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「あいから」への道: 愛と葛藤の物語

音楽と出会いの旅路: 彼女との始まり

鼓動が消えた胸に喪失感、内側から広がり無感情
体温と同じ温度の乾いた涙の代わりに冬の雨

雨が降る / Sundays Ring Road Supermarket

もし大切な人を失ったら、どう感じるでしょうか?この話は、私が実際に経験したことを基にしています。高校時代からパンクロックに夢中だった私は、物作りの好きさと音楽への情熱を胸に、山形大学工学部電子情報工学科へ進学しました。山形市内でのライブ参加や仙台への足を伸ばす日々、そしてフジロックフェスティバルでのブランキージェットシティの最後のライブに触れたことは、私の音楽への情熱を一層高めました。

大学4年生の時、音楽サークルで彼女に出会いました。彼女の明るい笑顔が印象的でした。新入生と在校生でバンドを組むサークルのイベントで、彼女とは別のバンドに所属していましたが、ライブの打ち上げで音楽の話題やフジロックの思い出で意気投合し、やがて交際を始めました。交際1年後、彼女が摂食障害であることを告白し、その背後にある過去のトラウマや日々のケアの重要性を知りました。彼女の強い精神力に感銘を受け、私も精神的な辛さを共有し、彼女の支えとなることを決心しました。

大学卒業後、共に上京した私たちは、彼女の治療のために適切な精神科を探しました。彼女はバイト先で知り合った女性から紹介された病院に足を運び、そこで「解離性同一性障害」、一般に言う「多重人格」と診断されました。私が別れを提案すると彼女は思っていたようですが、私には彼女を支えたいという強い意志がありました。多重人格という珍しい状況に興味を持ちつつ、何より彼女を助けたいという思いが私を動かしていました。

りょうくんとゆきちゃんとの絆

骨の髄まで楽しもうぜ兄弟

拳で語る / Sundays Ring Road Supermarket

彼女の中に存在した人格の中で、特に印象に残っているのは、格闘技や音楽の趣味が合い、弟のように思えたりょうくんと、可愛らしく悪戯好きなゆきちゃんです。彼らは彼女が抱えるトラウマをケアするのに大いに役立ちました。

りょうとのエピソード

りょうくんは彼女が「解離性同一性障害」と診断された夜に現れました。主治医からは驚いた表情を見せるとコミュニケーションが難しくなると聞いていたので、平静を保ちました。最初は「大人は信用できない」と心を閉ざしていましたが、私が握手を求めたことで、徐々に心を開いてくれました。実際に話してみると、彼はまさに「少年」で、少しスレているだけで、普通の人間でした。できるだけ一人の人間として接するよう努めました。

ある日、私がNIRVANAを聴いていると、りょうくんが興味を示しました。NIRVANAが好きだということと、私のギターがカートコバーンと同じモデルだと知ると、彼は非常に喜びました。

別の日には、彼女が突然意識を失うようにうなだれ、目を覚ますとりょうくんが現れました。「よぉ」と彼は言い、PRIDE(総合格闘技イベント)を観たいと告げました。私が「今から観る予定だけど、何かあったのか?」と尋ねると、りょうくんは実際にこの世界で試合を肉眼で観たいと望んでいることを伝えました。

彼のこの要求には少し戸惑いましたが、「わがままだな」と思いつつも、彼の格闘技への情熱と興奮は12歳の少年そのもので微笑ましかったです。試合の中継が終わると、りょうくんは「最高だったな!いつか生で観たいよな!」と満足感にあふれていました。彼が退いて再び彼女に戻ると、「PRIDEは?今から始まるよね?」と彼女は驚きました。

私がりょうくんのために中継を観終えたことを伝えると、彼女は残念そうにしつつも、「そっか、格闘技が好きなんだね。りょう君にも楽しめる事があるのが嬉しいね」と喜んでいました。彼女のこの反応は、りょうくんの存在を理解し、彼の喜びを自分のものとして受け入れていることを示していました。

ゆきちゃんとのエピソード

ある日、居間から台所へ向かう途中、彼女が突然後ろから抱きついてきました。「おおきなまちゅぼっくぃみぃ~つけた!」と言い、僕は「まちゅぼっくぃ」とは何か戸惑いました。彼女は笑顔で話していましたが、話が噛み合わない様子。突然彼女の表情が変わり、別の人格のようになりました。その後、彼女は泣き始め、僕があやすと、清香という別の人格が現れました。清香は、2歳の女の子であるゆきちゃんがお腹が空いていると教えてくれました。

ゆきちゃんは「なっぷる」と言いながら泣き出し、清香のアドバイスで僕はそれが「パイナップル」のことだと理解しました。急いで缶詰のパイナップルを買いに行き、皿に盛り付けてゆきちゃんに出しました。ゆきちゃんは喜んでパイナップルを食べ、「なっぷる!なっぷる!」と喜びを表現しました。その後、りょうくんに変わり、「亮介、すげーな、あの子がしゃべった!」と驚きを示しました。私はゆきちゃんのことを完全に娘のように思うようになり、「子供ってこんなに可愛いのかよ」と心から感じました。

沖縄への旅: 回復への道

もしも願いが叶うなら
いつかいつの日か
罰を受け罪を償い
赦されたあかつきに…
泣いたり、笑ったり
何気ない日常を一緒に過ごしたい

海に沈む / Sundays Ring Road Supermarket

結婚し新婚旅行を経て、彼女に変化が現れました。解離性同一性障害の治療過程である「統合」が始まり、これは私にとっても、彼女にとっても、そしてりょうくんやゆきちゃんにとっても、家族との別れを意味するため、深い葛藤を引き起こしました。

統合は避けられない治療の一環として存在しますが、彼らはこの統合をどう受け入れるかに苦悩します。主治医から統合の開始を告げられた後、彼女の内面にいる人格たちはそれぞれの不安や願いを表現し始めます。親しんだ人格であるなおみやゆきちゃんなどは、消えることへの恐怖を感じ、自己の存在を守りたいと願います。

彼らは統合に対して多様な感情を抱きます。りょうは自らが統合されないことを理解しており、イサキさんはもはや表に出ることがないと述べながらも、常に彼女を見守っていると言います。

最終的に統合は彼女の内面で静かに進み、イサキさんは表に出ることがなくなりますが、ゆきちゃんやりょうなどの親しい人格は彼女の中に残り続けます。

統合により、彼女が背負うことになった統合された人格のトラウマは多岐にわたりました。摂食障害だけでなく、より深刻な鬱、パニック障害、強迫神経症などが発症しました。彼女は40度近い高熱を出し、心身ともに疲弊し、「入院させて」と懇願しました。その時、「ウプティンチナ」と名乗る女性が現れ、「沖縄に行きたい」と言いました。

翌日の通院時、彼女は入院を望みましたが、私と主治医は入院に反対しました。主治医が他にやりたいことを尋ねると、彼女は答えられない様子でした。ウプティンチナの話をすると、主治医は「できるだけ早く行くべき」とアドバイスしました。私たちはすぐに羽田空港に向かい、沖縄へ行きました。

沖縄に着いた彼女は少し回復し、とある島へ導かれるように行きました。地元のおばあちゃんたちに症状を話すと、特定のおばあちゃんを紹介され、そのおばあさんの家を訪れました。初めは断られましたが、「ウプティンチナ」という言葉を出すと、おばあちゃんは驚き、彼女に向き合うようになりました。

即効的な回復はありませんでしたが、数ヶ月後に彼女は妊娠しました。妊娠をきっかけに薬をやめ、「お腹の子に影響があるといけない」と主治医と相談し、摂食障害の症状もほとんどなくなりました。沖縄での体験は彼女にとって大きな変化をもたらしました。

彼女には母親との確執があり、その解消を望んでいました。母親が余命宣告を受けたとき、彼女は母親のそばにいたいと思い、母親の近くに引っ越しました。新しい住まいで良い産婦人科を見つけ、無事に出産しました。産後も順調で、母乳も出て、平穏な生活が始まりました。この時期は希望に満ちたものでした。

しかし、生活が落ち着いた頃、彼女の母親の容態が急変しました。母親が亡くなる1ヶ月間、彼女は毎日病院に通いました。母親とのやり取りの詳細は不明ですが、穏やかな時間を過ごしたようです。母親を看取った後、彼女は晴れやかな様子でした。母親との葛藤を乗り越え、沖縄移住を決意しました。沖縄には新婚旅行で転機があったこともあり、特別な縁を感じていました。

沖縄移住の準備中に、次女の妊娠が判明しました。しかし、妊娠中に彼女は肺炎を発症しました。原因は長年の摂食障害による胃の弁の機能不全で、妊娠によるお腹の大きさが胃液を肺に流れ込ませ、炎症を引き起こしたことでした。集中治療室での治療を経て、一命を取り留めましたが、非常に危険な状況でした。困難を乗り越え、彼女は次女も無事に出産しました。

そして

子宝に恵まれ、彼女と母親との確執も解消し、ついに私たちの幸せな日々が始まりました。二人の娘たちはすくすくと育ち、何も不足はありませんでした。しかし、突然の別れが私たちを襲います。


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