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神社にまつわるエトセトラ

私には、毎月1日のルーティンがある。
その一つは、近所の神社に行くこと、だ。


はじめに断っておくと、私には特定の信仰はない。
お正月は神社に初詣に行き、お盆には墓参りに行く。クリスマスにはケーキを食べる。
後に、離婚することになったが、結婚式では白いドレスも着物も着た。
色々な習慣が混ざったごく普通の日本的な生活を送っている、と自分では思っている。


仕事でアメリカに派遣されたことがあった。
現地で親しくなった友人は熱心なプロテスタントで、教会にも連れて行ってくれた。

そして、私に特定の信仰がないことに驚かれた。
「じゃあ、何に祈っているの?」

はじめて聞かれた質問だった。

わたしは、何に祈っていたんだろう……。
神様、仏様、ご先祖様、全てのものに宿るという八百万の神様。
自分の力が及ばないことをそれでもお願いするとき、頭にうかぶ全てを総動員してお祈りした。
じゃあ、食事の前に手を合わせる時は?
仏壇で手を合わせる時は?
星を見て手を合わせる時は……?

「なんか大きな存在っていうのと、日本には、全てのものにスピリットが宿っているという考えた方があるから、それかな」
そう答えると、友人は「その考え方、分かるかも。好きだわ!」と言ってくれた。


特定の信仰がなさそうな日本ではあるが、神社は全国に約8万社もあり、その数はコンビニのなんと1.5倍。
何とも身近でコンビニエントなお祈りスポットである。

すこんと空が抜けているのがいい。
季節の花や木々の表情がいい。
樹齢の長い大きな大きな木があるのがいい。

昔から、多くの人がお祈りに来ていた場所。そう考えるだけでもなんだか尊い気持ちになる。
日本人は、意外と信仰心が強いのかもしれない。


1日に神社へお参りすることを朔日参りという。
同じような習慣を持つ人、会社単位で来る人々もいて、この日の境内は、静かに穏やかに、しかしひっきりなしに人が訪れていて、活気がある。

いつからルーティンになったのか、正確には覚えていない。
しかし、1か月の始まりの神社参りは、心を新たに気が引き締まるし、いいリズムができるような気がして、続いている。
1日が旅行の時は、滞在先の地元の神社へ挨拶に行くようにしている。


神社へのお参りで、私のひそかな習慣であり、大好きな瞬間がある。
それは、二礼二拍手一礼のお参りの直後、一瞬くるりと振返りその景色を見ること。

「神様はこんな景色を見ているのかな」
そんな想像をしながら、私は神様が見ているかもしれない景色を少しだけ目に焼き付ける。

キラキラと日が差している。
心地よい風が吹いていて、木々の葉をやさしく揺らしている。
木漏れ日の影は瞬間瞬間に表情を変える。
目の前の道は、いくつかの鳥居を抜け、そしてその先の参道までまっすぐ見える。
今まさにお参りにくる人々。その先にひろがる街、生活音、営まれている暮らし。

お参りに来る前にどんな気持ちを抱えていたとしても、
今来た道が、日常が、世界が、健気に美しく愛おしく思えるから不思議だ。


目線を変えることは、普段気づかなかいことを気づかせてくれる。

その景色を見続けるうち、いつしか私は“神社のような人”になりたいと考えるようになった。

こう言うと、訊いた相手はたいてい疑問符をたくさんつけた顔をする。
もっと言うと、「大丈夫かよ」と心配される。
(私はいたって正気だし、本気である。)

神社のようなとは、つまり、こういうことだ。

神社は、
いつも清潔に掃き清め、場を整えて、
誰に対しても等しく戸を開き、
そしていつも同じような穏やかさで接している。

感謝や切実なお願い、時には予期せず身に起きたことへのいら立ちなどを吐露されていたりするかもしれない。

それでも、365日、同じように同じ心持ちで、来るものを拒まず、迎え入れ続ける。

その安心感たるや!

雨の日も風の日も、そんなふうに在れたら。
そんな境地にいつかたどり着けたら。
それは、とても素敵なことだろう。


そんな、神社へのお参りで最近気になっていることが一つある。

はじめて伊勢神宮に行ったときのこと。ガイドの方の解説付きでお参りした。
日本の一番の神様であるお伊勢さんで、「神社へのお参りでは並ぶ必要がないよ」と教えてくれた。

「ようお参りくださった」
そう迎えてくれている神様だから、どの場所からのお参りだって等しく届いているよ。

言われてみればそのとおりだと腑に落ちる。

一人とか、家族単位とか、一組ずつ並んでお参りする。そんな列が長いときは、クイック式にごあいさつすることもある。

私たちは私たちの神社をもっと信頼していい。


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