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「第9話 鳥達のネットワーク」



タマの来る東に向かったガリに空から声がかかった。
「この辺では見かけないけど、ひょっとして噂のネコさんかい?」
鳥がパタパタと降りてきてこう続けた。
「タマと言うネコが、トラックに乗った茶色のネコを探して旅をしているらしい。
まだだいぶ東の方だけど、こちらにやってきている。
鳥の世界に広い範囲でこの話が広がり、誰が最初にこの茶色のネコを見つけるか
競争のような状態になっているんだ」
その話を聞いて「いや、ボクの事じゃないよ。」とガリの中の宇宙人は答えた。
今はまだ、タマに自分の位置を知らさないでおくことにしている。
「そうかい。君ももし出会ったら噂のネコさんに伝えてあげてよ。」
そう言って、飛び去って行った。

ガリの中の宇宙人は、少しびっくりしていた。
鳥たちとは全く関係のないネコの事をこんなに応援しているのは、理解できなかった。
ガリを完全支配しているのに、この話を聞くたびに潜在意識の本当のガリが反応した。
体中が熱くなり、喜びが湧いてきて興奮するのだ。
これが、友情と言う気持ちなのかと驚いた。

地球には、小さな親切があふれている。
全く関係のない者たちでも、友情を応援している。不思議な惑星だ。
この事は、円盤にその都度報告していた。

円盤の宇宙人たちもこの話に興味を持った。
普通に考えると出会える確率は少ないし、
たった数年足らずの命しかない大切な時間を削ってまで探し求めるのは非合理だ。
友達なら近くで作ればよい事だ。
それぞれの人生があるので、それはそれで仕方ないと考えるべきだ。
何故、自然法則に従わない。
それほど、友情は素晴らしいものなのか?
鳥でもネコでも全ての動物は、友情を大切している。
地球より格段に進歩を果たした宇宙人には理解できないものがあるようだ。
短い命だからこそ、大切に守りたいものがあるという、地球での新しい発見 だった。

「報告ご苦労。この話は大切なので引き続き観察して報告するように。」と指令が来た。
鳥たちのネットワークは、素晴らしいものがあった。
見たこと、聞いたことが瞬く間に広い範囲で伝達されて、皆に共有される。

「トラックから降ろされたネコが食堂にいたらしい。」
「食堂から逃げ出したらしい。」
「東に向かっている茶色のネコがいるらしい。」
「このネコは、自分ではないと言っているらしい。」
「何かの目的で、このネコも旅を続けているらしい。」

など、1日もたたないうちに情報は広がっていた。
この情報は、タマにも届いた。もう少し西にガリに似たネコが東に向かっていると。
タマはその事をもう少し詳しく聞いた。両耳と尻尾の先が濃い茶色をしている。
ガリに間違いないと確信した。もう少しで会える。喜びが沸騰 した。

河原で姿を消した赤目は、タマに鼻を引っかかれて我に返った。
もう戦う気力も失せていた。
また元の草むらの茂みに戻り潜んでいたが、生きる気力も衰え食事もほとんど食べない。
水を飲むだけでかろうじて生きていた。体もやせ細ってきて、そろそろ限界だった。

草むらに静かに横たわっていると、懐かしい声が聞こえてきた。
「お~い、お~い。ポチ、ポチ居るのか。出ておいで。」
それは、ポチの首輪を外してくれた、あの中学生の声だった。
「ごめんよ。ポチ出ておいでよ。」そう叫んでいた。

入院中のお婆さんがポチの事を知り、とても悲しんでポチを探してほしいと
涙を流しながら孫にお願いした。
中学生は、おばあさんの言葉を両親に伝え、家族全員で探し回っていた。
ようやくこの辺りの河原にいるらしいと知り、今日も探しに来ていた。

赤目は、人間不信と恐怖とでその声に応えることができないでいた。
すると、周りにいた雀たちが騒ぎ出した。
「あの子は、河原に沿って君を探しに何度もきているよ。」
「そうだよ。」と別の雀も言った。
「勇気を出して、出ていきなよ。きっと幸せが待っているよ。」
「そうだ。そうだ。がんばれ。」「がんばれ。がんばれ。」
口々に、赤目の後押しをしだした。
赤目はその声に押され、頭をもたげて声のする方に向かって
「ワン、ワン。」と短く返事をした。
その声を聞き、中学生は大急ぎでそばに来て、赤目(ポチ)を見つけた。
「あ~よかった。ここにいたのか。こんなに痩せてしまって。ごめんよ。」
そう言って、ポチを抱いた。赤目は、安心して全身の力が抜けてしまった。
「とうさん。かあさん。ポチがいたよ。」大声でポチを抱きながら両親を呼んだ。
ポチは、車に乗せられてポチのいた家に帰ることになった。


丁度その頃、人間たちも地球に向かっている小惑星に気付き、大問題になっていた。
この軌道だと間違いなく衝突する事になる。
衝突すると、過去の恐竜時代の様に地球の生き物は全滅するだろう。

この物語はこうして最終回へと続く


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