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失恋して学んだ話 最終回

前回の記事:

私は彼が何を考えているのか分からなかった。
ツーリングが好きだと言っていた。
遠くへ出掛けるのが好きで、空の彼方に憧れてパイロットになったという。
もしかしたら、私はただ単に、誰かにどこかへ連れて行って欲しかっただけなのかもしれない…。
どこか、遠くへ。
この息苦しい世界から連れ出して欲しかったのかもしれない…。



私は彼と逢う。4回目。
しかし日付がうまく合わず、就職活動で忙しい中無理やり時間を作った。
一通送らなくてはいけない書類があったため、夕飯を軽く済ませて帰らなくてはいけなかった。
この日はあまりオシャレができなかった。
髪の毛もストレートにできなかった。
全然ダメだ…。私、全然可愛くないよ…。

本当はアパートへ招待してご飯を作ろうと思っていたが、彼から今日は有楽町でご飯しましょうと言われた。

有楽町で彼に会う。
緊張していた。
今日は伝えるのだ。
私の気持ちを。

有楽町の、雰囲気の良い日本食屋さんへ向かう。
食べるところが個室になっていて、二人きりで話しやすい場所だった。
落ち着いていて静かだ。
この日はお酒を飲まなかった。

私達はしばらく2週間で起きた出来事を話す。
ウェイトレスさんが来て、お魚のお造りを持ってきてくれた。

「私ね、地方のゲーム会社で内定もらえたんだよ。」

「そっか、でもその調子でもっと色々受かるといいね。」

「うん。できたら、東京で働きたいしね。」

「あ、今、田舎を馬鹿にしたな~。」

「え~違うよ。ところで名古屋どうだった?」

「…忙しかったよ。」

話している間、ずっと寂しかった。
何で?何でだろう…。

「あのね、2週間前の話しなんだけど…」

空気が重くなる。

「私、ハルキさんと付き合いたいと思うよ。
ハルキさんのこと…好きだよ。」

「あの…俺もね、2週間色々考えていたんだけど…。」

あ…知っている。
私知っているよ。貴方が今から何を言うか。

「俺…彼女…要らないなぁって思って。」

「…要らない?」

ずきん。ほら。

「訓練に集中したいなって思って…。」

ずきん。言ったでしょ。

「そっか…。うん、分かった。
じゃあ、これからは友達でいよ。
それで全然いいと思うよ。
私は就職活動頑張って、ハルキさんは訓練頑張って、お互い目標に向かって邁進していこうね。」

身体が震えていた…。
ハルキさんの手も震えていた。

でも大丈夫。何も壊れてない。
ただ、それ以上にならなかっただけ。
今まで通り。大丈夫。

そう思っていた…。
でも…

「俺…ただエッチがしたかっただけかもしれない…。」


え…?

「…………。」

身体全身が熱くなるのを感じた。

「mocoちゃん?」

「えっと、とりあえず、私帰りますっ。」

すっと立ち上がる。
ダメだ。頭に血が昇り始めている。
これ以上ここにいたらダメだ。

「はい、お金。夕飯代。どうぞ。」

ハルキさんの前でお札を出す。

「え、いや、待って!これは俺が払わせて。」

「いらないです。どうぞ。」

「いや、いいから、お願いだから、これだけは払わせて。」

何でもいいからとにかくここから出て家に帰りたかった。

私は彼を見ずにそのまま立ち去った。
彼も私の後をついていくように、お店から出た。

まじかよ…もう一人にしてくれ。一人で帰りたい。
そのままスタスタと歩き、駅で別れた。
歩いている最中は特に何も話さなかった。
沈黙が辛い…。
お店が駅から近くて良かった…。

「それじゃ、さようなら。」

「さようなら。」

なんて別れ方なんだ。
最悪だ。最低だ。
こんなつもりじゃなかったのに。

私は一人電車に乗って帰った。
しばらく電車の中でぼーっとしていた。


家に帰ると、就職活動用の書類が机の上に乗っていた。

そうだ、これ出さなきゃ。

私は歩いて少し遠くの豊洲にある大きな郵便局へ向かった。
そこでは、営業時間外でも郵便を受け付けてくれるからだ。
その時もまだ、放心状態だった。
とりあえず用事は済ませたが、まっすぐ家に帰る気がしなかった。

少し頭を冷やしたい…。

夜中私はぶらぶらと、一人豊洲を歩いた。
その時、色んなことを考えて、色んなものを見た。

私、ハルキさんにとって何だったんだろう?
ただの身体目当て?それだけ?
いつもそう、私ってただ、それだけの存在なの?

突然の違和感。

空、高層ビル、信号、車、お店の光。
そうだ、ここは日本だ。
すべてうっすらと青く光って見えた。
夜だから?暗いから?




家に帰って、私は気づいたらハルキさんに電話していた。
この時の行動は、ほぼ無意識だったのだろう。

「はい、ハルキです。」

「ハルキさん、お願いがあります。」

「なんでしょう?」

「私に謝ってください。
私、2週間色々考えて、やっと気持ちの準備が整って、ハルキさんをこれから大事にしようって思っていました。
でも貴方はただエッチしたかっただけなんだね。
だから、謝ってください。」

「…mocoちゃんの気持ちを踏みにじるようなことしてしまってごめんなさい。」

電話越しだが、申し訳なさそうに彼はそういった。
本当にバツが悪そうだった。

「謝ってくれたから、もういいです。
仕事に集中したいんでしょう?
頑張ってね。お元気で。」

「うん、mocoちゃんも就職活動頑張ってください。
良いアーティストになってください。」

3分という短い電話だった。
これで終わった…。

その後はふっと糸が切れたように泣いて、泣いて、泣き続けた。

立ち直るのに少々時間がかかった。
就職活動でのストレスもあったからだ。
一人暮らしで周りにすぐに相談できる人もいなかった。
一つ内定をもらったとはいえ、本当にゲームの世界でいいのかという不安と疑問もあった。
ロサンゼルス時代の同級生達はみんな夢に向かっている。
ちょうど、同じ頃に友達の一人はイギリスの大手の映画制作会社でマットペインター(映画やゲームの背景を2Dや3Dで作る人)になった。
ハリー・ポッターやジェームズ・ボンドの映画などを手がけている会社だ。
同じ日本人の一人はディズニーでインターンをしている。
みんなどんどん絵も上手くなっている。
周りがキラキラ輝いているように見えて、私は何をやっているんだろうと思って仕方がなかった。
分からない、もう分からない。

何故自分は日本で就職活動しているのか。
何故会社は私を受け入れてくれないんだ。
こんなに一生懸命頑張ってきたのに。

みんなどんどん前へ進んでいく…。
置いてけぼりにされているのかな、私は…。
私に足りないものはなんだろう。
失恋もしたし…。
どんどん鬱になっていった。

と思ったら、母親から突然電話が来た。

「なんか、mocoちゃんが泣いているような気がしたから、電話したよ。」

私はその言葉を聞いてまた泣いた。大泣きした。
もう嫌だった。
日本にいるのも嫌だった。
寂しかった。
久しぶりの日本は、私の知っている日本じゃないのだ。
ここで、私は一人で自分の足場を築かなくちゃいけないのだ。
知っているのに、知らない場所で。
日本人のはずなのに、どこか浮いてしまう私が、だ。
その気持ちを誰かに打ち明けても、誰も理解できない。
想像できない。
わがままかもしれないけれど、それが寂しかった。
怖かった。
もしかしたら誰も私を受け入れてくれないかもしれない。
ハルキさんや、受からなかった会社みたいに、要らないと思われるのかもしれない。

ハルキさんの事も、就職活動の事も、周りの人達が輝いて見えることも、思っていたことすべてを打ち明けた。

母は長い間話を聞いてくれたが、

「ちょっと待って、お継父さんに代わるわ。」

と言った。

え…お継父さん…。

「どうしたの?How are you?」

継父の声がすごく暖かく感じた。
久しぶりに声を聞いたのだ。
私は泣きながら、もう一度英語で事情を説明した。

継父は、

「周りが輝いて見えるのは錯覚だよ。
何が正しくて、何が間違っているなんて、誰にも分からない。
何が幸せな道で、何がそうでないかなんてのも分からない。
彼らも苦しんでいるかもしれないし、自分の人生に不満かもしれないし、不幸かもしれない。
結局は自分の人生の中で、チャンスを見つけて、できることをすればいいんだ。
その点、mocoちゃんはやることを一つずつこなしていっている。
就職活動なんて、運命だし、お見合いみたいなものだよ。
運命に身を任せて、後は心配しないことも時々は必要だよ。
そこから何が起きるかは、誰も分からないのだから。」

「でも、私、失恋もして…。」

「ああ、自分はパイロットの友達が多いけれど、みんなアル中になって離婚する。
お金だけ有り余って、最終的にはどうすればいいか分からなくなるんだ。」

「でも、私彼のこと尊敬していた…。」

「mocoちゃんが尊敬していたのは良いことだ。
でもね、それと同じように、相手もmocoちゃんのこと尊重しないといけないよ。」

尊重し、尊重される…。

そうだ。結局はそういうことなのだ。
どの関係も結局はお互い尊重し合っていないと成り立たないし、続かない。
私だけが彼を大事に思っていても、意味がない。
私もそう思われていないと意味がないのだ。

「mocoちゃんのことを本当に尊重してくれる人が現れたら、その時は本物だよ。」

「お継父さん、ありがとう。
なんだか、元気が出た。」

「良かった。
じゃあ、後はもうゆっくり寝なさい。」

「うん、おやすみ。」

運命に身を任せてみるのも大事…かぁ。

そうだ。私は自分にできることから始めなくちゃいけないんだ。
小さな器かもしれないけど、その中でキラキラ輝くことはできる。私の努力次第で。
まだまだ私にはいっぱい学ぶことがある。
いっぱいやることがある。成長しなくちゃいけない。
技術的にも、人間的にも。
まだ社会人にすらなっていない。
これから世界を見て、人と出逢って、その中で次のステップに移ればいいのだ。
後の大きなことは運命がどうにかしてくれる。

結局はそういうことなのだ。

私は父親と母親の愛情にその時触れた。
その愛情が教えてくれたんだ。
これが本物の愛情だということを。

だから、大丈夫。

これからもきっとたくさん嫌な想いして、振られて、嫌な出逢いもして、不幸な体験をするかもしれない。

でも私はそれでも信じているものがある。
だから前に進んでいける。

本物の愛情の在り方を、私は知っているから。



これが、私が初めてファンレターをもらった男の子から学んだお話。


どんな関係も、尊重し尊重されて初めて成り立つ。
上司や同僚との関係でも、恋人やパートナーとの関係でも、友人や家族との関係でも。
そうなった時が本物の関係。
そんな関係を大事にしていきたい。
たとえ数少なくても。
逆にそうじゃない関係は私には必要がない。

人生、星の数ほど出逢いがあって、別れがある。
その中でも確かな愛情があったら、迷わず掴んで離さないでほしい。
そうでない愛情は手放すことを覚えてほしい。
時には手放すことも必要だから。

何かが終わる時、それと同時に何かが始まる。
大丈夫。

人間は人生で3度幸せのチャンスが訪れるらしい。
それは、誰にでも、平等に。

生きていればいいことがある。
死にたがりの私でも。
どんなにどん底に陥っても。
今はそう、信じられる。




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