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NBA業界で最も辛い仕事「アドバンスドスカウト」とは!?

自己紹介

こんにちは、Aim lowのテツロウです。NBAチームのボストン・セルティックスで元スカウトのインターンとして働いていて、現在はアメリカバスケ好きの兄のコウと高校生の時に全国優勝経験者のハマダさんとNBA・アメリカバスケのトレンドやニュースについて解説をしているYouTubeポッドキャストをやっています。まだご登録されてない方は是非チェックしてください!

はじめに

NBAの各チームを支えるスカウト。その中でもチームの勝利を呼び込むために不可欠なアドバンススカウトに密着してみた!

アドバンスドスカウトとは?そして何故チームにとって重要なのかを探りながら、彼らの役割などについてまとめてみました。ちなみにこの回は以前動画とポッドキャストにて説明もしているので、ご興味ある人はそちらをご覧ください!

NBAスカウトの種類

NBAでは二種類のスカウトがいます。

一つ目は選手を見て自分のチームにフィットするか判断するパーソネルスカウト(Personnel Scout)。そしてもう一つは相手チームを偵察してゲームプランを作るアドバンスドスカウト(Advanced Scout)です。NBAではどちらも重要ですが、実はアドバンスドスカウトが最も辛い仕事と言われているんです…!

パーソネルスカウトの役割

パーソネルスカウトはパワプロやスポーツでよく聞く一般的なスカウトのことです。

プロに入り前の選手に偵察しに行き、スタッツやスカウトレポーティングを行い、自チームのシステムやカラーにフィットするか判断する人です。
私も実際ボストン・セルティックスで勤務していた時は、大学生選手のリサーチ業務やヨーロッパチームに在籍している選手で、今のセルティックスに必要な条件を満たし、且つNBAで活躍できそうな選手をリストアップしていました。

アドバンスドスカウトの役割

アドバンスドスカウトは言わば「偵察の特殊部隊」です。

シーズンの最中、近々で対戦する相手チームを偵察しに行き、繰り出すゲームプランやプレーコール(セットプレーのことです)を記録してヘッドコーチ(以下HC)やアシスタントコーチへレポーティングするスカウトです。
特に全チームのHCを見て、プレーコールとその指示の出し方、クセなどを見ています。

また選手の調子や傾向、強み、弱みなど対戦予定チームに勝つためのあらゆる情報を観察しています。

次のスーパースターを探すパーソネルスカウトとは違い、自チームのHCやアシスタントコーチが対戦相手に向けた戦略設計のために情報取得をすることが求められています。

アドバンスドスカウトのキツイ生活…

NBA業界内ではアドバンスドスカウトが最も辛い仕事と言われています。
それはなぜか?

おおよそですが、シーズン毎に130〜180の試合を観察しています。
しかも、全てアウェーの試合です。そのため、アドバンスドスカウトは常に飛行機で全米を飛び回っているんです…。

NBAの各チームは専用の飛行機を所有していますが、アドバンスドスカウトは2日〜5日後に対戦する相手チームの試合を偵察しているので、チームとは一切行動しません。一人で行動することが基本で、毎シーズンに約150〜190フライト(10万マイルは軽く超えます…マイルが溜まって仕方がないですね…)しており、年間200日ほどはホテル生活です。

朝一に移動。そして夜中まで仕事。これが日常茶飯事なんです。
余談ですが、部屋のデザインを変えないマリオットホテルに泊まることが多く、たまに起きてどの都市にいるか分からないこともあるらしいですよ。(笑)

アドバンスドスカウトの1日の流れはこのような形になっています(一例)

移動時間(6:00〜15:00)
飛行機とレンタカー移動が多いです。昼前ぐらいまでに次の都市に着くことが重要。アメリカは広いので、場合によっては6時間のフライトも。日本とは違い、アメリカの場合は電車システムが良くないため、レンタカーを借りて車移動することも多いです。14〜15時ぐらいまでにホテルにチェックインすることが目処となっています。

準備と試合会場への移動(15:00〜18:25)
試合前には対戦予定のチームのスタッツやレビュー、過去のプレーブック(プレーコールをまとめたメモのようなもの。数百種類に及ぶチームもあります…)を振り返ります。さて、いよいよ車で試合会場へ移動します!

ウォームアップ観察(18:25〜19:10)
各選手の調子や新しいプレーヤーを重点的にチェック!

夕食(19:10〜19:30)
メディア用ルームに用意されている夕食を。昔はシカゴ、ダラス、レイカーズ、サクラメントあたりが一番美味しかったと言われています。何がそんなに差があったのでしょうか?

試合観戦(19:30〜22:00)
対戦予定チームのコーチや選手を観察。新しいプレーコールやどんなプレーコールをどのタイミングでどれくらい使っているか。HCやアシスタントコーチの手の合図やクセ、指示出しの声などを記録します。

ホテルへ(22:00〜23:00)
試合が終わったら大体渋滞があるので30分〜1時間かかることがあります。。。

試合中のプレーを描く、記録する(23:00〜25:00)
まだまだ仕事は終わりません。試合観戦で得た膨大な情報をまとめます。選手やチームの傾向(左から攻めるか、ピック・アンド・ロール重視なのかなど)、場合によっては点差が近い時に誰をファールして試合を止めるべきかなどなど「勝つためのあらゆる可能性とそのプラン」を書き出します。

スカウトレポートをまとめる(25:00〜26:00)
チームのビデオコーディネーター(アドバンスドスカウトはコートサイドから、ビデオコーディネーターはコート全体を見渡せる位置から録画しています)とアシスタントコーチ向けに対戦予定チームのプレーのまとめや試合中で起きたプレーコールなどをタイムスタンプと共にまとめます。これでようやく1日の仕事が終わります。

朝の2:30に仕事を終えて、2時間後の4:30に起きて空港へ移動するケースも多々あります。もちろん移動は基本的に一人ですので、話す相手が少ないということもアドバンスドスカウトという仕事の辛さ。ほとんどのアドバンスドスカウトは自のチームの選手やコーチとは、トレーニングキャンプ以降会えません。

アドバンスドスカウトの仕事とは?

少し重複しますがこのような流れです。

・コートサイドに席を取ります。(あくまでも偵察ですので、チーム負担の経費で賄います)
・ペンとパソコンを持って、対戦予定コーチを盗み聞きします。
・多くのコーチは似たジェスチャー使うためコーチのジェスチャーを特に見ています。またディフェンスでは色(赤、青)を使って指示をすることが多いんです。
・新しいプレーとプレーの頻度を記録します。
・試合が終わったらその情報を自チームのビデオコーディネーターに送ります。
・本社で待っているビデオコーディネーターがSportsCodeと言う編集ツールを使って各プレーをまとめた動画を作り、アシスタントコーチに送ります。(6分〜8分ほどの動画)
・効果的な攻め方や対戦予定チームが苦手とする攻め方などをまとめます。
・その動画は試合当日の朝に行われるシュートアラウンドとゲーム直前に選手が見ます。
・動画は大体トッププレーを二つ見せるのと、その他12〜15個のプレーを紹介している内容。
・朝練ではその半分ぐらいのウォークスルーを行います。

スカウト文化について

他チームのアドバンスドスカウトと情報共有をすることは意外とオープンになっています。これはNBAの文化でしょう。

ホテルのバーでは、他チームのアドバンスドスカウトと会うこともありますが、その時には自分で書き留めたメモを共有をすることも多いんです。
特に若手のアドバンスドスカウトは、メモできなかったプレーや見落としていたプレーなどもあり、そういった場合は他チームのベテランスカウトに聞いたりすることも。

アドバンスドスカウトは報われない仕事?

最もハードスケジュールであると言われているアドバンスドスカウト。
しかし、意外とGMやオーナーからはあまり評価されないのが現状です。
なぜならアドバンスドスカウトの働きが勝利にどれだけ貢献できたのか?など具体的なインパクトが見えないことが多いからです。

一方で、HCやアシスタントコーチからはかなり評価され、重宝されています。

これは当たり前ですよね!

アドバンスドスカウトと話すと、「多くの試合を見れるのは楽しいものの、プレーに集中しているので点差は意識していない。」と語ります。プレーの記録などが優先されるので、エンタメとしてのバスケを見れないんですね。。。

さらに、ここまでお読みいただいた方はお気づきの通り、アドバンスドスカウトは常に次のゲームの準備をしているため、その日に行われた試合の結果はスマホの通知ぐらいでしか見ないんですね。大変重要な仕事ではあるものの、目に見えた成果やそれに伴う喜びを感じにくいんですね。

優勝した時など一時的に歓喜する瞬間はありますが、日々の業務は本当に忙しい。それでもチームのために働くアドバンスドスカウト。本当にすごい仕事だと思います。。。

次回記事について

次回はアドバンススカウトがまとめたベーシックプレーコールの種類とNBAの各コーチのクセやジェスチャーを大公開します!お楽しみにしてください!

Aim lowメンバー自己紹介

ハマダ
スラムダンクの再放送世代として、小学校3年生からバスケを始める。小学校4年生より京都府の代表として、全国大会に出場。最終学年ではキャプテンを務める。中学校では一人暮らしをしながら東京へ。東京代表に選ばれる。高校では地元京都に戻り洛南高等学校に。最終学年で全国優勝を果たす。現在でも京都、東京でアマチュアチームに所属しています。

コウ
幼稚園から小学1年生までアメリカに住んでいた。その時、夏のバスケキャンプに参加。小2から日本に戻り、小学3年生からYMCAでバスケを始める。小6の時は市選抜と県大会を経験。中学、高校は学校のチームでプレイ。高校1年の頃からNCAA(アメリカの大学バスケ)の情報をほぼ毎日チェック。大学からはアメリカに留学し、遊びでバスケをやる。でも体格差があるのでよくオフェンスから狙われる(笑)。今はソフトウェア・エンジニアをしながら月に2、3回バスケを遊びでしてる。

テツロウ
兄であるコウの影響でバスケを6歳から始める。小学生の時にはYMCAで全国優勝を経験。高校からアメリカに留学して圧倒的なスキルの差を感じる(笑)。ボストン近辺の大学在学中に現ボストン・セルティックスのGMであるダニー・エインジに会い、セルティックスでスカウトのインターンとして採用してもらう。今はIT・ベンチャー企業で投資・スタートアップ活動をしながらバスケの分析を遊びで行っている。

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