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シャイなあの子の処世術
おとなしくて、控えめな女性の後輩がいる。
言葉も仕事も丁寧で、いつも一生懸命。
話す時は、恥ずかしそうにニコニコしている。
その彼女と、要求のレベルも売上げも高いクライアントを、一緒に担当している。
クライアントとのリモート会議では、無理難題や、鋭い質問を、バシバシと浴びせられる。
私は長年営業をしているせいか、そういうタフな会議は慣れている。
もう5年近く担当しているクライアントで信頼関係もあるので、無理な要求には無理であることを率直に伝えることもできる。
それでも、毎回出席する前には気が重くなる。
だから、一緒に出席している彼女が会議を苦にしていないか、ずっと気になっていた。
ある日、ふと上司にその心配を漏らした。
返ってきたのは意外な言葉だった。
「あの子、ああ見えてしたたかなのよ。『無理なことを言われた時は、困った顔をするんです。そうするとクライアントが察してくれて、〇〇さん、困ってるねって声をかけてくれるんです』って言ってたよ」
驚いた。
思い返してみると、確かに彼女はニコニコ恥ずかしそうにしながらも、時折り眉をひそめたり、首をかしげて不安げな表情をしたり、表情を変えていた。
あぁ、そうだったのか。
彼女には、ちゃんと彼女の処世術があるのだ。
なんだかいじらしくて、頼もしくて、彼女のことがもっと好きになった。
受け取ってくれる人がいる安心感
彼女の表情の変化を見逃さず、困った気持ちを受け取って声をかけてくれていたクライアントの存在も、ありがたい。
会社でも家庭でも友人関係でも、SNSの場であっても、人間関係において自分の感情を受け取ってくれる人がいる安心感は大きい。
言葉ではない感情のサインに「気付いているよ」と表明することは、自分の気持ちに余裕がない時には、なかなかできない。
彼女の意思表明に気付かなかった自分を、少し恥ずかしく思った。
私と彼女とクライアントの会議は、
・積極的に発言するクライアントと私
・角が立たないよう不安を表情で表明する彼女
・表情を読み取って受け取ってくれるクライアント
それぞれのコミュニケーションの形によって、うまくバランスがとれていた。
私は苦なく自分の意見を言えるタイプなので、無意識に、会議の出席者全員に自分のように積極的に発言することを求めていたように思う。
発言する人も、それが苦手な人も、それぞれ「コミュニケーションがとれている」と納得できていれば、それでいいのに。
物事を自分のものさしで測っていると、気付かないことがある。
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