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ドーナツポケット


彼はぴったりとハマるものを探し続けている。


体のまんなかにぽっかり空いたまぁるいポケットを埋めようと必死になっているのだ。この世は、ドーナツポケットと呼ばれ、体の真ん中にぽっかりと穴が開いている。それは皆同じだが、大きさや形は微妙に違う。
「あぁでもない」「こうでもない」と、目につくものに手を出しては、スコーンと抜け落ちてしまう。「これはハマりそう!」と思ったそれは、しばらくするとすぐにまた、ひっそりと消え落ちていた。

「早くうめなければ。」

このポケットが空いたままでは不安を抱えて生きている彼だったが、今日、ぽっかりとあいた穴を忘れていた瞬間があった。そしてその瞬間は増えていった。
それは、あつあつの小籠包を食べたとき。
それは、海に行き、波の音、風、水の冷たさを肌で感じたとき。
寒さからふらりと入ったカフェで、ほっと紅茶を飲んだ瞬間・・・。

うまらない隙間をうめることに必死になっている間に、いろんな感情を味わうことを忘れていたようだ。暖かさ、冷たささえも。体があるから感じることができた。
「何をあんなに必死になっていたんだろう?」と彼は暖かいコーヒーをすすりながら窓の外をみつめた。ドーナツポケットが周りと比べて大きい気がして、自分にぴったりの何かを探し回っていた。そう、外にばかり目を向けていた。

彼は気づいた。

「僕にはカラダがある、感じるこころがある、ぽっかり穴はあいていてもどこに目を向けるか?が大切なのだ!!」
そこから彼は、うまらない何かを追い求めるよりも、ドーナツポケットを忘れられるほど今を感じることに集中しはじめた。
きれいなものを見て、すきな音楽を聴き、あつあつのモノを食べて、冷たい風にあたり自分の体を抱きしめながら、海辺を散歩した。

いつのまにか・・・体の真ん中にあいたまぁるいドーナツポケットは見えなくなっていた。


読んでくださりありがとうございました。
このおはなしはフィクションです。

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