ぴっかっ!ばぁでぇげぇー! 〜サッチンのはなし〜
はじめに
「なんだこのタイトルは!笑」と思われたと思いますが、それは一度置いておいて...ですね...笑
まず、ディズニーがお好きな方に取っては馴染みの深い、ディズニーサービスの鍵というものを少しお話ししておこうかと思います。
ディズニーのキャストやクルーのサービスの行動の基本は、Safety(安全性), Courtesy(礼儀正しさ), show(ショー性), efficiency(効率性)の4つで、そして最近5つ目の Inclusion(多様性の尊重) が加わり全部で5つとされています。
例えば、前回の帽子のおじいちゃんゲストのお話はどちらかというとCourtesy(礼儀正しさ)やShow(ショー)のお話だったと思いますし、 船で働くクルーは70カ国から働きにきている人々で構成されているので、この5つ目のInclusionが設定される前から、ずっとInclusionの考え方は自然に持ち合わせているものと感じています。
また船は旅客船舶なのでSafetyも大事です。またレストランの場合はUSPHという衛生スタンダードにも遵守するためにとっても厳しい清掃や消毒や細かなチェックが毎日行われています。(こちらの徹底ぶりは素晴らしいのでまた次回書きます)
しかし、実は船ではEfficiency(効率性)の比重もとても大きくあります。
ウィッティーの話でも紹介しましたが、船のシフトは過密で多忙です。ディナータイムは1日に2回もあり、その中で前菜、メインコース、デザート、手品タイムなど全てを時間内に効率よく、そして魔法のようにShowのサービスを提供する必要があります。
そのサービスの中でいかに効率よく、他のチームメンバーと声をかけていくか、理解し合っていくかという効率性のあるコミュニケーションも船で働く上で重要なキーなのです。
ここに辛さを覚えた仲間は1契約目で脱落してしまいます。効率な会話は仲間との信頼とチームワークなしには回らないからです。
今日はそんな私が体験したコミュニケーションの面白さを昔の日記を掘り起こして、シェアしたいと思います。
英語の多様性
「英語が話せないとやっぱりDCLでは働けないんですか?」とよく聞かれますが、答えはYesでもあり、うーん.... Noでもあります。
というのが、70カ国からきているクルーのほとんどは英語が母国語ではないですし、英語が母国語であっても方言が強いのです。
例えば、
トリニダード・トバゴの人は、英語を会話として話ししているのか英語の歌を歌っているのか判断が難しいほどリズミカルに抑揚が激しく会話します。それはイタリア人の抑揚ある表現とはまた異なりますし、巻き舌を使うイタリア人と、ラテン系の人たちの巻き舌も違う...など本当に様々です。東ヨーロッパ系の人は早口でイントネーションが強く怒ってるように聞こえて最初はなんだろうって思ったりしましたし、フランス人はHを発音しないので、例えばHelloはハローではなくエローになります。
みんなそれぞれわからないながら頑張って英語で会話しています。
だから会話を聞き分けて、指示やコミュニケーションを理解しつつ一緒に仕事をすることはとっても難しいし面白い。
彼らの英語のクセも理解していく必要があるので、Inclusionの要素は欠かせません。
そしてある時、私はタイ人のサーバーのビチューと働いていたのですが。
タイの方はとっても柔らかい感じに話します。
包み込むように話すのとやたらスタッカートがある話し方をされる印象がありましたが、最後の語尾は伸ばしがちです。Aicoooooo how are youuuuuuu みたいにながーく伸ばしてきます。
ある日のディナーのサービスの中で、順調にサービスを提供する中、終盤になり彼は何かをキッチンから取り忘れてしまったと言いました。
ビチュー:「Aicoooooo.... I need your helpppppppp! 」
そして、
彼が言い放ったその言葉がタイトルのあれです。
ぴっかっ!ばぁでぇげぇー!
ビチュー: 「ゴーアイコ、ぴっかっばぁでぇげぇーー」
Aico:「え?!ばぁでぇげぇーー?なにそれ?」
ビチュー:
「ばぁあああー、
でぇえええー、
げぇえええー!!!
ばぁでぇげ!ばぁでぇげぇー!
ゴーとぅーきっちーん!
ぴっかっ!ばあでぇげぇーーレッツゴープリーーーーズ!」
と、私にキッチンに行くよう指示があり、私の「ぴっかっ!ばぁでぇげぇ」ミッションが始まったのです。
予測してみるものの...
みなさんはなんだと思いますか?!
ぴっかっ!はおそらく、ピックアップ!だと予想はできたのですが、
ばぁだぁげぇー が何なのか分からないんですよね。
バター芸? あ、バターケーキ?
バターケーキなんてデザートはメニューにありません。
でも今は終盤でデザートも出ている時間帯なので、もしかしたら秘密のバターケーキがあるのかもしれないぞと思った新人のAicoは、言われた言葉通り、ひらがなで「ばぁだぁげぇー」とペンでメモ書きだけしておき、その予測だけでキッチンに行き、そのままをデザートオーダーしました。
Aico:「I need a ばぁだぁげぇー」
すると、デザート担当のサッチンが大爆笑しながら、応対してくれました。
サッチン:「Aicoの担当のサーバーは誰?!ビチューだろう?」
Aico:「何でわかったの!そうだよ!ねえ、ばぁだぁげぇーって何なの?」
サッチン:「笑!!! すぐに出すから待ってて!」
出てきたのは、バースデーケーキでした!
Aico: 「ばぁでぇげぇー!!これかー!!!笑」
サッチン:「さ、Aico、早く持っていってお祝いしてあげて、ちょっとケーキも可愛くしておいたから!」
Aico:「ありがとう!サッチン。また後でね!」
ダイニングルームへ戻り、ビチューにバースデーケーキを渡し、周りのクルーを呼び集めてゲストのために無事にいいタイミングで誕生日のお祝いをすることができました。
ハッピーバースデートゥーユー!!!
質問のクオリティ
その後、サービスを終えた私は、サッチンの元へお礼を言いに行きました。
Aico:「サッチン、さっきはありがとう。
私だけじゃバースデーケーキのことだって分からなかったから助かったよ!危うくゲストがもうレストランを出てしまうところだった!
あのタイミングですぐケーキをピックアップできたから本当によかったんだよ!ありがとう!」
サッチン:「笑! いつでも頼ってね! 僕はいろんな人のイントネーションや癖を覚えているからね、みんながオーダーしてくる時も耳をダンボにしていつも聞いてるんだよ、みんな面白い英語だけどね、どのメニューのことを言っているのかを言い当てるのはゲームみたいなものだよ!ケーキ作ってばっかりじゃ毎日飽きちゃうでしょう?笑」
Aico:「今日はサッチンがいたから助かったよ、でもサッチンがいなかったら私ケーキを探せれなかったかもしれない、またこんなことが起きたらどうしよう。」
サッチン:「Aicoは、相手の言葉や英語がわからないときにどう聞き返してるの?ばぁだぁげぇ...が何かわからなかった時に、なんて聞き返したの?」
Aico: 「「それはなに?」って聞いたら、また「ばぁだぁげぇ」って言われちゃった....
だから何となくケーキかなあって思ってデザートのところに来てみたのよね」
サッチン:「Aico、様子を見て勝手に相手のことを察していてはダメだ!予測もダメ!
ここでは確実に回答を得るために自分側から効率のいい質問をして確実な答えを得なくちゃダメだ。
船でのサービスにはそんな無駄な問答をしあっている時間はないんだから、相手から欲しい答えを得るために効率のいい質問をこっちから作らないとダメだよ。その1分の質問のやりとりがあればAicoは何ができる?
ゲストにコーヒーを注ぐことができたり、折り紙を折ったりすることができたり、全部そういう時間を確保するために大事な時間を取っておかなくちゃ。」
Aico:「そっかあ!そうだよね、早くデザートもサービスしないと次のセカンドシーテンングのゲストのためのテーブルセットアップやほうきがけも必要だし、サービス中は無駄なやりとりを少なくしていかなくちゃいけないね!」
サッチン:「じゃあさ、じゃあさ、Aicoは次わかんないことあったらどう聞いたらいいと思う?
このばぁだぁげぇを理解するために、ビチューにどう質問したら1発でわかる答えもらえると思う?」
Aico:「ん〜?
例えば色とか形とか具体的にその物の特徴をまず聞けばよかったかな?」
サッチン:「そうだね!
そしたら、白い大きなケーキ!っていってくれたかもしれないよね。
白い大きなケーキはバースデーケーキしかないからすぐわかるよね!
やるじゃんAico!その調子! がんばってね!」
Aico:「ありがとう!」
サッチン:「もう1つあってさ、今日僕が助けたみたいにさ、誰にどのことを聞いたら一番早いのか、適切な人をわかっておく必要があるよ。
そのためには、自分も人に対して協力していかないとね!味方をたくさんつけるんだ!
そうすればみんながアイコが困っている時に助けてくれる、
効率よくサービスをするためにはチームの仲間の助けはとってもとっても大事!大事大事ー!だ〜いじ〜〜〜!(歌)」
そう、サッチンはシフト時間を終えているのに私に時間を取って、大事なことをたくさん教えてくれたのです。
それからは、私は分からないことがあったら、
「それはどんなもの?」「どうする物なの?何に使う物なの?」「何色?形は?」
と5W1H系で質問するようにしていました。
Tell Me!!
キッチンは戦場です。
そこには何十人ものサーバーたちが料理のピックアップの列に並んでいて、アシスタントサーバーたちは飲み物を作るソーダーマシーンに列を作って並んでいます。
いろんな文化の国からやってきている人たちですので日本のように順序よくという文化はないので、もちろん順番なんてものは曖昧です。
私が一生懸命作ったトレイに乗せたシャーリーテンプルもなぜか1個足りない、うわー目を離した隙に持ってかれてしまった!ということも多々ありました。
最初のうちはそんなことにイライラしてしまっていましたが、だんだん逞しくなり、
「どうして私の飲み物がいるの?」と聞くと、
「それアイコのだと思わなかったから」と言ったりするんですが、
「じゃああげる、でも次私が困ってる時にあなたのを私にちょうだいね!」って言ったらお互い笑顔で仕事できるわけです。
文化が違うんだから自分からその文化の違う人たちを理解しようとすること、長く働く仲間として関わり合うために、自らどんなコミュニケーションを主導していき、相手には互いに良い共通の文化を形成していくことを認識していくかに気づかせることも大事です。
そんな忙しい中でも、
私がものを探してあたふたしていたら、
シェフの方から
「アイコ!何がいるんだ!tell me tell me!」
と声をかけてくださって、
「キッズミールのチキンが欲しい、ゲストがもう眠ってしまいそうで今欲しいんです。」
って言ったら、
「アイコのミール!エキスプレスで!
なぜって?アイコのスマイルはサンシャインだからさ!」
みたいに言ってくれたりして笑
みんなも列に待ってくれているのに、爆笑しながら「アイコなら仕方ないね!先にいいよ!」って通してくれたりして。
自分の味方をどんどん増やすと効率良く仕事ができるようになるといったサッチンの言葉の意味も体感していました。
終わりに
効率的にコミュニケーションをとることが仕事全体のタイムコントロールにつながるというお話しでした。そこで時間を節約できたらその分の時間はゲストのサービスのために使う、この船ではゲストには常に100%エクセレントなサービスだったと感じていただくことに全力を、本当にチーム全体で全力を尽くしてました。
このビチューとサッチンの話は私が別の企業のコールセンターで新人教育部にいた時にも使用しました。
日常で、「お客様が言ってることがわからない!」と言った場面はあると思います。
でもそれをなんとなくの予測で「こんなことを言ってるに違いない」と判断するのではなく、その「わからない部分について引き出しやすい質問を投げかけること」が相手に寄り添ってコミュニケーションをとるためのもてなしのキーだと私は伝えていました。
もう1つ学んだことは、困ってる人に親身に向き合って助けることの重要性です。
私が困っているときにいつでもDCLのクルーやマネージャーは一緒になって解決方法を考えてくれたことは、時を経て日本に戻りいろんな企業で働く中でその事がいかにユニークであったかを比較することになります。
自分がディズニーの新人教育係として、オープニングクルーとしてディズニーの伝統を伝承していく際に、彼らが教えてくれたこの温かいサポートを意識していました。そして彼らは私のその親身なサポートや声がけに感謝の気持ちを持って、自分たちの後輩、またその後輩へとずっと引き継いでいると思います。
きっと今も変わらずにDCLでは同じ空気感で仲間たちが助け合いながらゲストにサービスを提供しているんだろうな!と、このNoteを書きつつクルーズに行きたい気持ちがまた膨らみました。
おしまい