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Vol.29 私は強い

まだ20代の頃。

勤めていた部署は内科の病棟だったけれど
軽い精神科の患者さんも時々入院していた。

ひとり精神科入院してきた若い女性がいた。

結婚して子どもがいるのだけれど
鬱になったため、療養目的だった。

かわいくて、おとなしそうな感じ。
子どもがいるとは思えないような
純粋な感じのする女性。

優しそうな夫。
専業主婦。

未熟な私は
優しくて養ってくれる夫がいるなんてサイコーじゃん
なのに入院なんて?!
贅沢な悩みだな。

なんて思ってしまった。

その人の背景や生まれ育った環境
それまでの経験
その人の人生を丸ごとみるなんて考えには
及ばなかった。

私が彼女の主治医に
入院してのんびりできていいですよね~
(今振り替えるとサイテー)
と言うと、医師は

「人間って、弱い生き物なんだよ~」

と言った。

両親の不和をたくましく生き抜いて
看護師になり働いて自由に生きていた私には

ニンゲンハヨワイ?

意味がわからなかった。

独り暮らしでバリバリ働き
自立できていた。
怖かった先輩たちとも渡り歩けるようになり
人間関係もうまくいっていた。

私は強い

そう思っていた。

それから数年後
看護師5年やるという目標を達成した私は
何の目的もなく退職してしまった。

すると始めて
どこにも所属していないという不安に襲われた。
みんなは忙しくしているのに
自分ひとりが時間が有り余っている。

友達はどんどん結婚していく。

耐え難い寂しさにも襲われた。

そして極めつけ
バイトで検診採血のアルバイトに行ったとき
緊張して失敗した。
その時にものすごい目でにらまれて
「いたーい!」
と怒られた。

それがトラウマになり、
採血が恐怖になってしまった。

どうしよう
採血できないなんて、もう看護師できないよ

子どもの頃から看護師になりたくて
他の道を考えたことがなかった私は

看護師できなくなったら
何していきていけばいいの?

強い不安や恐怖に24時間襲われるようになり

精神科で「不安神経症(不安障害)」と言われてしまった。

その時、
人間は弱い生き物なんだよ
の意味を痛感した。


それからいろいろなことがありながら
現在も看護師として働いているが

患者さんにはとにかく優しく

を常に心がけている。

自分が不安障害になったことで
人の心の痛みに寄り添えるようになったと思う。

もしもあの時、不安障害になっていなかったら
私は人間という名のモンスターに
なっていたかも知れない。

当時は辛くて苦しくて寂しくて不安で
その苦痛は耐え難いものだったけれど

私に必要な試練だったと今は思える。

どんなことも自分が人として成長するために
必要なことなのかな

と思っている。

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