イスラエル法シリーズ: 2 会社法及びコーポレートガバナンス
イスラエル法シリーズの第1部では、イスラエルにおける事業体の種類や外国登記の選択肢について扱ったが、これに続く第2部では、会社法5759-1999(以下「同法」という)の下でのイスラエルのコーポレートガバナンスについてさらに詳しく扱いたい。
本稿では、役員の責務、任命及び解任の要件を含め、イスラエルの会社機関の機能についての概要を簡単に述べる。こうした規制は同法に大部分の内容が定められており、また、会社の定款に従うものでもある。 *
1.会社法 –背景
1948年のイスラエル独立宣言までイギリス委任統治領であったことから、イスラエルの会社法及び法令には英国のコモンローが強く影響を与えている。同国の会社法は、1999年の同法の採択により大幅に整備されることとなり、これにより多くの新しいアプローチが導入されて、同法はデラウェア州会社法に近づいた。
会社法はたびたび改正されており、直近の第28次改正は2016年3月17日に発表された。
2.会社の目的
同法によれば、会社の目的は、利益を得るために事業を行い、またその範囲内で、債権者、従業員及び公共の利益を実現することであるものとする。
寄付は、定款に定めのある場合には、こうした事業の範囲内にあると考えられる。ただしこれは、定款において株主への利益の配当を禁じている、公益のために設立された会社には適用されない。
3.会社の構造
会社の機関は、株主総会、取締役会、ゼネラルマネージャー、ならびに法律もしくは定款によりその行為が会社の行為であるとみなされる者から構成される。
1)公開株式会社
イスラエルの公開株式会社は、株主7名以上を有さなければならず、株主は、証券当局が承認する目論見書を発行することにより、または、投資家が35名以下の場合には私募により、株式及び社債を証券取引所にて公開することができる。
公開株式会社は法人登記と共に財務諸表を提出する必要があり、証券取引所に上場されている場合には、取引所及び証券当局の規則及び規制を遵守しなければならない。
また、同法に基づき、公開株式会社は少なくとも年に1回、株主総会も開催しなければならず、その際、事業報告書及び監査済みの財務諸表を提示しなければならない。また、公開株式会社は取締役会に、大衆の代表として2名以上の社外取締役もしくは独立取締役を置かなければならない。
2)非公開株式会社
他方、イスラエルの非公開株式会社は、株式有限責任会社または保証有限責任会社のいずれかであり、株主2名から50名を有することができる。非公開株式会社による株式の移転には取締役会の承認が必要である。
さらに、公開株式会社の場合と異なり、非公開株式会社は株式や社債を公募してはならない。こうした会社は証券発行のための目論見書の作成や、会社登記官への監査済財務諸表の提出を義務付けられない。
4.役員構成
5.株主総会
会社は年次会計報告書及び取締役会報告書に関する審議及び承認のために、毎年、前回の定時株主総会の日から15か月以内に株主総会を開催しなければならない。
非公開株式会社は、その定款により、年次株主総会を開催する必要がない旨定めることができる。ただし、監査役の任命のために必要な場合や、株主もしくは取締役が開催を必要とする場合はその限りではない。
1)権限
会計報告書及び取締役会報告書の審議及び承認のほか、同法第III部、第2章第A条に定める総会の権限には、定款の変更、監査役の任命、資本金の増減、会社合併といった事項に関して決議を行うことが含まれる。 これらの事項は排除またはその適用を除外とすることはできない。株主総会の決議を以て追加事項を定款の条項に追加することができる。
定時株主総会では、会社の取締役を任命するものとする。ただし、定款にこれと異なる定めがある場合はその限りではない。
取締役会による同権限行使が不可能とされている場合、株主総会が代わって同権限を行使することができる。 また、定款に記載のある場合、株主総会は、一定の事項に関し又は一定期間の間、他機関の権限行使ができる。
定款では株式の種別により様々な議決権を付与することができる。そうした定めがない場合、各株式は1議決権に等しいものとする。
2)資格及び制限
イスラエルのみで株式を公開する、または株式がイスラエルの証券取引所でのみ取引される公開株式会社の株主総会はイスラエルで開催しなければならない。
株主総会の決議事項は取締役会が定めるものとするが、議決権の1%以上を保有する株主は、議事に一定の適切な事項を含めるように請求することができる。決議事項に記載された事項に関する決議のみを株主総会にて可決することができる。
非公開株式会社の株主総会では、株主総会の招集通知や開催することなく決議を可決することができる。ただし、議決権を有する株主全員の同意を要件とする。 非公開株式会社の株主総会は、株主全員が同時にお互いの声を聞くことができる通信手段を用いて開催することもできる。ただし、定款にこれと異なる定めがある場合はその限りではない。
6取締役会
1)責務及び役割
取締役会は残存権限も有しており、従って、法律や定款によって他のどの機関にも付与されていない会社の権限を行使することができる。
取締役会の権限は、同法第III部第3章第A条に定められている。これにより、取締役会は会社を代表して行動する権限を有する。ただし、会社の定款にこれと異なる定めがある場合はその限りではない。さらに、取締役会は事業計画、出資、財政状態、与信限度額設定、組織体制、定時株主総会向けの財務諸表や事業報告書の作成、ゼネラルマネージャーの任命及び解任、株式及びその他証券の割当、ならびに株式公開買付の可能性について決定する。
取締役会は、会社の総合的方針の決定、配当、株式割当、財務諸表の承認等に関連する権限など、一定の権限については委員会への委任を禁じられている。
一般に、取締役会はその権限をゼネラルマネージャーに委任することはできない。
2)取締役会における会議
取締役会は会社の必要に従って、少なくとも年に1度、公開株式会社の場合には少なくとも3か月に1度は開催される。 取締役会の議長が決議事項を決定し、議事を主宰するものとする。 公開株式会社は取締役会メンバーの中から1名を議長の職務を遂行してもらうために選出しなければならない。 非公開株式会社では議長を選出する必要がなく、誰も選出されなかった場合、 取締役会の各メンバーが、会議を開催し、その決議事項を決定する権限を有する。また、 会議は参加している取締役全員が同時に互いの声を聞くことができる通信手段を用いて開催することができる。 取締役会決議は、審議に参加し、議決権を有する取締役全員が同意する限り、会議を開催することなく可決することができる。ただし、定款でこれを禁じている場合はその限りではない。
取締役会決議は単純多数により可決されるものとし、可否同数の場合は議長が決するものとする。ただし、定款にこれと異なる定めがある場合はその限りではない。
取締役会が以上の権限を剥奪された場合、取締役会に代わって株主総会が当該権限を行使することができる。
3)注意義務及び忠実義務
取締役及びその他の役職者(ゼネラルマネージャーなど)は、不法行為法に定める通り会社に対する注意義務を負っている。合理的な役職者がその状況で行動するであろうと考えられる標準的な実力をベースとして行動しなければならない。 こうした人物は、善意かつ会社の利益のために行動するという忠実義務も負っている。
4)資格及び制限
取締役について原則として国籍の制限はないが、社外取締役の場合はイスラエル在住者でなければならない。ただし、公開株式会社がイスラエル国外の証券取引所で取引される場合には、社外取締役についてこのような規則はない。 また、業界によっては、非イスラエル国籍者の制限が、他の関連法に従って適用されることがある。例えば、こうした制限は、一定の保安関係の事業に従事する会社や特定のインフラ会社や公益事業会社に適用される。
一定の刑事犯罪で有罪を宣告された者は、宣告の日から5年経過するまで公開株式会社の取締役になることはできない。破産を宣告された者も、免責されない限り、取締役として職務を遂行することは禁じられる。
さらに、利益相反が生じる可能性のある人物も、社外取締役として職務を遂行することはできない。
5)任命及び解任
定款においてこれと異なる内容が示されていない限り、取締役は、株主総会で任命され、次の株主総会までこれを務める。 最初の取締役は会社の設立者により任命され、最初の定時株主総会の終了により職務を終了する。ただし、定款にこれと異なる内容が定められている場合はその限りではない。
上の表に示す通り、公開株式会社は社外取締役を2名以上置かなければならず、 非公開株式会社は1名以上の取締役を置かなければならない。
公開株式会社の社外取締役は通常、3年を任期として任命され、その後、各3年ずつを任期として2回まで再任されることができる。
取締役の任期終了は、取締役が終局判決により有罪となった場合、破産した場合、または会社に対する責務不履行の場合などがある。
7ゼネラルマネージャー
1)権限及び義務
会社のゼネラルマネージャーは、日常業務の管理に責任を持ち、同法または定款により他の機関に権力が付与されていない限りは経営及び執行に関する一切の権限を行使することができる。取締役会の監督に服する。 ゼネラルマネージャーは、会社にとって重大かつ日常業務を超える事項、ならびに取締役会が定める時期及び程度の他の事項について、取締役会に報告する義務がある。
役職者としてのゼネラルマネージャーは、取締役同様、会社に対する注意義務及び忠実義務を負う。
2)資格及び制限
非公開株式会社の場合、1名以上のゼネラルマネージャーを置くことができる。誰も任命されない場合には、会社は取締役会により運営されるものとする。
3)任命及び解任
ゼネラルマネージャーは取締役会により任命及び解任されるものとする。ただし、定款にこれと異なる定めのある場合はその限りではない。
8.監査役
1)監査役
会社は年次会計報告書を監査し、これについて意見を述べる監査役を任命しなければならない。 同時に複数の監査役を共同監査役として任命することもできる。
公開株式会社は、証券取引法に従って帳簿付けをし、会計報告書を作成しなければならない。 非公開株式会社は会社法に従って帳簿付けをし、会計報告書を作成しなければならない。
監査役には、会社の会計監査において重大な欠陥に気付いた時には取締役会に報告する義務がある。また、責任を負っている会計報告書について意見を述べなければならない。
監査役は、法務大臣が定める必要な条項に従い、会社から独立していなければならない。 また、従属関係が存在する場合には、監査役の雇用をすみやかに通知しなければならず、株主総会を招集して任務の終了を決定する。その際に監査役はその立場を知らせる合理的な機会を与えられる。
会社監査役の任命ならびにその雇用条件及び終了は、総会により決定される。 ただし、第1回定時株主総会までの期間には、取締役会が会社の最初の監査役を任命できる。
定款の中で定時株主総会を開催しないことを選んだ非公開株式会社は、または定款に規定されている場合は、監査業務を1回に限定して行う監査役を任命できる。
2)監査委員会
公開株式会社の場合には監査委員会を選出しなければならない。なお非公開株式会社の場合はこの委員会の設置は任意である。 その役目は、社内監査役と相談して、会社の業務管理の中でどこに欠陥があるかを明らかにし、改善や欠陥等に関して取締役会に提案を行い、監査委員会の承認を要する行為及び取引について決定することである。
公開株式会社の場合、取締役会は社外取締役全員を含めたその構成員の中から、監査委員会を選出しなければならない。議長、雇用されている取締役で、日常的に役務を提供している者ならびに支配権保有者もしくはその親族は、監査委員会のメンバーになることはできない。
9.配当
同法第302条に従って、会社は、利益部分に限り配当を分配することができる(「利益基準」という)。分配することによって、既存の債務や予想される債務に履行時期が到来した時に会社がその履行を妨げられる合理的な疑いがないことを条件とする(「支払能力基準」という)。同法ではさらに、以下の定義を記載している。
利益基準における「利益」:余剰金の残金か、過去2年間の累積余剰金のいずれか金額の大きい方 を意味する。この数字は監査もしくは調査された最新の調整済会計報告書による、会社の事前配当を差し引いた後(前回、余剰金から差し引いていない場合)の金額である。報告書作成日は会社による配当日から6ヵ月前の日以降であること。
「調整済会計報告書」:指針に合わせて調整した会計報告書、もしくは当該報告書に置き換わるか、将来的に置き換わる会計報告書(いずれも一般的な会計基準に従ったもの)。
「余剰金」:大臣の定めた規定の通り、会社の純利益から発生し、一般に認められる会計基準に従って会社の資本金に繰り入れられた金額、及びその他一般的に認められる会計基準のもとで資本金に繰り入れられた、株式資本、または保険料以外の金額を意味する。
さらに、大臣は、資本証券への投資の適正価値の変化により会社純資金に含まれる正または負の合計額が余剰金としてみなされる場合に関して一定の規則を定める。
会社は、支払能力テストに適合していると裁判所が納得した後、当該の分配を裁判所が承認する限りにおいて、利益基準に適合しない配当も分配することができる。
10.その他の注記:
透明性
取締役会全体は、会計報告書の作成など、透明性及び開示について責任を負う。公開株式会社には、公開見込みの開示、年次及び四半期ごとの報告書(財務諸表等)、ならびにその他の事業活動報告書など、その他の報告義務も負う。
*注: 同法及び定款に加えて、コーポレートガバナンスに関係するその他の規制が複数ある。1983年の会社条例(清算、債務、債権者の権利に関連する問題を扱う)テルアビブ証券取引所上場規則、不法行為法(旧民事不法行為法、2015年3月改正)、1968年の証券取引法などである。
同記事は、イスラエル弁護士Gilad Majerowicz氏に助言等を戴いた。誤記その他の誤りについては、すべて角田進二に帰する。
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