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「スモール・スモール・スモール・ステップ」その3

改めて、今回読んだ本はこちらです。

この記事では、いよいよ、本書でキーワードとなっている「スモール・スモール・スモール・ステップ」について触れていきたいと思います。


「スモール・スモール・スモール・ステップ」とは

「スモール・スモール・スモール・ステップ」とは、筆者がこの本の中で定義している言葉であり、「小さな階段をゆっくり上るように、話せる人と場を少しずつ増やしていく」というものです。
子どもによっては、「スモール・ステップ」よりもさらに小さなステップを必要とする場合があるということを表現している言葉となっています。

具体的にイメージする材料として、筆者が監訳した『場面緘黙の子どもの治療マニュアル』より、「両親と話している時を利用して、セラピストと話せるようになるための初期の練習課題」として、いくつかのステップが紹介されています。その中から一部を引用してみたいと思います。

①ドアが閉まっていて、誰もいない治療室で、(ゲームや本読みをしなが
 ら)両親と話す。
②ドアが閉まっていて、セラピストがドアのすぐ外にいる状況で、治療室で
 両親と話す。
③ドアがわずかに開いていて、セラピストがドアのすぐ外にいて、両手で耳
 を塞ぎ、目を閉じている状況で、治療室で両親と話す。

122ページ

「スモール・スモール・スモール・ステップ」において最も重要なことは、それぞれのステップで「場面緘黙の子どもが話している」ことだと筆者は述べています。
さらに、子どもが大きな不安や緊張を感じずに話していることが重要であり、無理に次のステップへ進ませようとすることは逆効果になるとも述べています。

確かに、理想はそのとおりなのかもしれませんが、私の場合は、荒療治で大きな不安や緊張を乗り越えたことで、場面緘黙が少しずつ改善した部分もあると思っています。
そのことに関するエピソードはこちらの記事に書いていますので、よろしければお読みください。

筋トレと同じで、多少の負荷がなければ大きな力はつかないといった側面もあるのではないでしょうか。
場面緘黙の当事者が、「話すことができない」状態から「話すことができる」状態になるためには、かなり大きな力が必要だと私は考えています。したがって、時には「スモール・スモール・スモール」ではない大きなステップを乗り越えなければならない場面にも遭遇するのではないでしょうか。

決して「スモール・スモール・スモール・ステップ」を否定するつもりはありませんが、最終的に場面緘黙を克服するまでには、大小さまざまなステップが存在するのではないかと私は考えます。



「話しかけることができない」を「話しかけることができる」にするためのステップ

それでは、私の場合、どのようなステップが考えられるのでしょうか。
「スモール・スモール・スモール・ステップ」その1で行った実態把握によると、私は、人に話しかける際に大きな不安や緊張を感じてしまい、必要な「報告・連絡・相談」を行うことができないということが分かりました。


なぜ「話しかけることができない」のか

私は、どうして人に話しかけることができないのでしょうか。厳密にいうと、どうして「話しかけることができる」場面と「話しかけることができない」場面があるのでしょうか。その違いはどこからくるのかについて考えてみたいと思います。

人に話しかけることができない理由を端的にいうと、「緊張するから」です。ですが、「緊張すること」に対する対策を考えようとすると、解決策も漠然としてしまいますので、まずは課題をより具体的にしていきたいと思います。


話しかけることができない具体的な場面を考える

私が特に話しかけることができなくて困っている場面を挙げていきたいと思います。
①相手が他の人と会話中の時
②相手が作業中の時
③相手が苦手なタイプの人の時

①と②は場面が似ているので一緒に対策を考えることができると思います。③は③で、個別に考えてみましょう。


どうしたら話しかけることができるのか

私は正直なところ、どうしたら人に話しかける際の不安や緊張を感じずに済むのかは分かりません。
「不安や緊張を感じながらも人に話しかける」という経験を積むことによって、不安や緊張を感じるレベルが下がっていることは感じていますが、ゼロになることはないのだと思います。
私は今でも、人に話しかける際には膨大なエネルギーを消費するように感じます。心が消耗し、疲弊していくのを感じるのです。

自分一人では、人に話しかけるためのステップを考えだすことが難しかったので、健常者であり、社会人の先輩ともいえる両親に意見を求め、一緒に考えてもらいました。


「①相手が他の人と会話中の時」「②相手が作業中の時」に関して

まず、この①②の場合に自分がどう感じるかについて書き出してみます。
・会話や作業を止めては悪いと感じる。
・いなされた時、反射的に心が傷つくので、話しかけるのが怖い。
・返事がもらえなかったら、と不安に感じる。

一つ目の、「会話や作業を止めては悪いと感じる。」に関して、母からは次のような意見をもらいました。

相手の会話や作業を止めては悪いと感じるのは、一見、相手のことを慮っているように思える。しかし、そう考えるあまり、大事な報告・連絡・相談が行えないのであれば、それは組織全体の不利益につながる。会話や作業を止めてしまうという目の前の小さな不利益より、報告・連絡・相談を行わないことによって生じる不利益のほうがはるかに大きい。
つまり、相手のことを慮っているようで、実は自分がどう思われるかを気にしているだけであり、誰の得にもなっていないのである。

それでは、このような場合にはどのようなステップが考えられるのでしょうか。両親と協力して考えだしたステップは次のとおりです。
・会話や作業が終わるのを待つ。
・メモを書いて相手の机上などに置く。
・「お話し中すみません。」「作業中すみません。」と言えば大丈夫だと考える。
・「今、話しかけてよろしいですか?」と聞いてみる。


「③相手が苦手なタイプの人の時」に関して

まず、「苦手なタイプの人」がどんな人かを具体的に挙げてみます。
・評価が厳しい人
・ハキハキしている人
・体育会系の人
・グイグイくる人
私はこういった人がそばにいると、それだけで自分が脅かされるように感じてしまいます。相手がいい人だと分かっていてもです。それは直感的な感覚なので、頭でどうこうできるものではないと思っています。

このことに関して、母からは次のような意見をもらいました。

苦手であることを表に出さないようにし、誰とでも等しく付き合えるよう意識できるといい。むしろ、苦手な相手にこそ笑顔で接することができればなおよい。
また、「この人なら話せる」という人をつくり、その人に話すことができれば道が開けるのではないか。

これらをステップとしてまとめると、次のようになります。
・笑顔を意識する。
・他の人と等しい距離感で接することを意識する。
・「この人なら話せる」という人を見つける。


「話しかけることができる」ためにお願いしたい配慮

ここまでに考えたステップは、主に私自身が努力して乗り越えるステップになっていたと思います。
最後に、職場の方々にお願いできるとなおよい配慮事項について考えてみたいと思います。

・質問や相談など、何にでも対応してくれる担当者を一人でもいいからつくり、信頼関係を構築すること。
・日報や日誌を書かせてもらい、その日にあった困りごとなどについて知ってもらうこと。
・業務の途中や最後にフィードバックの時間を設けてもらい、そこで報告・連絡・相談を行ったり、より円滑なコミュニケーションを取るための対策について考えたりすること。


まとめ

「スモール・スモール・スモール・ステップ」その1では、私が人に話しかける際に不安や緊張を感じるという実態把握を行いました。
「スモール・スモール・スモール・ステップ」その2では、場面緘黙傾向がある大人の私に必要な支援(または配慮)について考えました。
「スモール・スモール・スモール・ステップ」その3では、「話しかけることができない」を「話しかけることができる」にするためのステップについて考えました。

場面緘黙の子どもに対する「スモール・スモール・スモール・ステップ」では、子どもが大きな不安や緊張を感じないことが重要視されていましたが、大人の私が働く場面では、職場での成功体験を積み、不安や緊張を少しずつ減らしていくということが重要なのではないでしょうか。

今回考えたステップが、階段を上るように順調に達成できるかは分かりません。ステップを上れたと思ったらまた下がってしまうこともあると思います。
それぐらい、場面緘黙を克服することは難しいことなのだと思いますし、不安や緊張とはずっと付き合っていかなくてはならないのだと思うのです。
まだまだ苦しい経験を重ねなければならないのかもしれませんが、少しずつ少しずつ、自分のペースで自分にできることを増やしていけたらいいなと思います。

長くなりましたが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


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