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人助けと大役とチーズまんじゅう

仕事から車で帰宅途中、ちょうど自分の家が見えてきた時のことだ。隣の家の旦那さんが外に出てきていた。どことなくソワソワしていて、家の周辺を行き来している。
「?」と思いながらも、僕は自宅の駐車場に車を停める。すると、声をかけられた。

「すいません、実は家のカードキーを中に入れたままにしてしまって…」

「…え、それは大変ですね」

隣の家と僕の家は造りが同じなので、旦那さんが言っている意味はすぐに分かった。
ウチの玄関のドアは、通常の鍵に加えてカードキー対応になっている。登録しておけば、鍵穴に鍵を入れずともカードでガチャリと鍵が開く仕様だ。ただ、僕はめんどくさくて一度もその機能を使ったことはない。文字通り、宝の持ち腐れだ。

話を聞けば、キーはもちろん、財布やスマホまで全て家の中にあるらしい。ホテルで言うところの、ルームキーを中に置いたまま外に出て、部屋の扉を閉めてしまった状態に近い。

さて、どうしよう。
まず思いついたのは、家の建築会社に電話してみることだった。幸い僕の家と同じ会社なので、スマホで営業所の電話番号を検索。スマホごと貸して電話をかけてもらった。

「…出ません」

何度もコールするが、相手は出ない。時間は昼の3時。通常営業なら出ない時間ではない。
もしかして…。
定休日を調べてみると、ちょうど水曜日。つまり、ちょうど今日が建築会社の休みの日だった。

ん〜ツイてない。
そうは思いながら、仮につながったとしても家の引き渡し後のことになるので、対応してくれたかは正直怪しい。
気を取り直して、次の策。

「奥さんにかけてみるのはどうですか?」

提案してみたが、反応は渋い。電話番号を覚えていないとこのと。そりゃ、そうか。僕も覚えていない。では、次。

「鍵の110番みたいなところに電話してみるのはどうでしょうか?」

『自宅の鍵 インロック』で検索すると、1番上にあったお助けサイトが宮崎市でも対応しているらしい。「到着まで5分」と書いてある。これなら解決に直結しそうだ。あとは、金額がいくらか。

「かけてみてもいいですか?」

「どうぞどうぞ!」

スマホを渡してしばし待つ。
電話が終わると、旦那さんはガッカリした表情を浮かべた。

「ダメでした…」

「ダメ?!どうして?」

どうやら、本人の電話からじゃないと受け付けられないと言われたらしい。なんて融通の効かないサービスなんだ。

困ったな、これは。
2人して「うーん…」と頭をひねる。

「ちょっと実家に行ってみますわ」

不幸中の幸いで、車の鍵だけは持っていたらしい。実家もこの近くにあるのだろう。旦那さんはエンジンをかけて車に乗り込んだ。

「すみません、あんまり力になれなくて」

僕が言うと、旦那さんは力一杯首を横に振った。

「いやいやいや!ありがとうございました!」

「お気をつけて」

駐車場から出ていく車を見送って、僕は自宅に戻った。


数時間後、家のインターホンが鳴った。
出てみると、隣の旦那さんだった。

「あの後、なんとか奥さんと連絡ついて。すみません、迷惑かけちゃって」

旦那さんはお菓子の包みをこちらに差し出す。

「いやいや!僕は何もできてないので、全然気にしないでください」

そう伝えるが「いやいや!受け取ってください」と渡された。

「精神的な支柱になってくれてたので」

精神的な支柱…。そんな大役を果たした実感は全然無かったのだが。渡されたお菓子を見ると、宮崎の銘菓「チーズまんじゅう」だった。

お互いに引っ越してきてまだそんなに月日も経っていないが、なんだかお隣さんと心の距離は縮まった気がした。

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