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自分が、友達にかけたい言葉

電話に出ると、
彼女の、鼻をすする音が聞こえた。

「大丈夫?」

ひくひくと嗚咽しながら彼女は答えた。

「今ね、彼氏とね、別れてきた、、、
ふられた。向こうから来たのにね、結局、
ふられた。勝手だよね。
本当に好きだったのにね。辛い。辛い。」

「うん。」

「ああしてればよかったかなとか、
こう言ってれば良かったかなとか考えるの。
私が重すぎたのかな?初めてのお泊まりの時に、、もっと私、彼の好きな女性だったら良かったかな?」

「、、、。」

私は、彼女にかける言葉を必死で考えた。

意味のあるものにしたかった。
表面だけで彼女を包み込むようなものじゃなくて、
自分が、彼女の中に入って、
傷口をちゃんとふさいであげられるような、
そんな言葉をかけてあげたかった。


私も、だいぶ前、
彼女と同じようなことになった。
恋愛なんてするまでは「失恋」でそこまで
人生の終わりみたいになる人の気が知れなかった。

でも、いざ自分がなってみると、
本当に終わりが来たかと思った。

その瞬間は、空気が体に入ってこない
息苦しさを感じて、
ただそこから離れるように歩いた。
立ち止まったら新宿の真ん中で
泣き崩れるような気がして。

彼女と同じように、
「自分がもっとこうしてたら
うまく行ってた」と責めた。

悲しいのか、悔しいのか、
寂しいのか、虚しいのか、
なんで泣いてるのかも分からないけど
涙を我慢してるせいで
喉の奥の方が痛くなるのを感じながら
歩いて歩いて、
友達の肩を借りにいった。

友達は、何も言わずにお水を飲ませてくれて
ぎゅっと静かに抱きしめてくれた。
友達の暖かさが力を抜いてくれた。
私とそんなに体の大きさの変わらない友達なのにすごく大きく感じた。


「、、、、るかな?」

電話の向こうの彼女の姿を、少し前の
自分と重ね合わせながら思い出しているうちに。
少しの間、受話器から意識が遠くなっていた。

「ん?」

「彼のこと、忘れられるかな?」

Bartlett(1982)っていう人が認知心理学の世界で考えたスキーマっていう概念がある。
人は、相手の話を聞いて理解する時には必ず
自分の経験してきたもの(スキーマ)と重ねて、それを通して、考えたり意見したりする。

それはある意味では、自分の知っている範疇でしか意見が言えないっていうことになる。
だから、こんなに傷ついてる友達に、
勝手に恋愛のことなんてそんなに知らない私が
返事をしていいのか分からなかったけど、
答えた。

「ううん。忘れないよ。
一度は好きになった人だからね。
でもいつかね、『あなたが居なかったら、
今の自分もいないし、今一緒にいる人とも居られなかった。本当にありがとうね。』
って前向きに思う時が来るよ。
なんでかはよくわかんないけど、人生上手いことできてて、不思議と自然にそういう日が来るよ。
だから、今はその悲しい気持ちとかは大事に、
泣きたかったら泣いたらいいと思うよ。」

「うん、そっか。ありがとう。」

そう言うと、
電話の向こうで彼女は
また、たくさん泣いていた。

自分の知っている範疇でしか話せない、
せまい、小さな意見かもしれないけれど、
自分の知っている範疇で話すことが
時にはとてもリアルで、説得力があって、
距離が近くて、暖かいものかもと思った。

友達ってそのためにいるのかも。
正しい答えを言うよりも、
もっと生身の新鮮な
言葉をかけるためにいるのかも。

彼女の梅雨も明けますように。


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