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梅肉エキス|民間療法と科学のバランス感覚

おれという人間はこれまでの人生の中で大病をしたこともなければ大怪我をしたこともないスーパー健康優良児で通っていたんですけれども、これまで多少インフルエンザに罹ったり自転車で転んでちょっと擦りむいたとか、病気や怪我もその程度のものはあったにせよ、親からしたらたいへんに手のかからない子どもだったわけです。自分で言うのもなんだかおこがましいことではありますが、きっと両親はおれの門出に際し諸手を挙げて喜び、「健康第一」と書かれたのぼりを庭先に掲げ、重箱いっぱいにぼたもちをこさえて近所中に配ってまわるくらいのことはしていたと思うんですけれども、それはそれとして、日々ニコニコとNK細胞を大量生産しながら、お腹が空いたらパンとか食べて、ご機嫌よろしく暮らしているおれです。好きなパンはナイススティックです。今日も食べましたナイススティック。


そんな感じなんで医者に罹ることもほとんどなかったもので、上京してきてからというもの、病院に行った回数は数えるほどなわけなんですけれども、軽く体調崩すときってあるじゃないですか。季節の変わり目にちょっと風邪っぽいな?って思うこととか、あとは、落ちてるパンを食べてあまりにもお腹が空いてるものだから、うっかり地面に接地しちゃってる面を食べちゃってすっごいお腹痛くなるとか、誰しも一度はあると思うんですけれども、それくらいだったら病院に行かずになんとかしてしまいます。おれが病院に行くときっていうのは、ちょっとこれはどうにもならなそうだぞと思ったときに初めて行くから、基本的に病院という場所は怒られに行く場所だと思っています。「服くらいちゃんと着てきてください!」って。じゃなくて、服はかろうじて着てるんですけど、「どうしてこんなになるまで放っておいたんですか!」とか怒られて、一旦シュンとなるじゃないですか。一旦シュンとすることによって、病気の原因になるバイ菌とかが小さくなっていく、そうやって病気を治す新手の治療法だと思っていますから。病院に行くということはつまりそういうことなので、よほどのことでなければ医者にかかることはないわけです。

それで基本的にはなんでも自然治癒なわけなんですけれども、民間療法というか、その手の健康にまつわる怪しいエトセトラにはたいへん興味があります。発酵食品を食べましょうとか、風邪ひいたときはねぎを首に巻きましょうとか、あとは疫病にかかったと思ったら大僧正様に祈りを捧げましょうとか。こういう民間療法について知る際に「第二の心臓」ってめちゃくちゃ多いんですよね。腸が第二の心臓!っていう人もいれば肝臓は第二の心臓!っていう人もいれば、大僧正様は私たちの心の中に棲んでいて、「約束の日」にだけ私たちの前にいらっしゃるという人もいます。とにかく体の大事な部分を第二の心臓と呼ぶケースがたいへんに多いわけです。それでいうと、おれたち体のいろんなところに心臓がある動物、すなわち実質イカとかタコとかその手の生き物といって差し支えないでしょうね。そんなわけねえだろあとその大僧正様って誰なんだよ。

それでこれまであらゆる民間療法に手を出してきたおれですが、その中でも一番これはヤバいなと思うものがあって、それが表題にもある「梅肉エキス」です。梅肉エキスっていうのは、梅干しを大量にひたすら煮詰めて、梅干しの中の梅干し的成分をギュッと小瓶に詰め込んだ水飴みたいな質感の食べ物です。これがとにかく酸っぱい。なにせ梅干しを大量に煮詰めているので、それだけ梅干しのすっぱい成分、クエン酸が詰まっていますから、ほんのすこし、量的にはおさしみにつけるわさびくらいの量を舐めただけでも数百個分の梅干しが一気呵成に口の中に攻めてくるような錯覚に陥ります。

ちっちゃい瓶にエキスがいっぱい

科学的な根拠はないようなんですが、梅っていうのは殺菌効果が半端ないため、この梅肉エキスを舐めるとちょっとした風邪くらいなら一晩で治る、またクエン酸を摂取することで全身の細胞が活性化して瘦せられる、気分飛んで頭がスッキリする、テストで100点を連発し、所属しているサッカー部ではハットトリックを連発、最終的には幼馴染のサキちゃんからも告白されるなんていう進研ゼミの漫画みたいな状況になるとも言われています。一舐めするだけで創作意欲もグングン湧いてくるので、ラッパーとかもよく梅肉エキス舐めてるらしいです。舐達磨の「舐」の字は梅肉エキスから来ているという説もあるくらいです。すなわち、体のあらゆる不調は梅肉エキスさえ舐めておけばなんとかなると言う人もいます。(※個人の感想です)

舐達磨

だからおれはいつも会社のデスクに梅肉エキスの小瓶を置いていて、ふとした拍子に舐めるんですけど、会社で梅肉エキスを舐めてるのを同僚の人たちに見つかり、なんすかそれって言われた時とかにこの手の民間療法について語るとき、あまり熱が入りすぎるとちょっと危ない奴みたいに映ってしまうのが悩ましいところです。そもそも科学的根拠のないものなので、話せば話すほど怪しい論理展開になりがちなのです。学生時代に一瞬だけ仲良かった河内くんがある日宇宙のパワーに傾倒しちゃって、銀河系の向こうにあるナントカとかいうレコード盤にアクセスをすることで今自分がとるべき行動が分かるとか、アセンション・マスターにサイキックしてもらうとか言い出したときの感じになっちゃいかねないので、友達いなくなっちゃうので、あまり声を大にして梅肉エキスの魅力を喧伝できないところではあります。

まあこの手の民間療法も行くところまでいけばスピリチュアルとか宗教とかそういうのと近い世界になっちゃうんだろうな、と思って一定の距離は置きながらほどよく付き合っていきたいねって感じなんですけれども、それでも新しい民間療法などを聞くとすこし前のめりになってしまうおれです。最近だと知り合いのバンドマンがキヨーレオピンを飲んでめちゃくちゃ元気になったとか聞くと気になっちゃいますし、疲れた同僚がニンニク注射をするようになってから湧き出るパワーがヤバいとか言ってると一発打ってみたくなります。今一番気になってるのは酸素カプセルです。これは持続性は低いけど瞬間最大風速的に力を発揮しないといけない場面ではかなり優秀とか言われるとめっちゃ気になるじゃないですか。一通り試してみたいなーと思いつつ、こういうのって割とお金がかかるんですよね。梅肉エキスだってちっちゃい小瓶程度の大きさで3000円とかしますから、そんなにお金ないわよってマーケティングでターゲットにされがちなF1層の顔で言ってるおれですけれども。

でもこういうのに頼りまくった結果病院に一層足が向かなくなって、取り返しのつかないタイミングでノコノコ病院に行って怒られるの無限ループなんですよね。散々科学的根拠に乏しいものをアテにした挙句、最後は科学の力に頼るという構図がなんとも皮肉でそういうイソップ童話とか作れそうですよね。それでもこんな奴を相手にして、怒りながらもなんだかんだ最善を尽くしてくださる医療関係者各位には頭が上がりません。いまからおれのアパートをライトアップしますんで、道に面したすべて部屋の明かりを調整して「舐」の字にライトしますんで、それで感謝の意にかえさせていただきたいと思います。お医者さんに怒られない自分になろう、歯医者さんに褒められる歯になろうのノリで心身ともに健康体のまま健康診断でお医者さんに褒めちぎられまくろう、そうやって悟り開くまで健康体で生きて、最終的におれ自身が大僧正様になりたいですよね。

それはそれとして、もうすぐ梅雨入りするんでそろそろ梅仕事の季節ですね。おれ梅雨が大嫌いなので、毎年この時期をご機嫌に乗り切るために梅を漬けてるんです。去年は漬けが甘くてカビさせちゃったので、今年はじょうずに漬けられたらいいな~ってナイススティック食べながら考えてます。そんな感じです。

梅仕事の季節 カミングスーン

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