イスラエル法シリーズ:5 労働法

イスラエルの労働法は、他諸国に見られるような一体化したものではなく、適用対象とするトピックごとに制定された個別の法律、裁判例、労働協約、拡張命令(エクステンションオーダー)によって定められている。特に労働時間、最低賃金、休暇資格などの問題が一般的に論議され、この分野には進歩が見られる。イスラエルの外国人労働者は、イスラエルの従業員に与えられた権利と利益を同等に享受する権利を持つことに留意すべきである。本章では主要な側面と法律についてのみ言及することとする。

<従業員と請負の違い>

これは当事者による選択ではなく雇用関係の実態によって決められる区分である。

この区分を決めるに主な考慮事項は以下のとおり。
• 労働者の仕事が事業にとって不可欠且つ継続的なものであるか。
• 雇用主が労働者に及ぼす支配の程度。
• 労働者が労働を独立して自らの事業として行っているか、経済的なリスクを負っているか、従業員を雇っているか、顧客リストを保有しているか。
• 財政面における雇用主への依存度。
• 雇用主または従業員のどちらが労働手段(機器、車両、資材および道具)を提供しているか。
• 契約期間
• 当事者の意向およびその雇用関係が第三者にどのように表示されているか。

請負人の権利は、通常、当事者間で合意されたものに限定されるが、従業員は法律の下で与えられる一連の権利と資格を有する。今回は、雇用主と従業員間の関係に焦点を絞り説明する。なお、請負が労働契約をされる場合リスクは高くなる。クリーニングや警備のエリアは、とりわけ厳しく規制されている。詳しくはご連絡下さい。

<求人広告と雇用プロセス - 雇用機会均等法>

新規雇用及びその広告の際、雇用主には以下が禁止されている。
• 性による差別またはその他の差別的要件(例:年齢、人種、身体障害、性的指向、宗教、住所、考え方)
• 応募者の前科を調査すること(政府の保安要員事業者および児童、身体または精神障害者サービス提供事業者の場合は法律により除外)
• 応募者の信用調査
• 応募者に徴兵検査格付や遺伝情報の提供を求めること

以下は、雇用主が適宜要求することができる。
• 職歴、学歴
• 従業員の同意を条件として、法律で義務づけられている場合、または応募する職種に関連する病歴
• 入国審査情報
• 従業員の同意を条件として、薬物と関係する職の場合、薬物スクリーニング情報

リクルートのプロセスは一定程度透明化すべきである。

<雇用条件の交渉>

雇用条件には、従業員が適用除外または放棄したりすることのできない多くの必須事項と最低基準がある。

例えば以下の法律は、従業員の権利に関する一般則を規定するものである。
• 最低賃金法
• 労働時間と休暇に関する法律
• 年次休暇法
• 疾病手当法
• 解雇手当法
• 解雇・辞職事前通知法
• 拡張命令(年金手当)
• 拡張命令(長期就業手当)

<雇用関係の構築>

一般に、口頭による雇用契約には法的な拘束力があるものとされる。 但し雇用主は、従業員および求人応募者への通知(雇用条件及び募集・選考プロセス)関連法に従い、各従業員に主要雇用条件を列記した通知書を労働契約開始より30日以内に提供しなければならない。もし、契約書にすべての情報がある場合は不要である。外国人従業員の場合、外国人従業員法において、契約書は従業員が理解できる言語を以て雇用条件の詳細が含まれた書面によるものである必要がある。雇用契約には、法定権利と手当、および関連する労働協約等が反映される。

<最低賃金‐最低賃金法>

最低賃金の基準はしばしば見直しがなされる分野であり、イスラエル国民保険協会に確認する必要がある。2017年12月1日現在、最低賃金は以下のとおりである。
• 週5日勤務で雇用された労働者の日給;212.00シュケル
• 週6日勤務で雇用された労働者の日給;244.62シュケル
• 時給;28.49シュケル
• 月給;5,300.00シュケル

特定の業種には、控除および手当に関する追加的規則が適用される場合がある。 たとえば、介護職のための新しい最低賃金法(2018年1月発効)等である。

<通勤費の補填‐交通費の雇用主の関与(拡張命令)>

従業員には、職場に通うために支払う往復の交通費について、払い戻しを受ける権利がある。その1日の上限額は時々更新される。2016年におけるその限度額は22.60シュケルである。雇用者は、より多くを支払うことも許されている。一般的に、領収書は必要なく、払い戻し金額は公共交通機関の利用可能なあらゆる割引運賃に基づいて計算される。実際の通勤方法は従業員の自由である。従業員が会社の社用車を使用している場合、雇用主が輸送手段(Hasa'ot)を配備する場合、または雇用契約書に交通費が給与に含まれている旨明記されている場合、従業員は交通費の払い戻しを受ける権利を持たない。

<就業日 – 労働時間と休憩時間に関する法律>

法律では、1週間につき最低36時間の連続休息または25時間の連続休息(特定の業種)が規定されている。現実としては、1週間につき1日の休みということである。 休日とする日は従業員がユダヤ人の場合は土曜日、その他の場合は金曜日、土曜日、日曜日から選択できる。休日に従業員を稼働させる場合は当局より許可をもらう必要がある。勤務時間の制限上、従業員にとっては週5日(日曜日〜木曜日)労働が一般的である。

<労働時間と残業 - 労働時間と休憩時間に関する法律>

週労働時間は2018年3月の拡張命令により42時間に短縮されている。所定の時間を超えて行われる労働は時間外労働とみなされる。労働省から許可を得ていない限り、時間外労働は一般には禁止されている。 時間外労働手当は、最初の2時間につき時間当たり賃金の1.25倍、それ以降は1.5倍である。週6日労働の従業員において、時間外労働時間の上限は1日につき4時間かつ1週間につき12時間である。 週5日労働の場合は、同じく1日につき4時間、1週間につき15時間である。上記の規則には、管理職およびある程度個人的な忠誠心を必要とする職位の従業員に関するいくつかの限定された例外が存在する。

<休憩–労働時間と休憩時間に関する法律>

基本的ルールとして、従業員の労働が6時間以上に及ぶ場合、雇用者は少なくとも45分の休憩時間を与えなければならない(30分以上の連続休憩時間を含む)ということである。しかし、労働省が発行する様々な許可証によって、この一般原則の変更が認められている。ある許可証では非手作業において休憩なしの8時間から9時間労働が許可されたこともある。また別の許可証では、作業が3交代制で行われるとき、主な連続休憩時間を30分に短縮することが許可されている。従業員には、その宗教的信念に従って労働日に祈祷する権利がある。雇用主は、業務要件と従業員の宗教を勘案して祈祷時間を設定する必要がある。就業日の間の休みや夜間就業等の規則に従う必要があり、詳しくはご連絡下さい。

<職場関係>

雇用主は公正な職場環境を提供する法律上の義務がある。例えば、セクシュアルハラスメント防止法によって、雇用主はセクシュアルハラスメントを積極的に防止すべく社内ポリシーを策定し、措置を講じる義負うものである。雇用機会均等法は、内部通報による差別や報復から労働者を守ることを目的としている。 障害者の平等権利に関する法律は、障害者に関する特別規定を定めたものである。

<福利厚生及びその他従業員の権利>

(年金)

強制年金制度では、従業員と雇用者の双方が、従業員の年金に対し従業員の給与額の一定割合を拠出する必要がある。 2017年には、最低拠出率が雇用者は6.5%、従業員は最低6%(いずれも上限額に対し)に増額された。同年金では、契約終了準備金(雇用者が給与の6%、8.33%の負担)が用意され、契約終了の際、支払われる。

(健康保険)

雇用主は、全国健康保険の為に源泉し、保険金を支払わなければならない。

(有給休暇)

勤続5年までのフルタイム従業員に対する最低休暇日数は、2017年から12日間に延長された。休暇の取得資格は、同じ職場での雇用期間に応じて増加する。
またイスラエルには祝祭日が9日あり、従業員はそれらの日にも有給休暇が与えられる。

(病欠日数と疾病手当)

受給資格の日数内で、従業員は病欠の2日目と3日目について通常の給与の50%の疾病手当を受け取る権利を有し、それ以降の病欠日の疾病手当は同じく給与の100%に増額される。疾病手当受給資格の有効日数は、従業員が同じ雇用主の下でまたは同じ就業場所で、就業した期間の1ヶ月ごとに1.5 日の割合で継続的に蓄積される。 受給資格の有効日数は最高で90日で、従業員が疾病手当を受給した日数を差し引いた日数が残日数となる。従業員がこの受給資格有効日数を超えて欠勤した場合は疾病手当支給の対象とならない。
この一般則に対する例外が認められる場合もある。受給資格の有効日数は、警備員および保安関連要員、ホール・イベントガーデン要員、ホテル業界の従業員など民間部門の契約労働者の場合は異なった計算が適用されている。
従業員は一定の場合傷病休業をとり、子供、親、配偶者の病気に対して傷病手当を受けることができる。

<解雇 - 解雇・辞職事前通知法>

従業員を解雇するに先立っては、雇用主は従業員との間に“ヒアリング”の機会を以て従業員に対し解雇理由等の苦情を申し立て、話し合うことを必要とする。従業員には、ヒアリングに備えるべく十分な事前通知を以てして苦情に回答する機会を与えられなければならない。ヒアリングの後、雇用主は従業員を解雇することができるが、解雇通知期間および退職金に関する法律に従わなければならない。
解雇通知期間(1ヶ月だが、契約により延長可能)は、雇用期間に応じて決定される。 たとえ雇用主が従業員の勤務を要求していない場合であっても、雇用主には告知期間中の給与を従業員に支払うことが必要とされる。
従業員もまた、職を辞す場合には雇用主に通知することが法律によって義務づけられている。通知期間は従業員の辞職理由と雇用状況によって異なる。

特定の従業員、すなわち以下のような従業員を解雇するについては法的に制限されている。
• 妊娠中の女性;
• 産休中または産休後60日以内の女性
• 虐待保護シェルターに滞在中の女性
• 兵役および/または予備役に徴用された従業員
• 病気休暇中の従業員
• 不妊治療を受けている従業員
• 遺族

雇用者は、関連する全ての現行労働協約に従う必要がある。
職業安定法によれば、雇用主は、10人以上の従業員を一度に、または同月内に解雇する場合は職業安定所に通知するものとされている。

<退職金支給>

退職金は、1年以上勤続の従業員が自己の都合に因らず離職する場合に支払われる。しかし、雇用主が勤続1年という基準の直前に雇用者を計画的に解雇した場合、雇用主は規制当局によって退職金の支払いを命じられることがある。 退職金は、従業員の現在の給与に基づいて計算される。退職金は雇用期間1年ごとに1ヵ月分の賃金で、その計算方法は前年度平均賃金に基づく。退職金は、自己都合で退職する従業員には支払われないが、退職金支給法には別途、通常第14条協定と呼ばれる制度についての規定がある。従業員は、退職理由が自己都合であるか否かにかかわらず、契約終了手当を受け取ることになる。拠出額は当初の給与ベースで固定されており、将来昇給があったとしても増額されることはない。この協定は、被用者在籍期間が短いと予想される場合、雇用主にとってはあまり有利ではない。
国民保険協会は、雇用主が退職金を負担するについて、従業員にある種の救済策を提供している。

<争議の解決>

雇用関連の争議は、地域レベルの労働裁判所に提訴され、国家労働裁判所に上訴される。 許可を与えるなどのいくつかの手続きは労働省に提出される。裁判では解決までに数年かかることがある。

<結論>

本章では、イスラエルにおける雇用法の概要を簡単に説明した。何かお手伝いできることがあればお気軽にご連絡下さい。

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