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場面緘黙エピソード~小学生編~

どうして普通に話せないんだろう
どうして涙が出てくるんだろう
どうしてこんな性格なんだろう
どうして私は・・・どうして私だけ・・・

小学生時代、何度も何度も自問してきた言葉たちです。
私は当時、人前で話すことが非常に苦手で、強いコンプレックスを抱いていました。
小学1年生の時、自分の名前すら言えずに泣いてしまった出来事については、こちらの自己紹介の記事で書いています。


今回は、今でも強く印象に残っている、小学4年生の時のエピソードについて書いていこうと思います。

宿泊学習

小学4年生の春、学年行事で「宿泊体験学習」というものがありました。山の上の自然に囲まれた施設に宿泊し、さまざまな体験を行う課外学習です。学校によっては「林間学校」と呼んでいるものかもしれません。

教室を離れ、いつもとは違った活動ができるこの宿泊学習。多くの児童にとっては、ドキドキワクワク、楽しみで仕方がない行事だったと思います。
ですが、私の心には、どんよりとした鉛色の暗雲がたちこめていました。


指名

学校行事には、開会式と閉会式がつきものです。はじめの言葉、おわりの言葉、児童代表の話、先生の話などが定番だと思います。
宿泊学習の閉会式では、クラス代表が一人ずつ、目標に対する振り返りを話すという項目がありました。そして、しおりを見ると書いてあるんです。

振り返り 1組 ○○○○
         2組 曖昧と模糊
        3組 ◇◇◇◇

「えっ!?」
私は目を疑いました。
「どうして私なの!?」

私は当時、人前に立って話す時には必ずと言っていいほど泣いていました。自分から手を挙げて発言することも少なくはなかったですし、しっかり話したい気持ちはあるのですが、声を出す前に涙が出てくるか、話している最中に涙が出てくるか、どちらにしろ、泣かずに最後まで話すことはほとんど不可能な状態でした。

ですから、先生にもクラスメイトたちにも、人前でうまく話せない子だと思われているであろうことはいつも感じていました。
私のクラスにも隣のクラスにも、話しながら泣いてしまうような子は、私の他に一人もいません。
おかしいのは私だけ。うまく話せないのは私だけ。
私がクラスを代表してみんなの前で話すなんて、ありえない。


当日

先生はどうして私を指名したんだろう・・・。
私にできるわけがない・・・。
怖い。やめたい。逃げ出したい。

そんな本音は誰にも言えるわけがなく、とうとう宿泊学習が始まってしまいました。それぞれの活動に集中して楽しむことができている時間も確かにありました。ですが、頭の半分は閉会式のことで占められ、心の半分は不安で曇っています。

最終日の午後、隣のクラスの先生に声をかけられました。
「閉会式の振り返りで話すことは考えた?」
「・・・・・・。」
私は黙って首を横に振りました。涙があふれてきます。
「目標に対する振り返りだから、この三つの目標がそれぞれ達成できたかどうかを考えてごらん。」
とアドバイスをしてくれたその先生は、眉をハの字に曲げ、とても心配そうな顔をしていました。


閉会式

そうこうしているうちに、とうとう閉会式の時間がやってきてしまいました。宿泊学習に参加した児童や先生たち全員が、昇降口前に整列します。私の学年は、一クラス30名ほどで3クラスあったので、先生方も合わせると100人近くが集まっていたと思います。

司会、進行を務める児童や、はじめの言葉、おわりの言葉を担当する子、私と同じように振り返りを発表する子は、みんなの前方、段を上がってステージのようになっているところの端に並んで待機します。
静かで緊張感のある雰囲気の中、いよいよ閉会式が始まりました。

司会の子はもちろん、はきはき、堂々と進行してくれています。そして、はじめの言葉も、1組の振り返りも、何の問題もなく、あっという間に過ぎていきました。
私はその間、怖くて、不安で、苦しくて、逃げたくて、精神的にどんどん消耗していました。いっそのこと、目の前が真っ白になって倒れてしまえばいいのに、とか、大地震が起きて閉会式どころじゃなくなってしまえばいいのに、とか、何とかこの状況から逃げ出す口実を探そうともしていました。

ですが、そんなに都合よく気絶したりできるはずもなく、私の名前が呼ばれ、私の発表の番がやってきてしまいました。
100人近いみんなの視線が、私にぎゅっと集中します。私の心臓の音、つばを飲み込む音が、みんなにも聞こえているのではないかと思うほど静かです。

視線と沈黙は、当時の私にとっては、本当に本当に恐ろしいものでした。
視線を感じるだけで、私の体は動かなくなります。
心臓がバクバク鳴りはじめ、顔が熱くなってきます。
沈黙していると、私ののどにはストッパーがかかります。
頭の中に言葉は浮かんでいても、その言葉がのどから先に出ていかなくなるのです。

そんな自分が嫌で嫌で、大嫌いでした。
何か発言する機会がある度、うまく話せない悔しさや悲しさと必死に戦っていました。
だから今回も、逃げ出すわけにはいきません。
ちゃんと言わなくちゃいけないんです。

しっかり言いきりたい。みんなの前でも堂々と話せるようになりたい。
私はありったけの勇気を振り絞って声を出しました。
話す内容にあまり自信はなかったけれど、隣のクラスの先生からアドバイスを受けたとおり、三つの目標に照らしながら振り返りを話しました。

話している間は、どこを見てもみんなの目があって、怖くて怖くてしかたありませんでした。
自分に視線が集まっている恐怖と、自分の声が聞かれている不安から、涙が次から次へとあふれて止まりません。
声はどんどん震えていきます。
それでも、私は途中で話すことを諦めず、泣きながら、震える声で、最後まで言いきったのです。

100人の拍手が鳴り響きました。


その後

ありがたいことに、私の涙を冷やかすような声は一度も耳にすることがありませんでした。
また、閉会式が終わって解散した後、担任の先生が私のところに来て、
「今日の発表、よくがんばったね。とってもよかったよ。もっと自信を持っていいんだよ。」
と声をかけてくれました。

今、思うと、担任の先生は、私の場面緘黙を理解してくれていて、私がちゃんと話せるようになりたくて葛藤していたことも分かってくれていたのではないかと思います。
だから、あえてみんなの前で発表する機会をつくって、私に試練を与え、乗り越えさせたのではないでしょうか。

担任の先生には心から感謝していますし、当時、勇気を振り絞って発表した自分自身にも、「ありがとう、本当にお疲れさま」と声をかけてあげたいです。

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