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物々交換


岡山で友達の演劇を見てきた。


目覚めたら3時だった。疲れすぎてホテルに戻ったら記憶もないうちに寝ていたらしい。

ひとしきり公演を思い出して感想を書き溜める。いい夜を過ごしたくてお酒を買ったのに、感想を書き終えた後にそれを思い出した。
朝5時16分。白んでいく空を見て、お酒を飲みながら文章を書く。



岡山で友達の演劇を見てきた。
1日に2回、昼と夜に公演をするらしい。死ぬほど忙しいだろうに、一緒にランチを食べてくれてありがとう。ギリギリまで独り占めしてしまったから、後で君のファンに謝っておいてほしい。

駅の方角へ向かいながら何か食べれるものを探す。お腹が空いているわけでもないので軽食でもよかった。
カフェもレストランもたくさんあるのに、今日はいっぱいで……と断られるから仕方なく歩きながら喋り続ける。岡山ってけっこう都会なんだね。


「最近さ、文章を書いてるんだ。私が文章を好きなことを評価してくれて、買うと言ってくれた人がいた。初めて好きなことでお金を得たんだ。」

そう伝えると自分のことのように喜んでくれるのを見て、顔が綻ぶ。


今日は、君と私で物々交換をする。
創作物の交換だ。君と私の感性を交換しよう。


適当なカフェが見つかったので扉を開ける。店内は空いているわけでも混んでいるわけでもなかった。案内してもらえるみたいだ。
日替わりの詳細を聞いてから本日の定食セットを頼む。
料理が来るのを待ちながらnoteを見せた。


目の前で人に文章を見せるのは初めてだった。
自分をよく知る人に心の内を見られるのは少々気恥ずかしい。
でも、彼に見てほしいと思った。



文章を書く時に1つだけ意識していることがある。
文法も、文字を書く時のルールだって知らない。
でも、私の見てきた景色があなたへ伝わるように書きたいと思う。

3Dで見れる映画が大好きだ。
目の前に迫ってくる怪獣は、私まで食べてしまいそうでドキドキする。思わず目を閉じてしまう。
左右のレンズは赤と青。重みで鼻根が痛くなるような黒くてゴツいメガネがその世界へと連れていってくれる。

私のnoteもそんな感じ。
あなたのメガネになりたい。あなたの目にそっとフィルターをかける。私の視界から私の記憶を見せてあげる。

だから、どうかあなたが立体にしてほしい。




目の前で携帯がゆっくりとスクロールされていく。
たくさん陽が入る、笑い声がするような暖かいカフェは彼が読んでいる間だけ妙に静かになった気がした。

彼が顔を上げる。私の唾を飲み込む音が聞こえてしまいそうだ。
無言で携帯を返される。沈黙。

この、悶々とした時間嫌いなんだよ。
口を開くのがスローモーションに見える。



「好き。上手く言えないけど、なんか好きだわ。」



ぽつぽつと、彼の論理的な話し方で、私の感覚的な文章の話をする。
彼のフィルターで見た映画を私に教えてくれる。


「ふんわりした話だけど、濃淡がある。
お前の話は魅力的だよ。好き。
ロジックと感覚がどちらか一方に偏っていなくていいバランスだと思う。こういう書き方できるのは強みだよ。」


「俺は素人だから、お前の文章が上手いか下手かは分からない。
でも好きだよ。わかりやすくて面白い。
岡山の話は、明るくて幸せな気持ちになれる。
話の構成でいえばきちんとの呪い。
エグいことが、明るくふんわりと書いてあることでこれ本気か?ってエグさを増すんだよな。ちょっとふざけてるのも良い。暗さを暗さで終わらせていない感じ。
俺の好みだけど、会話だけで文章を成立させるんじゃなくて地の文が多い書き方が好きだ。」


私は1しか与えないのに、いつも彼は10汲み取ってくれる。
そんなところを知っているから、困っている時には「モヤモヤしていること」を投げかけてしまう。


「文章を書き始めて1ヶ月して、自分がこのままの書き方でいいのか考えてるんだ。
私の曖昧な文章は、人に誤解を与える時がある。私は人を傷つけたいなんて思ってないのに、はっきりした文章じゃないから違う受け取り方ができてしまうんだよね。人はネガティブな受け取り方をしやすい。

だから、論理的思考力がほしい。私が思うことをそのまま伝えられたら、誤解なんて生まないと思うんだ。」


少し考えて、彼は言う。
頭の回転が速い彼は早口だが、いつもよりゆっくりと話してくれる。


「長所と短所は表裏一体だから、ロジックが欲しいと思うのもわかる。

お前の長所は余白だよ。
そのふわふわした書き方は、答えを言わない。結末を考えさせられるから何通りもの話が出来上がる。

ロジックは、答えだ。簡潔明瞭で分かりやすいけど、それだけだとつまらない。
論理的思考力を身につけようとするのは良いことだけど、今ある良さを失わないでほしい。
ロジックに染まると、今の文章は書けなくなる気がするから。」


君はもっと分かりやすく話してくれたのに、私が書くとどうしても感覚的な文章に変わってしまうね。どうかな。君の言ってたこと、伝えれてるかな。

「全員に好かれようなんて、人間関係でさえそんなことはありえない。誤解はいつだって起こりうるものだから、気にせずにお前の文章が好きな人達にだけ読んでもらえばいい。」

嫌われたくないは響かない。
私の好きは、相手に響く。
見るのは、私が好きな人と私を好きでいてくれる人だけでいい。
そうだ、忘れてた。
私が書いているのはラブレターだ。




話は私が書いた岡山の話に戻る。


「幼馴染みにしか言ったことないんだけど。
俺の将来の夢は────────」


夢を話してくれた。
岡山で、君の夢と私の夢が交差する。



ランチタイムは2時間あったのに、あっという間に過ぎてしまった。いつまでも喋っていられそうだけど、時間が限られている時は困る。
カフェを出て会場まで戻る。距離は近かったけど、たまたま目の前にバスが来たから乗り込む。遅刻したらダメだからね。次のバスは30分後なんだから。

再入場すると、開演前なのに何やってるんですか!と後輩だかスタッフだかに怒られていた。
じゃあ、もう行かなきゃと急いで別れる。




次は、君の演劇の話をしよう。

細かい詳細は割愛する。もう君には十分伝えたし、ここで言ったって良さが伝わらないと思うから。


元々君が役者じゃなかったことを、やっと思い出した。君は、学生時代照明室にいた。

どんなことだって、『両方できること』というのは素晴らしい。
自分の役は、世界の中心だ。それを神視点でも見ることができるんだから最強に決まってる。

当て書きされたようにピッタリな台本で、そこには君じゃなくて『ヒガシ』がいた。
しつこくて、鬱陶しくて、うるさくて、憎めない。

台詞がない時も、ブレスケアを渡す仕草一つでさえ人格が乗り移っていると思った。

君たちの演劇は、視覚で、聴覚で、余白で、観客の脳みそを揺さぶってくる。


ロジックがガチガチの脚本なのに、余白が広い。納得のいかない台詞だけが決まっていて、動きも感情も流れも決まっていないからだろうか。
照明で、小道具で、音響で余白を少しずつ埋めていく。
役者の話し方が、表情がさらに余白を生み出す。


オレンジと青の照明が、私に立体を見せる。

頭を空っぽにして見たいと思った。台詞の伏線を考えてしまう。舞台の使い方を考えてしまう。意識ががそちらへ持っていかれる。

もう1度見るなら、今度は何も考えずに見たい。




私たちが生み出す創作物は違う。
違う景色を見て、違う表現方法で。
それなのに伝えたいことは一緒だったりする。


全く別の創作を通して、私たちは同じものを見ている。


私の分身を見て、君は君の答えを出すし
君の分身を見て、私は解釈を広げる。

私の解釈は、彼の頭にはなかった考え方のようで、目を丸くしていた。
私たちは補完しあっている。



岡山は芸術の街だった。芸術は東京にしかないと思ってた。
美術館も多いし、演劇も盛んだ。なにより街が芸術に力を入れている。

芸術は余剰だ。なくても生きられる。
でも、死にたいと思った時、誰の言うことも耳に入らなくなった時。
最後に救ってくれるのが芸術だと思う。誰かの受け売りだけど。
芸術に力を入れている街には、「救い」がある。

岡山で死にたい、という直感は合っていた。


窓の外を見るともう明るい。


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今日のラブレターは役者の君へ。

役者の君にしか分からない書き方をした。全世界に公開した、私からの秘密通信。


私は君の演技をまた見たい。


2022/09/05

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