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【自粛飯】6月前半

6月、非常事態宣言が解除になった街の風景は徐々に活気を取り戻しつつあった。
元からいた以外の外国人観光客が入国できない現状にあって繁華街を賑わせているのは30代位下の若者で、中高年以上が家で夜を過ごす傍ら、彼らはバーでハイテーブルを囲んで酒を酌み交わしていた。

新型コロナウィルスの絶妙に意地悪なところは「感染拡大リスクのある行動をとった人と、そのリスクの結果の不利益を最大限に受ける人が違う」というところと「リスクを減らしうるための資源・条件が人によって違う」というところで、例えば自分のように出社しなくても直ちに仕事に大きく影響がなく、仕事と生活スペースも分けられ、個人の性質としても多少の孤独に対して「先を考えるとちょっと鬱々とするときもあるなあ」程度の人間にとっては、重症化リスクはいまだ低いとはいえ「万一感染してしまった時」の方が問題は大きく、「感染リスクのある行動は避けましょう」という態度に合理性がある。
しかし、普段から出社しないと生活が成り立たず、あるいは家で仕事をするのに不具合があり、なおかつ重症化リスクが非常に低い年齢の人にとっては「感染リスクを避ける」こと自体が難しく、そのうえ苦労して避けても深刻な問題が我が身に降りかかる可能性は低い。
問題はそれで蔓延した時にどう評価するかで、自分のような立場に立脚して理屈を組み立てると「なんで気をつければ避けられる行動をしてしまったんだ。その結果苦しむ人が出たのに」となるし、逆から見れば「私たちだけで回していれば何の問題もなかったのに、なんで危ない年寄りが街に出てきたんだ。大体、そんなに気をつけていちいち行動を避けるなんて現実的じゃない。私たちが街に出ないと店が潰れて苦しむ人もでるじゃないか」となる。
双方が自分が正しいことを言っていると考えているので、触れ合っていない「あの人たち」を指差す。
触れ合うことで情や感覚で誤魔化されてしまって、「体温のある有耶無耶」が理解に踏み出す架け橋になることもあるのに、そのリンクを切る。
この感染症が攻撃しているのは身体の健康じゃなく、人々の間の信頼や理解であるように思われた。

この時期はアメリカではブラック・ライブス・マターの大規模デモが起きた時期でもあり、人々の相互不信と怒りに関するニュースが次々と耳に入ってきていた。

それはそれとして、自炊は記録し続けた。


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6月1日(月)

・さっと焼いたサラダチキンとネギ塩ダレ
・青菜のおひたし
・紫玉ねぎの甘酢漬け

サラダチキンは便利すぎるが故に油断すると3食そればかりになりそうで怖いが、冷蔵庫にあると安心感のある食材で、時間のない時やメニューを考えるのが面倒くさい時にサッと満足感のあるものを作ることができる。
少しあぶって、作りおきのごま油のネギ塩ダレをかけた。
この日の夜、不注意でメガネのフレームが派手に曲がった。


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6月2日(火)

・あさり塩バターラーメン

前の週末に生の中華麺を買ったので、あさり塩バターラーメンをもう一度。
あさりは殻つきがなかった。
食べやすいものの、やや風情に欠けるな、と思う。
この日、東京都の新規コロナウィルス感染者は速報値で34人。
(ここらへんは確定値で修正が入るので、参照情報により若干数字が変わる)
4月より検査数が増えたことにより、その時と比べれば無症状・軽症者も掘り起こされての数字ではあるだろうが、検査体制は5月中旬ですでに強化され始めており、その時点で2人まで押さえ込めていたことを考えれば、感染が拡大しはじめたことは間違いないように思われた。
街の賑わいを見た時の嫌な予感が現実のものとなりそうだった。
曲がったメガネのフレームは曲げ直した。


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6月3日(水)

・葱油拌麺
・青菜のおひたし
・紫玉ねぎの甘酢漬け

調理を手早く済ませたうえで満足感を得ることを目標としていた昼食メニューだが、中華圏の代表的小吃、混ぜ麺ならそれが可能ではないか、と言うことで、前の晩に葱油を仕込んでおいた。
ただ、この葱油を使った葱油拌麺の場合、味はともかく見た目だけで美味しさを伝えるのが難しい。
油にネギの香りが染み出す過程にこそ「うまそさ」のエッセンスがあると考え、ネギの香りを油に抽出しながら動画撮影と編集に挑戦。
Youtuberならぬ自分にとって、調理の過程を飽きさせずに見せる自信はなかったので、しこみ含め1時間ほどの過程を1分に凝縮した動画を完成させたのだが、「短すぎだろ!」というツッコミを期待して同僚に動画を見せるとただ素直に感心されてしまった。
普段からよくスベり倒してはいるのだが、人に会わなさすぎて、笑いのツボがさらによく分からなくなっているようではあった。
メガネのフレームは変な力をかけ続けたため、折れた。


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6月4日(木)

・葱油拌麺
・青菜のおひたし
・紫玉ねぎの甘酢漬け

葱油を一度作ってしまえば、あとは麺を茹でて油・タレを和えるだけで拌麺を作れるので、このあたりから昼食に麺類が連打するようになる。
トッピングをいろいろ変えて工夫した。
折れたメガネのフレームについて、替えのメガネはあるものの、やはり視界の広さの問題などもあり、修理はしないといけない。
眼鏡屋に修理を頼みに行った。
スーパー以外の大規模な構造物に入り、生身の差し向かいで誰かと10分以上会話をしたのは2ヶ月ぶりだった。


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6月5日(金)

・豆腐皮と青菜の炒め物
・味付け卵
・青菜のおひたし
・紫玉ねぎの甘酢漬け

麺が数日続いたが、冷凍庫にはまだ麺状に加工できる食材が残っていた。
以前業務スーパーで買った、豆腐を乾燥させて板状に圧縮した「豆腐皮」である。
切って麺状にして使うのだが、この豆腐皮は意外と扱うのが難しい食材で、形こそ麺状だが、全く水を吸わないし、下茹でしないと独特の匂いがあり、簡単に他の麺と置き換えることができない。
下茹でをしっかりした上で少しの辛みを加えて焼きそば状に炒めるという調理法に落ち着いた。
料理は失敗して上手くなる。


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6月8日(月)

・蘿蔔玉米排骨湯
・しらす入りだし巻き卵
・青菜のおひたし

梅雨の季節の直前、街は陽気を感じさせ、とうもろこしが旬をむかえつつあった。
値段が下がったとうもろこしとスペアリブで、典型的な台湾の家庭料理の一つである蘿蔔玉米排骨湯湯で昼食。
台湾料理らしい優しく滋味深い味わいがこれからの季節にちょうど良い。
作り方もとうもろこしを打つ切りにする時の包丁の扱いや、煮込む時間以外は特別難しいところがないので、あまり失敗の心配もしなくていいのだが、ただ一箇所だけ、「下茹でしたスペアリブを流水で洗う」という、日本人の感覚からしたら豪快すぎる工程を挟む。


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6月9日(火)

・葱油拌麺
・蘿蔔玉米排骨湯
・じゃがいものサラダ ヨーグルトディルソース

拌麺のようなシンプルな料理だと、個々の素材の特徴がストレートにでる。
つけ麺用の太麺を使用したら、個人的には好みのバランスになった。
この夜、まだ余っていた豆腐皮をどう美味く食べるのか思案して、Youtubeを検索したところ、大量の唐辛子やスパイス類と熱々の油でつくった麻辣味で和えるレシピを発見。
引くほどの唐辛子を使った割に意外と食べられる味となり、一瞬「行けるか」と思ったものの、あまりに大量の唐辛子を一度に摂取したことで、翌日、身体にだるさが残った。
やはり中国の辛い料理を食べ続けてる地域の人や韓国・タイの人などとは身体の構造が少し違うらしい。


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6月10日(水)

・葱油拌麺
・蘿蔔玉米排骨湯

麺も葱油もあるのでこの日も拌麺。
昨日の激辛が後を引いてしまっている中、仕事が忙しくなりはじめたタイミングで、手早く食べられるものがあるのは助かった。
コロナの新規感染者数は20人前後を推移。
取り戻しつつある街の活気と比べてこの程度で今後も膠着しているのであればもうけものか、もしかしたら下がるかもしれないと思ったものの「そんなわけはないだろうな」と思い始めていた。


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6月11日(木)

・豚とパプリカのナンプラー炒め

パプリカは彩も味も好きでよく買うのだが、一部をおひたしにしても半分くらいは残ってしまう。
鮮度が落ちないうちに炒め物にした。
この日、ネットで少し話題になっていた「ローソンのPBのリニューアルパッケージのわかりづらさ」について、ローソンの社長自らが質問に答えるライブ動画と言うものがあり、現在進行形のいまいち評価の芳しくないデザインプロジェクトの意図を企業のトップが説明してくれる、というなかなかないコンテンツとしてふむふむと興味深く見た。
このプロジェクトは、別に倫理を踏みにじってるような事でもないのになぜかネットでは一部で猛烈に叩かれており「コンビニが担うべき公共性を投げ捨てた」「たかがコンビニが無印になろうとした」という声が上がり、社長が動画で成り行きを語れば「説明責任を果たしていない」「言葉の端端で逃げている」「言い訳だよね」とまたもや叩く。
Webデザインをやっていると、システムに比べてアウトプットが目に触れやすい分、デザインに対する注文は各方面からとても多彩で気軽に寄せられるのを感じているが、一部ではそれを超えた「『デザイナー様』はお仲間で固まって俺たちを見下していていけすかねえ。それで社会的に成功してるならもっといけすかねえ」「今度隙を見せたらすぐに行ってやる」という空気もあるようで、それがこのストレス下で格好の生贄を見つけて噴出したように感じた。
まあ、世の大半のデザイナーは各方面からの修正注文に右往左往しながら、ひたすらカチカチとマウスをいじってるうちに日がくれてしまう点において皆さんと何ら変わるところなどない。
話くらいは一通り聞いて欲しいものだ。


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6月12日(金)

・炒飯
・紫玉ねぎの甘酢漬け

いろいろ手を広げすぎて忘れがちだが、チャーハンはお手軽で美味しい料理の代表格だ。
「成功するかどうか分からない料理を手早くするチャレンジもさすがにめんどくさくなって来たな・・・」と思った時に「そうだ、炒飯でいいじゃん」とおもうと最後の防衛線がある気がする。
創味シャンタンを常備するようになってから、仕上がりの安定性が格段に増した。
手元にフレッシュハーブなど、ちょっと緑色の食材があると、食べててても侘しくならない。
この日の新規コロナウィルス感染者は25人。
2週間ほど、20〜30人台を防衛線とした膠着状態が続いていた。



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