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緑かピンクかブルーのなんかがほしい私なんかの眉は金色

昨年暮れ、直属の上長から突然呼び出された。

「最近のあなたは別人のよう。生気がなく、思い詰めたような空気を纏っている。心配になり話しかけるといつものあなたなのだけれど。どうした、何があった」

何か言わなくてはと必死に頭を回転させようとした。
けれど追いつかず、濃く出過ぎた紅茶のティーパックに視線を落とし、目の前の白い紙カップの産毛のように微かな毛羽立ちを見つめ、ベージュの壁と上長の下瞼に光るラメとの間を見つめたり逸らしたりした。
喉を震わせ声を発しようとしたが一言も出てこなかった。
平日15時のクリスピークリームドーナツで泣いた。
すぐに言語化できない自分がただただ恥ずかしく、悔しかったからだ。

わたしは本当に、思いを伝えるのに時間がかかり過ぎる。

仕事だから生活のためだからと割りきってそこそこに働いているつもりだったが、元来の完璧主義がことごとく邪魔をする。
置かれた環境を生かしきれずに不完全燃焼な自分に、猛烈に腹が立った。

それが言葉より先に態度に出てしまっていたのだろう。
情けない気持ちでいっぱいになった。

色々なことに対する時間をつくっていないだけなのに「時間がない」と誤魔化し続けてきたから、結局のところ、自分が何をしたいのか、何になりたいのかまったくわからない。


これまでの人生、自分をきらいになったことはなかったが、正直、社会人になってからはずっと、自分のことがだいきらいだ。

一日何も食べなくても平気かと思えば、縮みきった胃に食べ物を詰め込んで体調を崩し、絶望的に夜眠れなくなった。
1月は温かい食べ物を一切受け付けられなくなり、休憩中は味のしない生野菜と栄養剤だけを買いにコンビニへ走った。
2月は乗換駅の立ち食い蕎麦屋から流れる鰹出汁の匂いに吐きそうになり、ホームで踞ったまましばらく動けなくなった。

温かい食事と空間を提供しているわたしのからだは、すっかり冷えきっている。
そんなことをぼんやり思いながら、連日の水仕事と火傷でボロボロに荒れた手で、鏡に映る眉の色をうすく綺麗に抜く。

いまのわたしは何者になりたいのかずっと考えている。
考えてもわからないけど、考えないよりはいいような気もする。


そういえば、結局一度も会えなかった人から「あなたに会えるならちょっとくらい無理します」と言われたことを思い出した。
わたしは本当に、思いを伝えるのに時間がかかり過ぎる。

優しくない嘘をつく人が、わたしはだいきらいだ。

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