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《映画》 もう一度花束を観たら

昨日、最高の離婚の話を書いたけれど、今日の朝に聴いていたPodcast ゆとたわ がちょうどたまたま、映画「花束みたいな恋をした」について話している内容の回だった。それがすごく面白くて、うんうんと聴いていたらいろいろと思い出してきて、また観たい気分になったので、そのままテレビを付けて映画を観た。


この映画は坂元裕二が脚本を書いていて、公開当時に映画館へ観に行った。公開は2021年1月で、今から約2年半前。

当時の私の感想は、うーんこういうことってあるよね、でも麦くんは仕事が忙しくなったからといって今まで好きだったものに興味が湧かなくなるなんて、本当に好きだったのかな?チケットを取ったのに行くのをやめる、または忘れてしまうなんて、私は絶対にないな…。あとは穂村弘さんやceroの髙城さんなど好きな人たちの名前が出てきて嬉しい、というような感じだった。

固有名詞が本当にたくさん出てきて、それは分かるものもあるし分からないものもあるけれど、だからこそ多くの人が自分の人生と重ね合わせやすかったのかな、と思った。それがあまりにも多かったからか、公開当時の感想が結構割れていた印象もあった。


私にとって、他の坂元作品と違ってそこまで刺さらなかったのはなんでだろうと思っていたんだけど、自分に近いところにいる人たちの話だからこそ、リアルに感じられなかったからかもしれない。映画なんだから、リアルを求めているわけではないんだけどね。

それまでの坂元作品の人たちって、いそうでいないというか、キャラクター性が強くてあくまで物語の中の人たちという感じがするけれど、この映画の人たちとはその境界線が薄いというのか、固有名詞が出てき過ぎるからこそ、現実と混同してしまうところがあるのかもしれない。


例えば、絹と麦の出会いについて、偶然出会った人が同じ趣味を持っていたとしたらすごく嬉しいのは分かる。けれど、趣味がぴったり同じだったとしても、もう少しお互いの話をしないかな?と思ってしまう。

作品についての話をするのはすごく好きだけれど、話をしたいのはその奥のことで、相手がどう思っているかとか、価値観とか、そういうところなんだよね。

と書いて思ったけれど、これは大学生の話で、周りに同じような仲間がいなかったら、そういう人に出会ったということだけで運命を感じてしまうものなのかもしれない。良くも悪くも、人として、ということを考えなくても楽しく暮らしていけるのが、学生というものだもんね。

単純に、共感できる年齢を過ぎてしまっている、というだけなのかもしれない。


今もう一度観て思ったことは、麦はパズドラしかできないほどに疲れ切ってしまっていて、それって結構危機的状況なんじゃないかということ。家でもずっと何かをしているし、休んでほしいね。

一人で上京している麦は、父親から実家に帰ってこいと言われてしまう。東京に残るためには、やりたくない仕事でもやるしかない、という状況になってしまっている。会社の男性社会のストレスというものもありそうだし。

ワンオクを“聴けます”と言ってしまうのも一種の戦闘態勢というか、自分を強く見せてしまうというか、いろいろな面で麦くんは自分と、社会と、戦っていたんじゃないかな、と思うんだよね。でも自分の考えを人に押し付けるのは良くないね。そういう精神状態だったんだろうけど…。

一方で絹は、帰ろうと思えば帰れる距離に実家があり、そういう後ろ盾があるからこそやりたいことにチャレンジしていけるし、その時はその時、という楽観的な気持ちにもなれる。そこに全てがかかっていない。そして同じように趣味を楽しめなくなってしまう麦くんにズレを感じてしまう。


好きなことをして生きていきたい絹と、それだけじゃダメだと思っている麦。どちらの気持ちも分かる。これって誰しもが思うことであって、決して悪いことではない。

お互いに悪いわけじゃないのに、環境の変化と、バックボーンと、いろいろなことがすれ違ってしまっている。そこを埋め合わせるものって会話しかないんじゃないかな、と思う。そういう弱い部分を話したり、どう思っているかを話したり、確認し合ったり。趣味が合うだけでは、楽しいことの話だけでは、いざという時に助け合えないから。


絹と麦の若い時の会話、若者の斜に構えた話し方ですごく良かったね。あ〜やっぱり若い時ってみんな尖っているよな、って。それが二人が付き合い始めると、丸くなっていくのが良い。あと、別れ話をする時になって、ようやく本音の会話ができるようになるのが、これまた良いよね。そういう、本音の会話ができるかどうか、っていう相性もあるんだろうなあ。信頼関係が築けるかどうか、というね。

大豆田とわ子のお父さんや美玲さんが出ていたり、エルピスの村井さんが出ていたり、古川琴音ちゃんが出ていたり、当時は気がつかなかったことがよく分かって、楽しかった。


当時映画館で観た時よりも、今の方が面白く感じたのは、やっぱり分かることが増えたからなんだろうか。昔観た映画を振り返って当時の気持ちと比べるのも、楽しいね。

いろいろと振り返っていたら、これは坂元裕二から若者への、頑張っているね、っていうエールなんじゃないかな、と思えてきた。


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