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午後6時過ぎの小学校訪問

「今から宿題するわ!」

家でYouTubeを見ていた8歳の息子が突然言い始めた。

「あー、それはいい考え」

親としては、自分から宿題をやってくれることに反対なんてするわけがない。即座に賛成した。息子はランドセルを開けて宿題用のノートを引っ張り出そうとしている。

「あれ?…ない」

ガサゴソとランドセルの中身を出していくが、お目当てのノートは見つからないようだ。

「最悪…。学校に忘れたわ」

開けていたランドセルをガシャンと勢いよく閉めて苛立つ息子。宿題ができないと週明け学校の先生に怒られるのだろう。ぶつくさ文句を言っている。

「そもそも、お前が忘れたのがいかんのやろ」

そう言うと「なんで親にまで怒られないといけないんだ」と苛立ちつつ、泣きそうなっている。

「明日、かっかと取りに行こう」

つぶやくように言う息子。

「…いや、土日は学校開いてないやろ」

土日に学校へ宿題を取りに行くのは難しい気がした。さすがに先生達も出てきてはいないだろう。時計を見ると午後6時過ぎ。まだギリギリ間に合う気もする。

「今から行くぞ。学校にまだ誰かいるかもしれない」

財布と車の鍵を取って出かける準備をする。

「誰もいなかったらどうするの?」

不安気に聞いてくる息子。

「知らん。でも、今行くのが1番回収できる確率は高いはず」

2人で車に乗り込んで小学校へと向かう。すでに日は暮れかかっている。

「勝手に教室入ったらダメだから、事務室に行かないといけないよ」

へぇ、そうなんだ。
小学校には正門から入って適当なところに車を停めた。3つある校舎のうち、真ん中に来客者用の玄関がある。入ると隣に事務室があった。でも、カーテンがかかっていて人は誰もいない。

あらら…。
辺りを見渡していると、事務室の窓に「御用の方は職員室まで」と書いてある。息子の方を振り返り手招きをする。とりあえず靴を脱いで職員室へ向かおう。そう思った時に声をかけられた。

「何かお困りですか?」

ふと見ると女性で年配の先生らしき人が立っている。

「息子が宿題を教室に忘れたらしくて」

そう言うと、その女性の先生は息子に「良かったねぇ」と声をかけた。

「?」が浮かぶ息子。

「お父さんが一緒に取りに来てくれるなんて、感謝しないとね。ありがとうって言った?」

ハッとした息子は僕に「ありがとうございます」と言った。なんで敬語やねん。笑いながら一緒に教室へ向かう。

「3年生は最近習字を書いたんですよ」

その女性が教えてくれる。後で息子聞くと、吹奏楽の先生だったようだ。教室へ上がる階段の壁に、3年生が書いた「ニ」という漢字がズラッと並べて貼ってある。その中に息子の書いた文字を見つけた。

「へぇ、意外とうまい」

トメがしっかりとできている。名前がキュッと狭いスペースに押し込まれて書かれているのはご愛嬌だと思うことにした。3人で教室に着くと、息子は自分の机の引き出しでノートを探す。

「あった!」

見つかってよかった。先生にお礼を告げる。ついでに先生に聞いてみた。

「ちなみに土日って学校開いてないですよね?」

「そうですね。基本的には開いてないですね」

やっぱりそうだよな。来て良かった。
玄関に戻る途中で男性の先生とすれ違う。

「お、どうしたの?」

去年息子のクラスで算数を教えてくれていた先生だ。事情を話すと「間に合って良かったねぇ」と笑っていた。

息子のことを色んな先生達が支えてくれているんだなぁ。ドタバタしたが、参観日にでも来たような気持ちになった。帰りの田んぼ道を車で走る。

「ねぇ、とっと。習字うまかったやろ?」

もともとは宿題のノートを取りに来たことを、すっかり忘れている息子の様子に笑ってしまった。

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