コロナの時にちょっとだけ泣いた話
「ヤバい、喉が痛過ぎる」
症状が現れたのは、コロナ発症から3日目から。この頃は尋常じゃない喉の痛みに苦しんでいた。
固形物を食べられないどころか、唾も飲み込むのも苦痛。ネットで検索すると「ガラスが喉に刺さっているような感じ」がコロナの症状の一つとのこと。まさに、そんな感じ。
これがコロナか…。
絶望を感じながら、そんなものだと思っていた。
しかし、本当に何も食べられない。
カロナールやロキソニンを飲むが、全く効果がない。昼夜関係なく、薬を飲んだ5時間後に起きて鎮痛剤を飲む。でも効かない。この繰り返し。
もっと飲んだ方がいいのか…。
カロナールやロキソニンの1日の最大可能摂取量を調べ、それに近い量を飲もうとしていた。喉が痛過ぎて、頭がバグっていたのかもしれない。
それを止めてくれたのは、事情を知った父親だった。
「それ、マズいんじゃない? かかりつけ医に相談してみたら?」
その言葉にハッとした。
そうか、我慢し続ける必要はないのか。
思い切って、かかりつけ医に電話してみることにした。
病院に電話をすると、まずは受付の女性の方が出た。
「あの、実はコロナに罹ってしまって…」
「えっ…」
相手の声色が明らかに変わった。そりゃそうだ。コロナだもの。そのまま話を続けた。
「喉が痛くて水分も摂れないんです。どうしたら良いか、先生に相談させてもらいたいのですが…」
事情を説明すると、受付の方は「お待ちください」と言い電話口では保留音が流れ出した。
しばらくそのままの状態で待つ。
少しすると保留音が解除され、同じ受付の方の声がした。
あぁ、やっぱりダメだったか…。
相手の声を聞いた時、ふとそんなことが頭をよぎった。先生に相談したいと言ったのに、声は先程と同じ女性。
先生に出てもらえなかった…。
残念な気持ちになったが、仕方ないとも思った。コロナで医療もひっ迫していると聞いている。宮崎も例外じゃない。自然と諦めの気持ちで下を向いてしまっていた。すると、その女性は言った。
「病院に来れますか?」
「…へ?」
思わず顔を上げた。その言葉が予想外すぎて、すっとんきょうな声が出た。
「…え、あの。僕コロナなんですけど、行っていいんですか?」
「先生が『診ますよ』って言ってます。病院の中では診れないので、駐車場での診療にはなりますが」
「…い、行きます!」
車に乗り込んで病院へ向かった。
コロナなのに、診てくれるなんて…。
病院へ向かう途中、既に泣きそうだった。
病院に着いて、電話でやりとりをしながら診療の番を待つ。駐車場には小さいテントが張ってあり、その中に通された。しばらくすると、いつもの先生がやってきた。
「大丈夫ですか?」
先生は笑顔でそう言いながら診てくれた。
「これは痛いねぇ」
僕の喉を見ながらゆっくりと頷く。
「正直、診てもらえないかと思ってました」
その時の心情を吐露すると、先生は笑った。
「診ますよ。医者ですから」
先生はいつもより言葉数が多いように感じた。おそらく、こちらを気遣ってくれていたのだろう。後から知ったのだが、実はこの先生は半年前にコロナに罹患し一時期病院を閉めていた。だからこそ、コロナ患者の気持ちに寄り添えたのかもしれない。
「これを飲めば、早ければ今日の夜にはご飯が食べられるようになると思いますよ」
今までとは違う薬を処方された。
「今が一番辛い時だから、もう少しですよ。何か困ったことがあったら連絡してください」
診療が終わり、お礼を告げて車に戻る。
薬剤師が薬を持ってきてくれるまでの間、少しだけ泣いた。
リスクを伴いつつ診療してくれた先生に心から感謝した。
その夜、先生の言葉通り3日ぶりにご飯を食べることができた。
この受診がコロナからの回復に向かうひとつのきっかけになったのは間違いなかった。
(note更新271日目)