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本読み録 『台風一過』

ふと、愛おしいな、と思った。
台所の水切りかごに並ぶ食器や夕暮れ時に台所にぼんやりと差し込むひかり
けっして片付き整った部屋とは言えないけれど少しずつ愛着がわいてきている生活の風景が自分の目の前にある、と思えた。

『台風一過』植本一子(河出書房新社)

素敵な写真を撮る方だなあと思ったのが十数年前。その時の私は一生懸命写真を撮っていて、日々の一瞬一瞬をとにかく撮りたくて「まぶたがシャッターだったらいいのに」と思っていた。
植本さんの文章は、まぶたがシャッターになったかのように、日々の情景をありありと思い起こさせる。植本さんの文章は写真なのだなと思う。そこにある風景のうしろにある感情も含めて、何気ないその人らしい表情や感情が文章を通して見えてくる。

植本さんの『台風一過』を読み終えたとき、自分の生活の風景が愛おしく思えた。

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