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しりとり と ひとふでがき。星野源「喜劇」

星野源
「喜劇」


 しりとりとひとふでがき。星野源の最新シングルを耳にして、ふたつの言葉が浮かんだ。
 熟慮と継続は表現者の本質を明るみにする。近年の彼の取り組みには、俯瞰と誠実が、一途と遠景が、無理なく隣り合わせにあり、手と手を重ねることなく、あたらしい親密さを獲得しているように思う。ふれるか、ふれないかの、瀬戸際の刹那が、ひっそりと佇むことで、クールネスとパッションが互いを引き立てあっている。価値観は選択しなくてよい。両極にあるもの。そのどちらも、同じようにたいせつにできる。ひそやかな自負が、楽曲の品性をしずかに支えている。
 語尾が、次の語りかけに、橋渡しするように、透明なバトンを連ねていく。文節とブレスがとけあい、仲良く、おっとりとしたグルーヴを形成する。ヒップホップの韻踏みのように母音がプッシュされるわけではない。子音をさらさら撫で、するする積むその速度は、しりとりに似ている。じぶんとじぶんのパートナーシップ。
 夕暮れ時に想う、生活の営み。慈しみが、ふと気づかせる季節と季節のはざま。生まれたての過去と、ループの先にしかない未来。なだらかに、もつれあいながら、すべてがひとつづきとして謳われる。
 ゆったり低音ではじまった歌は、いつしかファルセットになり、ふわりと舞い戻ったときには、ひとふでがきのように、地図を描いている。
 ヒエラルキーも順列もない、しりとりとひとふでがきが綴れ織る、エンドレスで儚い暮らしの時空を、彼は「喜劇」と呼んでいる。

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