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NBAのHCが出すプレーコールの特徴について

自己紹介

こんにちは、Aim lowのテツロウです。NBAチームのボストン・セルティックスで元スカウトのインターンとして働いていて、現在はアメリカバスケ好きの兄のコウと高校生の時に全国優勝経験者のハマダさんとNBA・アメリカバスケのトレンドやニュースについて解説をしているYouTubeポッドキャストをやっています。まだご登録されてない方は是非チェックしてください!

はじめに

NBAの試合で展開されるオフェンスの半分はHCが出すプレーコールってご存知でしたか?

バスケ選手はアメフト選手みたいにマイク付きヘルメットがないので、HCから手や体を使ったジェスチャーまたは声で合図を受けます。前回の記事でも書きましたが、アドバンスドスカウトの仕事は対戦予定チームのHCのジェスチャーやプレーコールを支持する隠語を読み取って、どのようなプレーが行われるのかを見定めることです。ひと目見て、聞いてわかる一般的なプレーもありますが、新たに追加したプレーや合図を変えてくるコーチもいますので、常に変化に対応していく必要があります。

各チームのHCは独特なプレーコール法を持っていて、声だけを使う人もいればジェスチャーで合図するHCもいます。さらにアドバンスドスカウトを困らせるのは、見えにくい状態でプレーコールをしたり、よく分からない行動をとって合図されることです。当たり前ですが、敵にバレバレの指示を出すと読まれてしまいますので、各チームのHCも工夫を凝らしますよね…。

そこで、今回はプレーコールが読みづらいHCと特徴があるHCをご紹介します!そして最後にウォリアーズHCのスティーブ・カーのプレーコールはどこから影響を受けているかを紹介します!

「読みづらいNBAのコーチ」

①クイン・スナイダー氏(ユタ・ジャズ)

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引用:Forbes記事

実際にアドバンスドスカウトだけではなく、自チームのプレーヤーも慣れるまで苦戦することが多いとか。2019年にトレードでメンフィス・グリズリーズから入ってきたマイク・コンリーJrが今年苦戦している一部の理由はクイン・スナイダーの考えるプレーコールをはじめバスケIQを一から覚え直さないといけないからだといわれています。スナイダーが使うフレーズは他のHCと比較してかなり独特なようです。

②リック・カーライル氏(ダラス・マーベリックス)

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引用:Houston Chronicle

リック・カーライルは常にトップティアなコーチと言われています。理由は状況に合わせたプレーコールの選択が絶妙で、各選手の役割をしっかりと理解して意思決定ができる所以です。そして、カーライルのプレーコールが読みづらい理由は簡単で、それは彼が着ているジャケット内でプレーコールをするから。要はアドバンスドスカウトからは一切見れないんです。

③デイブ・イェーガー氏(サクラメント・キングス 2016年 - 2019年)

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引用:Sporting News

元グリズリーズとキングズHCのデイブ・イェーガー。近年ではアドバンスドスカウトの存在を気にせずプレーコールをしているが、HCとなった初期の頃はかなり読みづらくしていたらしいです。わざわざアドバンスドスカウトが座る席の情報を把握し、ゲーム中にはアドバンスドスカウトに背を向けてプレーコールをしていました。

キングズのHCになってからは打って変わってプレーコールをする時に、アドバンスドスカウトを見ながらウィンクするようになったとか。(笑)何があったんでしょうか。

「特徴的なプレーコールをするNBAのコーチ」

①ドック・リバーズ氏(ロサンゼルス・クリッパーズ)

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引用:Orange County Register

元ボストン・セルティックス、現クリッパーズHCのドック・リバーズ。彼の特徴は常にプレーの名称を叫んでいます。そのためアドバンスドスカウトがクリッパーズ戦を偵察しに行く時には、出来るだけドック・リバーズの近くの席を取ることが慣習化しているそうです。

②グレッグ・ポポビッチ氏(サンアントニオ・スパーズ)

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引用:ESPN

スパーズHCのグレッグ・ポポビッチは伝説のHCとしてその名を轟かせています。長いHC経験から生み出された数多くのプレーコールを持っています。彼の特徴は合図などは一切変えませんが、数年前にコールしたコールプレーをいきなり出してくるなど大変多彩であるとか。

あるアドバンスドスカウトからのタレコミですと、スパーズ戦を偵察に行ったところ見覚えない合図でのコールプレーがあったそう。後から見て調べたところ、前回プレーコールされたのは8年前のものだったとのこと。また、手の動きが早く、あまり大声を出さないことも特徴です。ポポビッチ曰く、「聞こえなかった」と言い訳を言う選手を避けたいために手の仕草をメインでやっているらしいです。

例えば、ポポビッチのクロス(Cross)シリーズは胸あたりに腕を十字架(クロス)にして表現しています。また、リフトと言うプレーは頭をタップします。ロールというサイドラインのピック・アンド・ロールを指示するときは、トラベリングの合図と似ています(何かを巻いているように見えるので)。その他には、ラブ(Rub)というものもあります。直訳すると「撫でる」という意味なので、ポポビッチがネクタイを撫でている時はこの「ラブ」をプレーコールしていると思ってください。さらには、親指を下に向けて指を四つ見せると「サム・ダウン・フォー・アイス」(Thumb Down 4 Ice)というコールプレーが指示されています。これは2007年のキャブズ戦とのファイナル戦でよく見られたティム・ダンカンのアイソレーションをさせるためのプレーコールでした。

ポポビッチのプレーコールの多さと手の仕草に常に注目しないといけないことは選手としてかなりタフな状況を作っていて、ベテラン選手でも苦戦するらしいです。。。

③トム・シボドー氏(ミネソタ・ティンバーウルブズ 2016年 - 2019年)

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引用:Bleacher Report

元シカゴ・ブルズとミネソタ・ティンバーウルブス監督のトム・シボドーはスカウトのことは一切気にしていません。彼は基本的に「声」で選手とコミュニケーションをしていますが、声の大きさが半端ないんです。(笑)

それはなんとテレビを見ていても聞こえるぐらいの声量。特にディフェンスしているときに「アイス!」と叫んでいる姿を見かけますが、「アイス」はピック・アンド・ロールの守り方の一種で、ボストン・セルティックス時代にシボドーが有名にさせたディフェンス方法です。

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引用:Words on the Bounce

アイスの基本はボールを持っているプレーヤーを出来るだけコートの中心から離すこと、いわゆるサイドラインに誘導させること。シカゴ・ブルズ時代のトム・シボドーはこれを完璧にこなしていました。

NBAではピック・アンド・ロールの守り方が6つあると言われています。(アイス、ドロップ、ウィーク、ヘッジ・アンド・リカバー、ブリッツ、スィッチ)

その一つを作り上げたのはトム・シボドーだった。

④スティーブ・カー氏(ゴールデンステート・ウォリアーズ)

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引用:Bleacher Report

ウォリアーズHCのスティーブ・カーは他のチームと比べてコールプレー数が少ないことが特徴です。ウォリアーズは選手のアドリブでプレーさせることが多く、相手チームからすると何がくるかが全く読めないので止めるのが難しいと言われています。数が少ないとは言いつつも約100種類のプレーコールがあります。

その中でも面白いのが「What the fuck」と言うプレー。名前から既にプレーっぽく聞こえないのですが、実はこれはあのフィル・ジャクソンHCがシカゴ・ブルズ時代にやっていたアウト・オブ・バウンズのプレーなんです。このプレーコールを支持しているスティーブ・カーは肩を竦めておとぼけ顔をしているので、普通のファンから見るとカーが呆れたのかと思います。(笑)

ただ、実は全くの逆でかなり力をいえて指示を出しているんです。

ウォリアーズのHCスティーブ・カーが影響を受けたコーチとは?

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引用:Golden State Warriors Set Plays

そんなスティーブ・カー氏のプレーブックを見てみましょう。他チームと比較するとまだ少ないですが、ウォリアーズでは約100以上のプレー数があります。カーはどんなコーチから影響を受けて、プレーブックを作っているのでしょうか。以下紹介するのはウォリアーズのプレーコールの一部ですが、ほとんどは一つのプレーコールの中の「シリーズ」で、幾つかのバリエーションがあることが特徴です(例:ループシリーズは数プレーあると言われています)。

まずは「ストロング」と「ウィーク」についてです。サンアントニオスパーズのHCであるポポビッチ氏が有名にしたコンセプトで、ポポビッチの元にいた多くのコーチ(=クローン・ポポビッチ組とも言われます)は一つのオフェンスに対して少なくとも二つオプションを作ります。
例えばモーションオフェンスでも「ストロング」と「ウィーク」バージョンを持っていることが基本で、それ以外にループ(Loop)シリーズ、ウェッジ(Wedge)シリーズ、ラブ(Rub)シリーズなどは完全にポポビッチの元で学んだ影響でしょうね。

ウォリアーズのアシスタントコーチであるアルヴィン・ジェントリー氏はドック・リバーズ氏の元で働いてため、「ドリブル・ドラッグ・バックドア」(Dribble, Drag, Backdoor)を取り入れていることが多いです(これは場合にDribble, Drag, Pindownとも呼ばれている)。それ以外にもドック・リバーズ氏のスライス(Slice)シリーズも取り入れていることが伺えます。

その他はピストル(Pistol)シリーズはマイク・ダントニ氏から学んだと言えるでしょう。
フロッピー(Floppy)シリーズは、NBA全体で浸透しすぎているので割愛します。

スティーブ・カーのプレーブックを見て面白かったのは、シカゴ・ブルズ時代の恩師であるフィル・ジャクソン氏の影響をほぼ受けてないことです。
アウト・オブ・バウンズプレーぐらいではないでしょうか。
この点からもカーの中で、ポポビッチ氏の影響がどれだけ大きいのかが分かりますね。

次回記事

上記でご紹介しましたプレーの詳細は次回パートの「これだけ覚えよう!NBAのベーシックなコールプレー10選」にてご紹介致しますので、お楽しみに!

Aim lowメンバー自己紹介

ハマダ
スラムダンクの再放送世代として、小学校3年生からバスケを始める。小学校4年生より京都府の代表として、全国大会に出場。最終学年ではキャプテンを務める。中学校では一人暮らしをしながら東京へ。東京代表に選ばれる。高校では地元京都に戻り洛南高等学校に。最終学年で全国優勝を果たす。現在でも京都、東京でアマチュアチームに所属しています。

コウ(YouTube上ではピンクのブタです)
幼稚園から小学1年生までアメリカに住んでいた。その時、夏のバスケキャンプに参加。小2から日本に戻り、小学3年生からYMCAでバスケを始める。小6の時は市選抜と県大会を経験。中学、高校は学校のチームでプレイ。高校1年の頃からNCAA(アメリカの大学バスケ)の情報をほぼ毎日チェック。大学からはアメリカに留学し、遊びでバスケをやる。でも体格差があるのでよくオフェンスから狙われる(笑)。今はソフトウェア・エンジニアをしながら月に2、3回バスケを遊びでしてる。

テツロウ
兄であるコウの影響でバスケを6歳から始める。小学生の時にはYMCAで全国優勝を経験。高校からアメリカに留学して圧倒的なスキルの差を感じる(笑)。ボストン近辺の大学在学中に現ボストン・セルティックスのGMであるダニー・エインジに会い、セルティックスでスカウトのインターンとして採用してもらう。今はIT・ベンチャー企業で投資・スタートアップ活動をしながらバスケの分析を遊びで行っている。

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Written by Tetsuro | Edited by Ko and Yusuke

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