美しく在りたい

*

貴女は今、貴方ですか?

*

好きな人がいた。

幼馴染みで、

中学と高校がつながっている、

同じ女子校に通っていた。

彼女は2次元の男性が好きで、

私は男性アイドルが好きだった。

*

私は屑でグズだ。

小学校最後の年、

体育で運動場に行かなければならず、

着替えるのも靴を履き替えるのも遅かった私は

チャイムがなる直前まで靴箱で苦悶していた。

「ねえ、私待ってたら遅れちゃうよ?」
「いいの!」

そんなやり取りが何ターンかあった後、

なんで、置いていっていいのに、と呟いた私に

「だってaikuは友達だから」

真面目な顔でそう言ってのけた

彼女が美しかった。

眩しかった。

私は。

逆の立場だったらこの子を置いていく。

絶対に。

先生に怒られたくないから。

成績は稼げるだけ稼ぎたいし。

つくづく自分が大好きな自分が

汚くて屑で

嫌になってしょうがなかった。

そして純粋に友だちを思える

彼女が羨ましかった。

*

綺麗な綺麗な彼女は、

無邪気だった。

移動教室の直前。

クラスに帰ってきて暑いからと、冷房を

教師に決められた温度より5℃位低くして、

弱にしなければならなかった風量を強にして、

にやり、

とか

にしし、

とか

笑った。

教師に、目上に、逆らうなんて

絶対に、絶っ対にやってはいけないと思っていたから

背徳感と恐怖感が私を驚かせた。

(決して正義感ではないところが私の屑たる所以)

「いいの?怒られない?」
「だいじょうぶ だーいじょうぶ、」

その無責任な感じが

どういうわけだか本当に面白くて

彼女は笑ってる私に笑って、

2人で爆笑して、

移動教室に遅れそうになった。

*

彼女が私に「種」を撒いたのは

このあたりの日々からだったと思う。

私はいつからか他の友達に『姫』と呼ばれるほど何もできなかった。

(多分容姿を誉めるとかの理由ではない)。

彼女は対照的に、テキパキなんでもこなせる人で、

『姫』な私を嫌がることなく、

寧ろ進んで横にいてくれて、

友だちでいてくれる人だった。

何度も何度もその優しさに助けられた。

その癖平気で

「してはいけません」と言われたこと

(宿題をすっぽかすとか教師になぜか禁止されたトランプを修学旅行で持ってくるとかで、)

(法を犯すようなことはしていません)

をする彼女。

いつも私を守ってくれるのに、

てきとうなんだよなあと

ひどく可笑しくて。

私に出来ないことをやってのける

彼女は、

純粋でうつくしくて、

人として大好きだった。

なぜか私を好いてくれる彼女と

誓いのように、笑い合った。

「ずっと親友だよ」

*

それを恋かもしれないという気持ちの「芽」

が生まれたのは中学校2年生位の時。

その頃、彼女と私はクラスが違った。

*

中学1年の時私達は

「お勉強を頑張るクラス」に2人ともいた。

彼女だけは

「別に、うーん」

と言っていた。

他人事という感じだった。

私より断然頭が良かったのに、

彼女はすぐに次の学年でそのクラスを辞めた。

「雰囲気がいやだ、きつーい、aiちゃん頑張ってね」

挑戦的な目で、すこしからかうようにそう私に告げて。

*

確かに、テストの時の、

「私勉強してなぁい(でもいつも90点代)」

「私もー(でもいつも90点代)」

「悪かったやばぁい(80点代)」

彼女たち(大勢)にどう反応するのが正解か分からなくて、

笑って過ごすしかなくて、

不毛に思えて仕方がなかったし、

『全体の平均点いいなーすごいなー』

と思っても、教師から

「これで満足しないでください。貴女たちはこれが普通です。」

と宣告される世界は息苦しかった。

鉄の塊を背負わされて、登山をさせられているようだった。

*

放課後、

「こちとら90点代も80点代もすごくうれしいんですが?????」
「なんなら赤点じゃなくてガッツポーズなんだけど(笑)」

と2人で言い合った。

「いみわからーんもう来年無理かもー」

と泣きそうになりながら

チョコミントアイスを溶かしていたのは、

むしろそのクラスの一員であることに

ベッタリ執着していた私の方だった。

彼女は早々にチーズケーキ味のアイスを食べきって、

「降りる、うん」

と宣言していた。

それがあまりにサッパリしすぎていて、

本気だとは全く考えていなかった。

それに、

私より断然頭が良かったから。

*

「彼女がいるならどのクラスでも良い」


本気でそう思っていた。

喧嘩をしたこともなければ、

笑いのツボもピッタリで、お互いがお互いの

『取説』を持っているような心地よさが幸せだったから。

でも。

彼女は1年次のクラスを辞めた。

私は辞めきれなかった。

(というか彼女が同じ思いだと勝手に思いこんでいて、

クラスを降りるなんて考えてもいなかった。)

ほぼクラスのメンバーは変わらなかったから

友だちはいたけれど、

彼女が1番だな、この子たちより彼女といたい

と心のどこかでずっと思っていた。

その事が多分伝わってしまって、

彼女たちを傷つけてしまっていたと思う。

この好きがどんな好きかなんて、

考えもしなかった。

*

恋愛的な好き、

という蕾が膨らんだ日は多分、

その年の夏のある日。

彼女と私は、小学5年生の時から、

春か夏の長期休みにどちらかの家で

1泊2日のお泊まり会をしていた。

その年は、2日目に電車で遊園地に行っていた。

帰りは、

駅に着いたら父が車で彼女を家まで送ってあげる予定だった。

その電車の中で、

苦手な同級生グループが別の車両に居ることが分かって、

彼女と2人で居たかったから

私は行かない、

と言った。

そうすれば彼女も行かないでくれると思って。

けれど彼女は、

そのグループを私が苦手としていることをつゆしらず、

行ってくるね、

と、ふ、と行ってしまった。

折角2人きりだったのに、

しかも嫌いな相手に持っていかれた、

と辛くて辛くて仕方がなかった。

確かに2日も一緒に居れば話すことは無くなっていた。

私は無言でも幸せだったけど、

彼女はつまらなかったのかもしれない。

かなしかった。

降りるひとつ前の駅に止まって、彼女は戻ってきた。

楽しかった?

(私無しで。)

楽しかったよ、あのねあのね、

無邪気な彼女が辛くて、

窓の縁に置いた彼女の財布と切符を眺めて流した。

やがて、駅について、バタバタと降りて、

まさか切符と財布忘れてないよね、

なんて笑ったら、本当に彼女はそれらを忘れていて、

彼女は急いで電車に取りに帰って、


ドアが閉まります


「「「あっ」」」



彼女と彼女の周りの乗客みんなの、


全く同じ、表情、


彼女と、私が向かい合って、ドアが閉まっていく、


ふたりの間の壁のでき方が


スローモーションで、


奇妙で


わすれられない。


*

私はパニックだった。

何せなにもできない姫だから。

人に話しかけるのが苦手なのでスマホのGPSに頼った。

バグっていた。

そんなわけ無いのだけれど、現在地として遊園地の最寄り駅を指していた。

パニックな私は、

迎えにきてくれている父がいる駅に行かなきゃ、

とさらに電車に乗った。

父は自分の思い通りにならないと怒鳴る。

怒鳴る。

それはもう小さいときから変わらなくて、

ものすごくこわい。

早く帰らなきゃ、でもどんどん見たこと無い田舎になっていくおかしい

そう思って、勇気を出して隣に座っていたおじいさんに、

(父がいる駅名)ってこの電車乗ってれば着きますか?

と聞いた。

そりゃあ、アンタ、アンタが乗ってきた駅がそこだよ

父に怒られる恐怖と、

彼女が私以外の人のところに行ってかなしかったことと、

夜更かししてつかれていたことと、

全部が一気に押し寄せて、泣いてしまった。

だいじょうぶかいと、おじいさんは優しく笑ってくれた。

だが、駄目押しでかかってくる父からの電話。

公共交通機関内で、本当に申し訳無かったが、

出ないと命に関わるレベルでキレられるので、出た。

どこにいるんだ、彼女とは会えたから早く戻ってこい

怒鳴られてまた泣いた。

*

電車を降りて、


やっとこさ彼女と会って、

抱き締めあって、


ほんの少し私より背が高い彼女の肩に顔をうずめて、


号泣した。


あったかかった。


そのあと、

帰りの車の中で、2人で記念にと自撮りした。

私は涙でぐずぐずで、

彼女はそんな私を笑わせようと、

変顔に近い笑顔だった。


大好きだなあと心から思った。


*

それから

「彼女の横になぜ私以外の子がいるんだろう」
「(彼女の)横で笑ってる奴絶対刺す」

(※刺してません)

スキンシップされると他の子でも緊張するけど彼女の時は顔が真っ赤になってしまう、

等々。

常に考えていたそれらを、

妙に意識するようになった。

彼女への「好き」は、もしかしたら。

と。

そうして、


「恋するメンヘラ」


という最悪の花を咲かせてしまった。

中学3年生の梅雨入り前のこと。

*

ずっと、ふざけては、私たちに

お前ら結婚しろよ

と言っていた共通の友達にだけ、

もしかしたら私はアイツが好きなのかもしれない、

とカミングアウトした。

やっぱりね、と慈しむように私を見て、

彼女は笑った。

絶対そうだと思ってたよ

告白したら、付き合ったら、報告してね。

そう言われて、その日は別れた。

*


耐えられなかった。


年々酷くなっている、

クラスの雰囲気だとか、

私の隣に彼女がいないことだとか、

彼女の隣で他の女がベタベタしていることだとか。

成績を維持していたい自分にも、

彼女の周りへの嫉妬で醜い自分にも、

「女の子」が好きな自分にも。


全てに。


*

でも「嫌いな自分」をみないふりしていれば

いつの間にかソイツが

消えるんじゃないかと思って、

頑張って笑顔で過ごした。

泣かなかった。

けれどやっぱりソイツも私の一部だった。

*

彼女を好きかもしれない、と思い始めた頃、

体操服を忘れて、他クラスの彼女に借りた。

彼女の香りがするその体操服に、


欲情した。


「あぁ、私はやはり彼女を性的に好きなんだな」


と思った。

諦めにも近かった。

彼女の体操服を着ていることがうれしくて、恥ずかしくて、

妙にはしゃいで、

きもちわりぃ、(笑)

といじられた。それでも幸福だった。


今、私が誰より彼女に近い、とおもっていたから。


*

それでも私は自分の中のソイツを認められずにいた。

そうしたらある日、

ぽろっと「僕」という一人称が生まれた。

それは今でも、辛い時に出る。

「僕」と言っている自覚はあるので、

他人格と言うわけではないけれど、

「女の子を好きなのは男の子」

と言うのが「私」の中に潜在的にあるから生まれた、

「僕」なのかもしれない。

*

7月。

もういいや、

周りにはバレてるだろうし

(※周りの女にマウントとるためにわざと仲良しアピールしていたのでバラしているの方が適当)

わんちゃんあるかもだから、

告白しちゃおう。

決めた。

*

いつも私と彼女と友達2人とで帰っていたけれど、

告白すると決めた日には、

大事な話があるからと、

2人に先に帰ってもらった。

「何?告白でもするの?」

1人が茶化す。

どう反応して良いか分からなくて、ゆっくり振り向くと、

「これは違う絶対違うwwwww」

と勝手に2人が納得して帰ってくれた。

今でも気を使ってくれたのか本当に私の反応が変だったのかは定かではない。

*


「好き、かもしれない、友達的な意味じゃない方で」


私は

うつむいて小声で、震えていた。

「話がある」と言った私を、彼女が連れてきてくれた、

彼女のクラスでも、私のクラスでもない、

誰もいない、放課後の、同じ学年の、

電気のついていない教室。

怖かった。

気持ち悪いと言われるかもしれない。

嫌われるかもしれない。

周りにバラされるかもしれない。

彼女をふ、とみると


無表情だった。

思春期には良くあるらしいよ、名前は絶対出せないけど、何人かにおんなじようなこと言われたんだー
多分大人になったら私のこと忘れてると思う
aiちゃんJヲタじゃん?顔が良い男の人の方が絶対良いって、女子校だから勘違いしてるんだよ

「このままでいよう。」


そう言われた。

キツかった。


確証は持てないけど、本当に好きなんだよ。
勘違いじゃないよ。
貴女の体操服の香りを、私も、
私のからだも忘れられずにいるんだよ。


なんて、言えなかった。

体操服は欲求不満の一言で一蹴されるだろうし、

私は正直彼女を好きな私を認められていない。

そんなこと言ってしまったら、屑な私は

いよいよ彼女と一緒にいられなくなってしまう。

「ねえ、私がもし男の子だったら結婚してた?」

口からその言葉がついて出た。

「うん。逆に私が男だったらaiちゃんと結婚したかった」


じゃあ、女の子の私じゃ、駄目、なの、そっか、そうだよね、

頭の中が苦しくて、

口に出せないぶん、逆に涙がでなかった。

それから2人で無言で校舎を出て、

いつも家の方面的に別れる横断歩道を渡りきった道で、

「ありがとう、ハグだけさせてもらってもいい?」

と言った。

彼女は疲れたような顔でいいよ、と言ってくれた。

雲がぐずりだす寸前みたいに重たかった。

かなしかった。

泣けるかな、とハグの間思ったけれど、泣けなくて、

抱き締めるのは、

当たり前かもしれないけれど、

私のちからばかり強かった。

帰ってなんとなく、髪を切りに行った。

*

その前後から私はおかしかった。

朝起きたら、

涙が止まらない。

全身カチン、と固まったように動けなくなる。

彼女にフラれる前からだったから、

原因はよくわかっていなかった。

学校では笑顔で、絶対に友達に弱さを見せまいとしていた。

友人たちは

メンヘラかよwwwww

と笑うだけで、

さらに弱さを見せると空気が重くなって、

めんどくさい

というオーラが皆から発せられて、

楽しい時間を台無しにしてしまうから。

でも限界だった。

「少し嫌なこと」がたくさん積み重なって

無意識のうちに、

「すごく嫌なこと」に変換されていた。

その上、

私はあまりに自分を嫌いになりすぎた。

*

家庭科の時間だった。

実習中、涙が止まらなくなって、きちんと授業を受けられなくなった。

みんなどうした?と言っていたけれど、

私が一番どうした?と思っていた。

*

保健室に行った。

「どうして泣いてるの?」
「理由教えてくれないとどうしようもないし帰せないから」

どうして?どうしたの??

保健室のBBAから問い詰められた。

そっとしておいてほしかった。


告白したこと、

フラれたこと、

彼女は気にしないと言ってくれているから、

それを負担に思っているつもりはないが、

それらが原因かもしれないこと。

泣きながら、全て話した。


3度目は、最悪のカミングアウトだった。

「勘違いじゃないの?それはおかしいよ。うーん」


頭の中に透明で分厚い板が、すん、と降りてきた。

涙が止まった。

あぁ、人は絶望すると感情が無になるんだなあと初めて知った。

そしてBBAはなぜか、

保健室用の名簿のようなものを使って、私が好きな相手を探り始めた。

「同じクラス?」

はい、

と言ってやって、

そのあといくつかの質問全てに嘘をついてやった。

お陰で少しだけ楽しくなって、

ありがとうございましたと笑顔で教室に帰った。

*

それから私はメンヘラを爆発させ続けた。

*

彼女は超のつくインドア派だから、

全く遊ぼうとしてくれなかった。

だからわたしは、何かにつけて

1年に1回でいいから遊んで!!ねえ??

私のこときらいになった???


と姫らしくずっと、駄々をこねてこねてこねた。


やだー、本っ当にやだーーーーー嫌いになってないけどやだーーーーー


彼女も私も半泣きで、

お互いに懇願した。

教室の両端で。(彼女が私から逃げたから)

いつも一緒に帰っていた友人が2人が、

1人ずつ私と、彼女をなだめる側にまわった。

いい加減にしろよお前~
遊んでやれ~

口々に友人たちが彼女を私と遊ばせようとしてくれた。

私は何歳なのだろう(15歳)


やだーーーーーやだーーーーーおうちいたいいいい


と、彼女。


キレた。

悲しくて寂しくて拒絶が辛くて、

何やねんこいつ、と思った。

泣いてるのを見られたくなくて、

すきなひとへの怒りのぶつけかたが分からなくて、

彼女に背を向けて、

ええい、

とかいって

黒板に、5センチくらいの距離から

髪ゴムをパチンコみたいに飛ばした。

教室にいた人たちに

やば、なにやってんのー

と笑われた。

それにも腹が立ったけど無理に笑って、

じゃあね、と皆に告げて教室を急いで出て、

靴箱まで階段をかけおりた。

待て、って、

私をなだめてくれた側の友人が追いかけてきてくれた。

ほっといて、、、よ、?

その子を傷付けたくなくて、

でも半泣きの顔も見せたくなくて、

小声で、言った。


嘘付け、かまってほしいんだろー?


そういって肩を組んできてくれた。

頭の回転がとんでもなくはやくて、

私が気を遣わないように、ほしい言葉をくれた。

泣いてしまった。

"彼女"とは別の意味で大好きだ、と心から思った。

靴箱を出て、校門近くにきたら、

えー、うん、ごほん、

とかわざとらしい声が後ろから聞こえて、

振り替えると少し距離を置いて

彼女ともう1人の友達がいて、

あれー、おかしいな、aiちゃんー、aiちゃ、ごほん
ドウシヨウコレ、ドウスル

なんて、ずっと2人で言ってたから

あぁこの人たちは本当にもう、とちからが抜けて、

無性に可笑しくて、笑ったけど、

直接言えよ、と少しだけ腹が立って。

何より彼女が

ちゃんと私のための日をつくるって明言してくれなかったから、

悔しくて、

友人2人にはお礼を言ったけど、

いちばんすきな人を涙目でにらんで、

告白した日に彼女とハグした道を、

私は左に、

3人は右に曲がって帰った。

上り坂を1人で泣きながら帰るのは、

しんどかった。

酸欠になるし、後ろから上ってくる人、

前から下ってくる人の目が

気になってしょうがなかった。

坂を上りきって少し歩いたらちょうどバスがきて、

唯一カミングアウトしていた友人が乗っていたから、

文字通り泣きついて、これまでのことを話した。

小学生女子が私のことをずっと見てきたから

何?そんなに泣いてるのおかしい?好きな人にことごとくフラれてその好きな人が女の子なのそんなに嘲笑しい?ねえ、目なんでそらすのねえ????

と、バスの中でその子相手に詰問してしまった。

友人に、止めな、と言われなきゃ、

相手が泣いて謝るまでやっていたと思う。

それくらい追い詰められていた。

(もし同じバスに乗っていた方とその小学生が読んでいたらごめんなさいこの場で謝ります)


*

それから、約1年。

*

(私)1年に1回でいいから遊んで!!ねえ??

私のこときらいになった???

VS

(彼女)やだー、本っ当にやだーーーーー嫌いになってないけどやだーーーーー

*

一応その前の年、メンヘラ騒動のあと、

駄々をこね続けた私に、彼女が折れてくれた。(やったー!)

夏休み、私の家に泊りにきてくれた。

(※何にもしてないです)


けれど、進級して高1になってから、

大学が決まっていなかった私は、

どこにでもいけるように、と、

「推薦のための出席日数や成績」

を意識しなければならなくて、

しかも彼女のクラスの教室と、

私のクラスの教室のフロアが変わって見かけることもなくなったから、

かなり参っていた。

彼女を充電させてほしかった。

*

こないだの日曜日、(彼女)、(彼女のクラスメイト)と遊びに行ったんだってね

カミングアウトした唯一の友達が、そう話し始めた。

意地悪とかではなくて、彼女の話をしたら私が喜ぶから、という軽いノリだった。

こないだの日曜日。

外に出たくないからと私を断った日。

ふーん、そうなんだ。

その友人に相槌をうつことばでも、

頭の中で彼女を糾弾することばでもあった。

*

なんとか涙をこらえてこらえて、登校して、

教室に入って、

ど真ん中の席。

荷物を机の上に置いて、立ったまま、

泣いた。

友達は隣の席で、

えっちょっとまってaiちゃんそんな本当にごめんまって落ち着こ???ほら、座ろ?とりあえず、ね

と私をなだめてくれた。

立って泣くスタイルから、突っ伏して泣くスタイルにバージョンアップした。

クラスメイトはまだ1/3程度しかきていなかったけれど、

教室中がドン引きしていた。

なんで泣いてるの?

友達に、クラスメイトが聞いてるのが聞こえて、

言わないで、と思っていたけど

涙が止められなくて動けなかった。

*

お前、ヤバイな…


いつも一緒に帰っている、

以前私がメンヘラを爆発させた時に

追いかけてきてくれた友達に言われてしまった。

私からは何も言わなかったけれど、

やはりクラスメイトたちから理由を聞いていたらしい。

登校してきたらお前泣いてるんだもん

恥ずかしかった。

*

結局私はその年の秋、先に書いた"全て"

に耐えきれなくなって、パニック障害をおこし、

何度となく過呼吸になった。

その原因が「なんとなく辛いから」としか当時は思っていなかったから、

「原因不明の不登校」の娘

を持つ母が悩んで苦しんでいるのがかわいそうになって、

もしかしたらと、保健室のBBAにしたようにカミングアウトをした。

クリスマスの夜だった。

ただ、抱き締めてくれた。

*

女子校だから勘違いしてるだけじゃないの?

最悪な目覚めの母の第一声だった。

違う、と言った方がいいんだろうな、

でも多分違くないんだよな、

と思って布団によりくるまって黙った。

きちんと、肯定だと受け取ってくれたようで、

何も聞こえなくなった。

*

年が明けて冬には失声症(心因性)になり、

のたうちまわるようにして何とか進学させてもらった。

クラスを降りた。

私たちのなだめ役にまわってくれていた2人とは、

クラスが離れた。

さびしかったけれど、

彼女と同じクラスかな、と期待した。

彼女は更にもう1つ分クラスを降りていた。


もしかして、

私たち、

すれ違ってるー!?


どこかの映画みたいだと、泣いた。

*

進級しても私はまだ不登校で、

それでも、辛いながらも、

ちょくちょくは学校に行っていた。

たまに彼女に会いに行った。

3ヶ月くらい、彼女が学校に来ていないと、同じクラスの人が言っていた。

彼女はからだが弱いから、

入院してるかもしれない、どうしよう、

とパニックになった。

*

ある秋の日、彼女のクラスの終礼が長引いていた。

いつもそのクラスの終礼は早いから、なんだろう、とは思っていたけれど、

彼女のいないそのクラスに別段興味はなかった。

*

(彼女)学校やめちゃったよねー、びっくりだよねー、

それからしばらくして、彼女との共通の友達に、

蜜柑って紫だよね、

みたいなテンションで話されたから、

飲み込めなかった。

終礼が長引いていた日は、

その話をされていたらしい。

担任から

理由は進路変更だそうです、

と言われて終わったという。


えっ?


どうして。私に相談してくれなかったの。何にも言わなかったじゃん。何でなんで、なんで。

彼女がこの学校にいない。

思考が全停止して、

顔、やばいよ、と笑われた。

*

恋人じゃなくても。


遊びは拒否されても。


彼女のいちばんの理解者は私で、


私のいちばんの理解者は彼女だと信じていた。


確かに私は不登校で、


相談できる相手ではなかったと思う。


友達に弱さを見せたくなくて、


相談したくなかった気持ちもあったから、


彼女もそうだったのかなと思った。


けど、


どうして。


どこにいっちゃったの。


私を置いていかないで。

*

あいみょんさんの「猫」


という曲を、真っ暗な自室に1人で、夜、


聴いては泣いた。


彼女の姿が浮かんで浮かんでしょうがなかった。


FIRST takeの、

DISH//北村匠海さんが

歌われているバージョンが今有名になっているけれど、

「失恋したての自暴自 期」

にはあいみょんさんの方が染みる。

音が少ない分、

そして彼女の声がハスキーな分、

さびしさが助長されている気がするから。

心が貴女のかたちに空虚で、

酒とたばこを吸いながら、

ひとりぐらしの畳の部屋で、

残ったのは、

ギターをならしながら

貴女を思い出すことしかできない、

何にもない自分。

みたいに。


(※個人の感想です)

*

わたしばかり大好きだったのかもしれないなあ。


もう殆ど、

好き、というより執着だった。


やっと、

彼女のせいで、イライラすることは、

なくなる。


苦しさから解放された私は、


死ぬほど辛かった。

*

まだ私が貴女を親友だと思っていたある日、

真剣な顔で

「ねえ」

と言われた。

貴女は、腕をみせてきた。

近い位置に2つほくろがあった。

その2つの間の肉をつまんで、


「ゾウ」


と言ってきた。

ニヤァ、とドヤァが入り交じっていた顔。

もう笑いに笑った。



お弁当を食べるのが遅かった私は、

大好きなお肉の炒め物を、いつも最後に取っていた。

貴女は待ちくたびれて、か、

わたしが申し訳無く思っているのを察して、か、

「いたいよおいたいよお」、

と言い出した。

「僕、早く食べられたいよお、ぁあ、まっていかないでタロオオオオオ、」

なにやってるの?


「にくのきもち」


彼女は、私のお弁当のお肉にアテレコしていた。

その頃確か「いぬのきもち」という雑誌が流行っていて、

それに合わせたのだと思う。

私はまた、笑って笑って、結局食べ終わるのが遅くなった。



2人ペアで考えて未来の車を描こう、みたいな授業で、

「環境に優しいといいですね」

とか、

「誰でも乗りやすいものなんてどうでしょう」

とか教師が言っていたのを


貴女と私、全力で無視して、

デザイン性だけを重視した可愛い車をつくって、

貴女のおばあさまの口癖をその車の名前にしたこと。


私はそれにも笑ってた。



劇で、シンデレラ役だった私は

王子様の貴女にエスコートされて踊った。

そういえば私を姫にしたのは貴女だった。



帰りに迷子になった、2人で行った遊園地。

プールで、1つしか浮き輪がなくて、

仕方がなかいから、

それに無理して2人で座って、

背中合わせでお互いに寄りかかって、

緩やかな、少しだけ冷たいプールに流された。


貴女の背中はあったかかった。





わたしに何かを懇願するときのキラキラした目。

柴犬みたいに潤んだその目をするときは、

大抵、

誰かと小競り合いをした彼女が

私に味方をしてほしいときだった。

貴女はずるいひとだった。

私が貴女を大好きなのを知っていて、

貴女が悪いとほんの少し思ったときでも、

私はすぐに貴女の味方につくから。

小競り合い相手には

もう本当にaiは甘すぎるんだよコイツに…

と呆れられた。



16歳の誕生日、貴女がキャップと、

指輪?
違った。ケースがそっくりだったから。

ネックレスをくれた。

馬鹿みたいに期待して、

友人2人には白い目で見られた。

安かったよ

なんて余計なこと言わないでほしい。


お化粧をはじめたてで

首と顔の白さが全然違うことだとか、

細い首や手だとか、

ご飯を食べる動作が洗練されていて、

うつくしかった。


貴女とのペアルックの服は、

小さくなってしまったし、

捨ててしまったんだけれど、

16歳で貰ったその2つだけ捨てられない。

駄目かな。


そろそろLINE返してよ。

既読無視なんてしないでよ。

もう、期待なんてしてないからさ。

*

どうあがいてもチープな言葉になってしまう。

くやしい。

でも、

時が経てば経つほど、

なんで好きだったのか、思い出してくる。

こんなに辛い恋なんてないだろう

と思っていた。

彼女だけが特別だと思っていた。

「彼女以外の女の子を好きになることはない」

と思っていた。

そういう意味では彼女は特別じゃない。

そのことがまだ認めきれない私は、

すきな人ができる度、髪が短くなっていく。

ただ眺めているだけしかできないけれど。


あぁ、幸せだったな。


特別だったな。


気がつけば貴女は、


いつもわたしをいちばんにしてくれていた。



貴女のとなりで笑って過ごさせてくれて、


醜い私をうつくしくしくれて、


ありがとう。


*

私が彼女に告白した日から、たしか、

1週間後のことだった。


ai、知ってる?、


以前、彼女側なだめてくれていた友達がふと漏らす。


ずっと彼女が、

男になりたい

って言ってたこと。


知っていた。


よく、女が面倒だって言ってた、

女であること、

か、

女の子は、

か微妙だった。


私だけが彼女の男装姿の自撮り、送ってもらったんだよ、遊びは断られてたのにね、

「特別だよ」って。


ということばは、どうにか飲み込んだ。


1週間前にさ、アイツその話してて、

急にタイに行きたい、

手術受けたいって言い出したんだよね


ノリだと思う?本気だと思う?


aiならわかる?



「私が男だったらaiちゃんと結婚したかった」


*






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