いつか見た風景 97
「脳内ルネサンス」
アイスクリームでも食べようか。抹茶がいいか、それともヘーゼルナッツ入りのラムレーズンにしようか。それから溜まりに溜まった未読メールをどうにかしないとな。そうだ思い出した。リビングの壁の模様替えをするはずだった。いや今日じゃないだろう。昨日じゃなかったかな。まあいいか、アイスクリームでも食べようか、そろそろクイズ番組が始まるからさ。
スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス
執着を捨てようかと思ったんだよ。色々とね。それが新たな執着を生む事になったとしてもね。例えば旧約聖書の創世記11章に登場するバベルの塔の話なんかは、私にとってその代表格じゃないかな。ほら、古代メソポタミア(現イラク南部)のバビロニア王国の首都に建造されたって言われてる有名なアレだよ。クイズ番組がたまたまその時代の特集だったからさ、ついつい私の脳が過剰に反応しちゃったんだよ。
バベルの塔は7階建てで、高さは90メートルくらいなんだって。ノルウェーの実業家マーティン・シェーン氏が所属する最古と思われるバベルの塔の碑文には今から2500年前に新バビロニアを支配したネプカドネザル2世と7階建ての聖塔が描かれているんだ。だから少なくとも塔は実在したって思われてるんだけど、私の知ってるブリューゲルの絵画の奴とは大違いでさ。四角い要塞の上に神殿が鎮座してる感じなんだ。
円筒形のドーム型で外に螺旋の階段がついてる奴に私の頭はすっかり洗脳されちゃってるからさ。アレは人間の脳のメタファーなんだって私は密かに思っているよ。螺旋は勿論、神に近づく遺伝子だよ。それにしても神様は何でそんなにもお怒りになられたんだろうね。神様から授かった石と漆喰の建築技法を無視して煉瓦とアスファルトによる新たな工法を人間が勝手に組み入れたから? そもそも天にも届く塔を建てて神に近づこうなんて恐れ多かった?
バベルの塔建設中のバビロンに視察に来た神様は、人間の団結力が神の存在を脅かすって思っちゃったんだ。新たな塔の建設には旧来の石と漆喰の技法に、新たに煉瓦とアスファルトの工法を加えたハイブリッドな建築にしてみたんですって言っても、昔の大洪水の教訓で水没しない高層の都市設計をってノアの子孫たちが言い訳しても神様は譲らなかったって。怒った神様は地上を混乱させるために人間が使う言葉を互いに通じないようにしたんだ。
つまりさ、人間は驕り高ぶっちゃいけないんだよ。無闇に団結しちゃダメなんだよ。誰かの許可なく新たな技術を開発するのはご法度なんだ。だから何かの行動を起こすには、ゆっくりと時間をかけて、誰にも知られないように陰で密かにって人間は悟ったんじゃないかな。私はとっくに肝に命じているけどね。それで人間たちは色々と方法を模索してさ、神様にバレないように秘密の結社を作ったり、逆に神様担いで巨大な宗教組織を作ったりして行ったんだよ。
その後に中世で生まれたルネサンスは、古代ギリシャ・ローマの享楽的な文化とユダヤ・キリスト教の禁欲的な文化の融合だってよく言われるけど、芸術運動だけじゃない、つまり中世ヨーロッパで巻き起こった人間復興運動とも言えるんじゃないかな。ちょっと真面目に、かなり大胆に、適当に謙虚で、もっともっと自由にってさ。いいんだよ時には戒律破ってもって。ルールや常識の再構築なんだからさ。だからもっともっと個性を出しちゃってもいいんだよってね。オレはさ、バベルの塔は脳みそみたいな円形ドームじゃないかって思うんだって、ローマを探訪して直感したブリューゲルを生み出したようにさ。
ところでバビロン捕囚でバベルの塔の建築に携わっていたユダヤ人に言わせると、バベルの塔の各階は1週間の曜日を示しているんだって。1階は土星、2階は木星、3階は火星、4階は太陽、5階が金星で6階は水星、そして最上階の7階が月なんだって。
一体どういう順番なんだろうね。気になってしょうがないんだよ。これじゃまるで私の1週間と同じだよ。火曜日の次に日曜日がやって来る感じはさ、あれれれ、金曜日のヘルパーさんは5階のマンションに住んでるんだっけかな。私はと言えば、既にバビロン超えしてる感じだな。何しろココは9階だからね。
そうそう、バベルの塔のバベルって、ヘブライ語の「バラル」が語源らしいんだよ。混乱って意味なんだってさ。そもそもメソポタミア文明の時代は塔の事はジッグラトって呼んでたから、誰かが物語る時に「混乱の塔」って呼び始めたんだね。だからさ、私のバベルな脳も、そろそろルネサンスの終焉を迎えてマニエリズム期に突入しちゃうんじゃないかって密かに心配してるんだ。
ほらマニエリズムってのはさ、ルネサンスを極めようとして極端なデフォルメや奇想が咲き誇っちゃうからさ。それにさ、マニエリズムって確かマンネリと語源が一緒だったんじゃないかな。
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