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AIとAI倫理の理解がビジネスチャンスとなる職業(技術士編)

 今回は読者様からのリクエストにより『AIとAI倫理の理解がビジネスチャンスとなる職業』シリーズの『技術士編』をお届けします。
 
『技術士』は非常に高度で広範囲の技術能力を持っていることが、証明されている国家資格であるにも関わらず、その資格の知名度と評価は意外と低い傾向があります。この傾向に関する説明は、筆者の感覚的なものも含まれています。しかし、筆者以外にも瑞宝章の最高位の勲章である瑞宝大綬章を受賞している経済団体連合会第四代会長でエンジニア出身の故・土光敏夫など多くの方が同じ主旨のことを述べています。

 ある程度、重要なエンジニアリングを経験している方や経営者の方々は、日常的に守秘義務契約書(NDAやCA)に目を通しているはずです。まともなNDAには、以下のような文面でNDAの例外事項として、弁護士や公認会計士や弁理士に並んで『技術士』にも機密情報を開示しても良いことが定義してあります。

秘密保持義務
【例外3】外部の専門家への開示
秘密情報の受領者は、弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、『技術士』等の法令上の守秘義務を負う者に対してのみ秘密情報を開示することができる。

AI無知倫理学会の標準NDA書式

  冒頭で述べた通り、『技術士』は日本の国家資格の一つで、科学技術分野の専門知識と経験を有することを証明するものです。技術士はエンジニアリングの最前線で、新しい技術の開発や既存技術の改良、技術コンサルティングなど、幅広い活動を行います。また、技術士の資格は、公的機関やプライベート企業におけるプロジェクトマネージャーやエンジニアリングリーダーとしての役割を果たすための重要な要素となることが多いです。 

『技術士』の具体的な職務内容は専門分野によって大きく異なりますが、例えば、建設業界では建築物やインフラの設計、施工、維持管理などを担当し、製造業界では新製品の開発や生産工程の最適化などを行います。また、環境分野では環境アセスメントや環境保全計画の立案など、ICT分野ではシステム開発やネットワーク設計などの業務を担当することもあります。

 また、技術士は企業内技術士としてプロジェクト責任者などの立場で活躍することも多いですが、『技術士事務所』として独立している技術士も存在しています。
 
『技術士事務所』が提供している専門業務は、事務所によってかなり特色がありますが、金融証券機関やベンチャーキャピタルが投資を実施する前に、投資対象の技術競争力や、技術の独自性や弱点などのデューデリジェンス(DD)を引き受けることも少なくありません。

 デューデリジェンス(DD)は、様々な分野において一般用語ですが、DDが何だかご存じない読者もいらっしゃるかも知れませんので、ここで補足説明します。

 企業が製品開発や生産を委託したり、業務提携したり、投融資を行う前には、取引対象となる企業の詳細な調査を行いますが、これがDDと呼ばれる包括的な概念です。DDは企業の財務状況、組織体制、事業戦略など多岐にわたる分野を対象にしていますが、特にテクノロジーや製造業等、技術力が企業価値を左右する業種では『技術DD』が重要な位置を占めます。

 技術士が技術DDを担当する場合、彼らの役割は投資対象企業の技術力を客観的かつ専門的な視点から評価し、投融資機関に対してその結果を報告することになります。具体的には以下のような事項が含まれます。
 
技術の特性:技術の新規性、革新性、技術的な優位性、使用する技術の現状と将来性などを評価します。
 
知的財産:特許、商標、著作権などの知的財産の所有状況、適用範囲、有効性、侵害リスク等を検証します。
 
研究開発:R&D(研究開発)の体制、戦略、投入資源、成果等を調査します。
 
製造:製造プロセス、製品の品質管理、供給チェーンの安定性等を確認します。
 
法規制:製品や技術が対象となる法規制、環境法規、安全規制などの影響を検証します。
 
 技術士はその専門的な知識と経験を用いて、これらの項目を総合的に評価し、投融資機関に対するリスクと機会の報告を行います。彼らは専門的な視点からの分析と評価を提供することで、投融資機関がより明確で理解し易い投資判断を下すことを支援します。
 
 ただし、技術士が行う評価はあくまで参考の一部であり、投資の最終判断は投融資機関投資の最終判断は投融資機関が行います。技術士の責任は、評価対象の技術や製品、業務運営等について、その専門知識と経験に基づいた正確で公正な評価を行うことです。
 
 しかし、彼らが提供した情報に基づいて投融資機関が投資を行い、その後問題が発生した場合でも、通常、技術士が法的責任を負うことはありません。ただし、意図的な虚偽の報告や重大な過失による評価ミスが明らかになった場合は例外です。

 また、技術士がDDを行う場合、その報酬や契約条件は投融資機関と技術士間で合意により定められます。技術士はその専門性と経験を活かして技術評価を行うことで、投融資機関にとってのリスクを減らし、より良い投資決定を下すための情報を提供します。そのため、彼らはその専門性と貢献に見合った報酬を得ることが期待されます。

圧倒的に不足しているAI専門技術士
 AIは急速に進歩しており、その応用範囲は広がり続けています。これに伴い、AIベンチャー企業の設立も増えており、それらの投資評価には専門的な知識が求められています。その一方で、AIの進化と普及は新たな倫理的な問題を引き起こしており、投資家はその影響を深く理解することが必要となっています。

 AIに関連したデューデリジェンスは通常の技術デューデリジェンスとは一部で異なり、特に以下のような点を注意深く調査・評価する必要があります。
 
技術の革新性:AIの分野は非常に急速に発展しており、その革新的なアイデアや技術は市場の競争優位性を決定づける可能性があります。しかし、一方でこれらの革新性を正確に評価するためには、現状のAI技術やその発展の動向に深く精通した知識が求められます。
 
AI倫理:AI技術が社会に広く普及するにつれて、その倫理的な問題が注目されるようになっています。個人情報のプライバシーやアルゴリズムによる判断の公正性、AIの意志決定プロセスの透明性、自動化による雇用影響など、多くの課題があります。これらの問題は法律や規制だけでなく、企業の社会的評価やブランドイメージにも直接影響を及ぼすため、投資家はこれらのリスクを深く理解し、対策を講じる必要があります。

 これらの課題を適切に対処するためには、投資家が自らAI倫理を熟知し、また、AI技術だけでなくAI倫理問題にも精通した技術士を雇うことが求められています。

 AIに関与する技術士は、技術的な観点からAIベンチャー企業の評価を行うだけでなく、AIが引き起こす様々な倫理問題についても理解し、それらを投資評価の一部として反映させることが求められます。具体的には、開発されているAI技術がどのような倫理的な問題を引き起こす可能性があるか、またそれらの問題がビジネスや社会にどのような影響を及ぼすかを検討します。例えば、AIが決定を下す際の透明性や公正性、データプライバシーの確保、バイアスの排除、AIの意志決定に対する人間のコントロール、雇用への影響などが重要な検討事項となります。

 これらの問題は、AIベンチャー企業の成功や失敗だけでなく、社会全体のAIの受容度にも影響を及ぼすため、投資評価において重要な要素となります。したがって、投資家は、自身がAI倫理を熟知した上で、AI技術だけでなくAI倫理問題にも精通した技術士を雇う必要があります。

 技術士がAI倫理に精通しているということは、技術的な問題だけでなく、倫理的な問題にも対応できるということです。これにより、投資家はより詳細かつ広範な視点から投資対象を評価することが可能となります。AI技術が急速に発展し、その適用範囲が広がる中で、このような多角的な視点からの評価はますます重要となります。

 また、AI倫理問題は企業の評価だけでなく、そのビジネスモデルや製品の成功にも直接的な影響を及ぼします。例えば、AIに関連するプライバシーやデータ保護の問題が発覚した場合、企業の評価は大きく下落し、それにより投資家のリスクも高まる可能性があります。そのため、投資家はAI倫理を深く理解し、それに基づいて投資判断を下すことが求められます。
 
 さらに、AI倫理問題は、法規制の動向や社会的な議論によっても変化します。そのため、技術士は最新の技術的な進歩だけでなく、社会的な動向や議論にも敏感であることが求められます。

 AI倫理に精通した技術士は、企業が持続可能で倫理的なAIの利用を実現するためのアドバイスも提供できます。例えば、企業がAIを使う際に適切なデータ管理やプライバシー保護のプラクティスを採用しているか、また、アルゴリズムのバイアスを適切に管理し公正性を保証するための手順が確立されているかなど、具体的な推奨事項を提示できます。これにより、企業は倫理的なリスクを減らすとともに、AIがもたらす可能性を最大限に活用することが可能となります。

 このように、AI倫理に精通した技術士は、投資家にとって重要なパートナーとなります。その専門知識と視点は、AIベンチャーへの投資評価をより深く、より広範に行うための基盤を提供します。また、投資対象が持つ技術的な能力だけでなく、それが持つ倫理的な課題や可能性についても評価できるようになります。このことは、投資家が持続可能で倫理的なAIの普及に貢献する上でも重要な役割を果たします。

 投資家がAIベンチャー企業への投資を検討する際には、技術的な視点だけでなく、倫理的な視点からの評価も行うことが重要です。そのためには、自らAI倫理を理解し、また、専門家である技術士と協力しながら投資対象の評価を行うことが必要です。これにより、投資家はAIがもたらす技術的な可能性を最大限に活用するとともに、それが引き起こす倫理的な課題を適切に管理することができます。

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