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AIの秘密兵器:無知倫理学でビジネスを変革する(2)

 AI無知倫理学以外にも『無知』が研究課題として取り上げられている学問は、哲学、心理学、教育学、経済学、社会学、情報学・図書館情報学、コミュニケーション学、政治学、法学、言語学・認知言語学、人類学・文化人類学、メディア学、マーケティング学、広告学・PR学、経営学・組織学、人間工学(エルゴノミクス)、安全工学、航空・宇宙学、電気工学、コンピュータサイエンスなど多岐に渡っています。

『無知研究』の重要性については、以下のブログで簡単に説明してあります。『無知研究』に馴染みのない方は、まずはこちらをご一読いただけると幸いです。

無知のさまざまな側面:哲学から心理学まで

 日本では倫理学に関心がある人自体が少なく、AI無知倫理学は元より、情報倫理学やAI倫理学もあまり知られていない学術分野です。

 哲学、倫理学、道徳、宗教(神学)、法律(法学)の間には密接な関係があり、これらの関係は時代と共に常に変化しています。現代の日本国では、義務教育で道徳を教えることに対して消極的な傾向があります。確かに道徳は学習指導要綱で定めた授業内容に対して、点数で評価すべき性質のものではありません。然しながら、道徳観の欠如は様々な社会問題の大きな要因となっています。

 日本国外では、AIの道徳についても盛んに議論されています。ところが、日本国内では、AIと道徳に何の関係があるのかさえイメージできない人が大半です。AIと道徳の関係については、『人間が如何に道徳的なAIの利活用ができるか?』という問題と、『AI自体に道徳的判断ができるかどうか?』が大きなテーマとなっていますので、これらについては別稿で詳しく説明します。

小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説
平成 29 年 7 月
特別の教科 道徳編

文部科学省

道徳の「教科化」等についての意見書
2014(平成26)年7月11日
東京弁護士会 会長 髙中 正彦
(中略)
 国家が子どもの内心に介入するおそれのある現行の道徳教育をいっそう強化し、子どもに対し、いっそう国家が公定する特定の価値の受け入れの強制をすることとなる点で、憲法及び子どもの権利条約が保障する個人の尊厳、幸福追求権、思想良心の自由、信教の自由、学習権、成長発達権及び意見表明権を侵害するおそれがあるものと言わざるを得ない。

東京弁護士会

AI無知倫理学の特徴


 欧米で発達しているAI倫理学は、倫理学のベースとなっているのが、古代ギリシャ哲学から欧米の近代哲学であり、東洋哲学はほとんど議論の対象にすらなっていません。ところが、AI無知倫理学では、以下のように禅や、タオイズムや、論語のような東洋思想における『無知』の概念も包括的に取り入れています。

禅:禅の思想では、初心者の心(初心)が重要視されます。『初心』『無知』や純粋さを表す概念で、先入観や固定概念に囚われず、物事を素直に受け入れる心のあり方を指します。禅では、この初心を維持することが、真理を悟るための重要な条件とされています。
 
タオイズム:タオイズムでは、自然や宇宙の根本原理である『道』に従うことが重要視されます。タオイズムの思想家である老子は、知識や知恵よりも、『無為』という自然なままの状態を大切にすることを説いています。ただし、これは知識や知恵そのものを否定するものではなく、人間の欲望や執着を手放し、自然の法則に従うことを重視する思想です。
 
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教:旧約聖書にはアダムとイブが知恵の実を食べたことが人類の堕落の始まりとされています。しかし、この話は知識や知恵自体が悪であるというより、人間が神の命令に逆らい、自らの力で知識を得ようとしたことが問題視されています。

『無知』の定義や判断方法には、様々なアプローチが存在します。以下にいくつかの代表的なアプローチを紹介します。
 
(1) 哲学的アプローチ:哲学では『無知』は知識や理解が欠如している状態を指します。古代ギリシャ哲学者プラトンは、無知を『知らないことを知らない状態』と定義しました。哲学的アプローチでは、無知を認識することが知識を追求する第一歩とされることが多いです。

(2) 心理学的アプローチ:心理学では『無知』は個人が特定の事実や概念について知識がない状態を指します。無知の程度や範囲を評価するために、知識テストや認知タスクを用いることがあります。また、無知が個人の行動や判断にどのように影響するかを研究することがあります。

(3) 社会学的アプローチ:社会学では『無知』は社会的・文化的な要因によって形成される知識の欠如を指します。このアプローチでは、無知は個々人の問題ではなく、社会全体の問題として捉えられることが多いです。社会学的アプローチでは、無知の原因や影響を分析し、社会的な問題に対処するための政策や取り組みを提案することがあります。
 
(4) 教育学的アプローチ:教育学では『無知』は学習者が特定の知識やスキルを習得していない状態を指します。教育学的アプローチでは、無知の判断方法として、試験や課題を通じて学習者の知識や能力を評価することが一般的です。

(5) 認識論的アプローチ:認識論では『無知』は知識の根拠や正当性が欠けている状態を指すことがあります。認識論的アプローチでは、無知を克服するためには、確かな根拠に基づいた知識を獲得することが重要であるとされます。
 
(6) 情報科学的アプローチ:情報科学では『無知』は情報の欠如やアクセスできない情報を指します。このアプローチでは、無知を克服するためには、情報リテラシー(情報を効果的に検索、評価、利用する能力)を向上させることが重要とされます。情報科学的アプローチは、インターネットやデータベースの利用に関連する無知の判断方法に特に適用されます。
 
(7) コミュニケーションのアプローチ:コミュニケーション学では『無知』は情報伝達の過程で生じる誤解や知識のギャップを指すことがあります。このアプローチでは、無知を克服するためには、効果的なコミュニケーション能力(リスニング、発話、フィードバック)の向上が重要とされます。コミュニケーションのアプローチは、人間関係やグループ内での無知の判断方法に特に適用されます。
 
(8) 知識管理のアプローチ:知識管理では『無知』は組織内で共有されていない知識や利用されていない知識を指します。このアプローチでは、無知を克服するためには、組織内での知識の共有や活用を促進する仕組みが重要とされます。知識管理のアプローチは、ビジネスや組織における無知の判断方法に特に適用されます。
 
(9) エピステミック不確実性のアプローチ:これは、知識の不確実性、つまり情報が不十分であったり、知識が不完全である状況を無知とみなす方法です。この観点では『無知』は情報の欠如だけでなく、情報が確信をもって解釈できない状況をも含みます。このアプローチは、科学的研究や医療の決定、気候変動のような複雑な問題に対するアプローチなどに特に有用です。

 以上のように『無知』の定義や判断方法は、多様なアプローチに基づいています。それぞれのアプローチは、異なる視点から『無知』を捉え、その特性を明らかにし、『無知』を克服するための戦略を示しています。

 これらのアプローチを通じて、我々は『無知』に対する理解を深め、より効果的な方法で無知を克服するための知識を得ることができます。この知識は、AI倫理に留まらず、教育、ビジネス、科学、医療、政策立案など、さまざまな分野で役立つことができます。

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