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答えのない世界
オフィスで先輩に話しかけに行ったら、先輩が自分の悪口をメールに書いていた。入社して2年目のことだった。
「あいちさんは自分に自信がありすぎて怖い」
と、書いてあった。
よせばいいのに、気が強いから見て見ぬふりができなくて、「自信なんてないですよ」と先輩に話しかけた。先輩は少し凍りついた後、「いや、まぁ」と苦笑いしていた。
異業種から転職して、営業としてチームのフロントに立っていた。迷いだらけの日々の中で、自分がしっかりしなければチームが混乱してしまうと、必死で立っていた。
そういう自分の思いや努力を、ぐしゃぐしゃに踏みにじられたように感じた。ショックだった。
話は変わって、月に1回、美術館に行っている。
毎日人に忖度しながら仕事をしていると、自分が本当に好きなものが、モヤモヤとフィルターがかかったように分かりにくくなる。美術館にいる間は、自分の感性だけで絵に向き合える。
先月は、アーティゾン美術館に行った。
そこで、ザオ・ウーキーという中国生まれの現代美術家が描いた抽象画に出会った。
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大きなキャンバスの中に、鮮やかで大胆な色彩があり、水墨画を思わせるような繊細なタッチがあった。ひと目見た瞬間に、好きになった。
それまで抽象画は苦手だった。何が描かれているのか、答えが分からないから。
でも私はザオ・ウーキーの絵の中に、そびえる山や、底が見えないほど深い水や、雪や、枯れた木や、朝焼けに染まる空を見た。
Googleで「抽象画 見方」と検索してみたら「抽象画をみる時は具象で捉えてはダメだ」と書いてあったので、不正解かもしれない。
でもいいんだ。好きと思った気持ちを大切にしたい。
私たちはみんな、正解のない世界で、少しでも正解に近いであろうことを予測して、それを信じて生きている。ようやく答えを見つけても、相手にとっては正解じゃないことが、山ほどある。
息苦しいこの世界で、どんなに自信があるように見える人も、悩んで迷って決断しているのだと思う。
自分が感じたことも、相手の正解も、なるべく尊重できる自分でありたい。
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