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西洋音楽館(バーチャル)

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架空の演奏会場。こちらは私、山根明季子が同時代に書かれた曲についてお話を聞くことで曲を味わうという場所です。明治期に急速に日本に広げられた西洋音楽だけど、21世紀の今、古典と比べ… もっと読む
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記事一覧

小出稚子「南の雨に耽ける」

環境・身体・思考停止 ーー山根:「南の雨に耽ける」(NHK委嘱)は、南国の雨の感覚を管弦楽で書いた作品ですよね。 小出:環境っていうのかな。自分が置かれちゃった環境をそのままドーンて。 ーーその発想に至った経緯はありますか?どういう風に。 小出:それがね、あるんだよね珍しく。ジャワに行ったとき。私ジャワに行く前オランダにいて、オランダから直でジャワに行っちゃったんだ。日本を経由してじゃなくて。日本からオランダに留学しててオランダ5年、ジャワ1年ぐらいいたかな。気候が全

杉山洋一「自画像」

音楽、はどこにあるか 自分が生まれ、現在までの半世紀における世界各国の戦争紛争地域の国歌や州歌を、並置した※解説より抜粋 ーー山根:この曲に対して作曲ではない、音楽ではない、という旨のことをご自身で書かれていましたが、私はとても音楽として心動かされたんです。杉山さんにとって、作曲や音楽ってどういうことですか。いきなりですけれど。 杉山:本質的なことですね。作曲じゃないと書いたのは、自分の中の音とか感情っていうものを・・・感情の昂りみたいなものを音に表すということは一切な

冷水乃栄流「ノットファウンド」

朽ちていくことを見届ける 人間不在の滅んだ世界の「第九」。 ──文明が退廃した世界で、過去の人類の活動の痕跡が風化し、自然に侵食され遺物となっていく・・・。──(※解説より) ーー山根:私は第九が崩れてボロボロになっていく綻びの断面がとても美しくて、ゾクゾクしました。 冷水:ベートーヴェンの「引用」っていう視点に縛られるとどうしても、引用部分vsオリジナルの部分という二項対立構造って聴かれることが多くて。 ーー何て言うかな、もっと内側に入っていく感じがするんですよ。

中島夏樹 「ピクセル」

画像を音に変換する ーー山根:中島さんとは仕事で一度ご一緒して、センスに私がすごく魅かれた。その後「ピクセル」という管弦楽曲を書いてらっしゃるのを知って、実演を聴くことはできなかったんですけど曲について知りたいと思いお話聞かせてもらいました。まず、曲は3パターンのグラフィックデザイン(ドット柄、ストライプ柄、チェック柄)のビットマップ画像を解析した結果からできているんですよね。 中島:元になった画像があって、フリー素材でシンプルなものなんですけど、 中島:3パターンの単

渡辺裕紀子「折られた...」

「立体」と「平面」 ーー山根:この曲に出会ったのは2016年の芥川作曲賞選考会の時。公開選考を経て胸の中で気になる部分があって。”独特の感性で描かれているがそのことが音楽とどう繋がっているのかはわからない、しかし素晴らしい” という評価のところ、もう少し踏み込んで知りたいなって。その「感性」の部分を、言葉として引き出せるものではないかもしれないけれど聞かせてください。まず渡辺さんはこの曲でどのようなことをしようとしたんでしょうか。 渡辺:実はそれまでは、オケを書きたいと一