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本は凶器 本本本本本本本本本本本 本の雪崩 道浦母都子(みちうらもとこ) 

本は凶器 本本本本本本本本本本本 本の雪崩 
                 道浦母都子(みちうらもとこ)
 

(道浦母都子歌集「夕駅」─「続道浦母都子歌集」(砂子屋書房)より)


同人誌の集まりで 本の話になり、誰かが

「ほんとうに床って抜けるんだよ」

と言っていたのが 忘れられない。
もちろん本の積みすぎで、ということだ。

 その日、発送作業をした歌人の家も一軒家の玄関を開けたとこから本が高く積まれていて。
 時代は平成だったけれど そうは思われなくて大正か昭和の家みたい。と思いながらとことことことこ入っていく廊下の脇、その全てにずっとずっとうずたかく本。階段の段々にも本。そして入った部屋にも本しかなくて更に本棚にもぎっしり本。本。本。が呼吸がしにくくなるくらいに積まれていた。ああこれだけ読んでるんやなあ。と思った。

 今の住まいに短歌の友だちが遊びに来たとき。
 一階を まずざーっと見て、
小上がりの、子どものおもちゃで散らしているスペースをぱっと見て、
他の友だちなら おもちゃ置きいいやん。となるところを彼女は、

ああ後々(のちのち)ここに置けるね。いいなあ。と言った。
しみじみと言った。

もちろん本のことだろう。

今となっては本棚が増えてきて一階の押し込みの中にも本棚を設置、お風呂場の横の押し込みにも本。洗剤と本とがいっしょくたになって置かれている。この頃は寝る部屋にも本棚が来て。ああ本棚。ああ本棚。
以前先輩に「あなたの本は、まだ置いてありますよ」と言われたときは
意味がわからなかったが、とてもありがたい言葉だったのだと今はわかる。

今日の歌は、 

本は凶器 本本本本本本本本本本本 本の雪崩

作者は道浦 母都子(みちうら もとこ)。

1995年、1月17日。阪神・淡路大震災の時の歌だ。

 あの朝、私はパタパタと布団の上に落ちてくる本の厚みで目が覚めた。平成七年一月十七日五時五六分。目が覚めた途端、ドーンと突き上げられるように体が浮き、左右に揺れた。地震だと思ったのは、その時である。

 当時、私は自宅近くの公団住宅を仕事場にしていて、布団の周りは全て本棚。天上近くまで、本を積み上げていた。本は次々と落ちてくるので、布団をかぶり直し、揺れの止まるのを待った。どのくらいたったか解らないが、隣室の奥さんがベランダ越しに「ミチウラさーん。大丈夫ですか?玄関ドアを開けるように」と声を掛けて下さった。私は、山となった本の中から這い出し、「大丈夫です。ありがとう」と返事をした。その後、どうしたらいいのか解らないので、財布を握り、玄関ドアを開けたまま、実家まで歩いて辿りついた。

「続道浦母都子歌集」(砂子屋書房)より─ 初出「歌壇」2019年4月号)

「本は凶器」「本本本本本本本本本本本」「雪崩(なだれ)」が、
決してデフォルメではないことがわかる。

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