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《本》 深く、しっかり息をして

川上未映子さんのエッセイを読んで。

この本は表紙が大好きな、てらおかなつみさんのイラストだということで販売前から気になっていた。本は読むことが好きだし、内容が一番大事だとは思うんだけれど、本という物自体も好きなので、デザインや紙質が好みのものだと、とても嬉しい。この本は部屋に飾っておきたくなるほどに好き。

部屋のスペースが限られていることと、持ち運ぶことを考えると文庫本が好きだったんだけれど、最近は単行本の良さに惹かれている。前にチェルミコのレイチェルが大きい本は最高、というようなことをツイッターに書いていたことを思い出す。単行本ってなんだか特別感があるよね。



ある時、別の本を買う予定があり本屋へ行ったところ、この本を見かけた。しかもそれが、サイン入りラスト一冊だったので、これはもう運命では?と思いすぐに買うことを決めた。その日の買い物は自分へのご褒美としての位置付けだったので、ぴったりなものに巡り会えてすごく嬉しかった。

主に、夜お風呂に入った後の静かな時間帯に、ゆっくり時間をかけて読んだ。未映子さんの言葉は柔らかく、優しさがにじみ出ていた。そうそう、と共感するような言葉も多い。その中でも、特に好きだった文章がある。


“つまり、読書というのは、どこまでも言葉と自分の心との何かしらの行き来であり運動で、彼女が思わず書き手を前にして泣いてしまうのは、そのご自身の日々の感受性の運動の、なんというか純粋な余波みたいなものなんじゃないかと思うのだ。”


本を読むということはそういうことで、その本に書いてある文章と自分の心の中を照らし合わせて、考えて、癒され、何かを得て、心が動いたりするものなんだと思う。それが深くなればなるほどに、作品や人に対する思い入れは強くなる。

なんだか分からないけど、涙が溢れてしまう。私は作家さんにお会いしたことはほとんどないのだけれど、それは音楽でも同じことだなと思う。

ライブを見に行って、悲しい曲はもちろん、楽しい曲なのになぜか涙が出てくる経験を何度もしているから、よく分かる。その時の感情ももちろんあるけれど、それまでに積み重ねてきた感情が呼び起こされて、溢れてしまうのだと思う。

そういうことを、自分のサイン会に来てくれた女の子が泣いてしまう様子から汲み取り、文章にしてくれる未映子さんに、優しさと愛情を感じた。


本の内容にもあとがきにもあったけれど、なんだか調子が良くないな、と思う時は、いつの間にか呼吸が浅くなっているらしい。自分では意識できていないのだけれど、もしかしたら私もそうなのかもしれない。

これからは呼吸を意識して生活してみよう、と思う。

と同時に、これから本棚に並ぶこの本の「深く、しっかり息をして」というタイトルがふと目に入ることで、そのことを思い出させてくれるんだ、未映子さんがそう言ってくれているんだ、と思うと、なんだか心強く感じるのだった。


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