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ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

BUENA VISTA SOCIAL CLUB (1999)

「ジャズ好き?」
と聞かれて、「たぶん」と答えた。
2001年夏の暑い日、ヴァンセンヌの森の野外音楽堂へつれていかれた。
小さなコンサートかと思っていたら、音楽堂を囲む芝生に何千人という人人人。
中央の席があるところは、チケットを持った人しか入れない。
友達が、チケットを持って先に入っているという。
人を押しのけるようにかき分けて、柵のところまで行く。
警備員と掛けあっているようだが、アンプの調整する音や、人のざわめきで、よく聞こえない。
そうこうしているうちに、誰かが舞台に上がった。
割れんばかりの拍手と口笛、席の上に立ち上がる人、何かを振り回して叫んでいる人。
警備員も自分の位置へ戻ってしまい、私たちは柵の端っこに追いやられてしまう。
しがみつくように人の間から見上げた舞台。

ギターの軽快な音色、トランペットの長い響き、華麗なピアノ、ドラムのリズム、湧き上がる拍手。
そして、スペイン語かポルトガル語か、ラテンの曲調。 高く低く伸びる声。
鳥肌が立つ。

このコンサートが、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブだと知ったのは、終わってずいぶん経ってから。
行こうといった本人も誰のコンサートか知らなかったのだ。
このとき歌っていたのは、オマーラとイブライムだったと思う。
曲もChan Chan や Quizas Quizas Quizasも歌っていたきがするのだけど、
ベサメムーチョしかわからなかった。
でも、その楽しく、何かが揺さぶられる曲や
休憩でオマーラがイスに座ってちょっと疲れたようにしている姿や、
とにかく熱狂的に彼らを愛している観客の熱気に、ただならないパワーとわくわくを感じた。
冷めてしまった恋にも、もう一度火をつけるような、人をくるおしくさせる音楽。

その恋は結局終わってしまったけど、映画はまた素敵なドキュメンタリーだった。
野性的なハバナの街、栄華が過ぎ去ってもまだ種火がうずいているようなキューバのミュージシャンたち。
防波堤を乗り越える波しぶきを浴びて、二人乗りのオートバイが走る。
うらぶれた路地、小さなキッチンのある小さな家。
人生の役割を終えたような老人に見える彼らが、楽器を手にマイクを前にしたとたん
信じられないくらい魅力的な声を、思わず体が動いてしまうリズムを奏でる。
アムステルダムでのコンサート、そして、カーネギーホールでの歴史的なステージ・・・

こういう音楽もジャズと呼ぶのか、不勉強の私にはわからないけれど、
キューバという熱い街から生まれた音楽は、あの夏の切ないもどかしさを思い出させる。


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