくことができますようにって思います。

 世界中で、政府に伝えていきたい。私たちが欲しいのは、これまでとは違う「普通」であり、未来だということを。

インタビューwithセヴァン・スズキ②に続く>

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サステナ*デイズの5回目の音声はこちらで聞くことができます!https://park.gsj.mobi/voice/show/19302



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