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相棒2 第16話「白い罠」感想

 前回の感想

北海道前後編の後編

被害者遺族×加害者家族
死刑囚×刑務官

『相棒』の中でも最上位に入る程の重い物語。
希望も提示されはするがとにかく暗い
俺が『相棒』で観たいのは鬱展開であって陰惨すぎるラインを軽く越えちゃってる。
というか北海道編は栄一がいなかったらマジで全編が暗すぎてシンドい。
でも間違いなく傑作

【あらすじ】

謎の男・工藤が、病院を抜け出し行方不明に。
工藤を捜す右京は、工藤が残した
「私は人を殺した」
という発言が気になり、小野田に身元の調査を依頼する。
一方、工藤は沙雪の母・みどりが営む小樽の食堂を訪ねていた。
さらに工藤は、沙雪の友人・真二に会いに札幌の大学へ足を運ぶ。

脚本:櫻井武晴
監督:和泉聖治

【ゲスト】

本宮沙雪(演:前田愛さん)

今回の被害者
個人的に幸薄い系が好みなので直球ドストライク。
現在は中村勘九郎の奥さんという事は驚き。

津村真二(演:内田朝陽さん)

今回の犯人
演者の内田さんは当時20歳で、家族を殺された被害者遺族を熱演している。
『相棒』はS16「ケンちゃん」で別役再登場。
直近は舞台ハリポタのマルフォイをやっているのも印象深い。

工藤伊佐夫(演:小野武彦さん)

『踊る大捜査線』『科捜研の女』からの刺客
…とか茶化すのもダメなレベルで今作の思いテーマを託されている。
既に80歳を越えているが現役で大活躍中なのでもっと活躍してほしい。

【感想】

《中身と外見》

[小野田公顕]
毛蟹…いや、今頃だとタラバかな?
タラバには偽物も出回ってますから気を付けてね。
結構騙されますよ。
外見だけだと見分けがつかないから

相棒2「白い罠」

沙雪に優しい沖真二の正体は本宮恒夫に家族を奪われた津村真二であった。
真二は沙雪に優しく接し、信頼を得て殺そうとつし絶望の中で死ぬ様に画策していた。
しかし沙雪も自分と同じ様に苦しんでいた事に気付き、殺意を失ってしまう。

本宮恒夫が起こした事件は1979年に北海道で発生した平取事件をモチーフにしている。

1979年(昭和54年)7月18日

事件当日夜、太田勝憲は被害者Aから買い入れた狐毛皮代金支払いの猶予を求めに彼の自宅へ出向く。
しかしAはその申し出を断り厳しく詰め、しかも暴力団との繋がりを示唆し脅してきた。
しまいにAは太田が彼に貸し出すため持参した22口径自動式ライフル銃を持ち出し、太田の胸元で振り回し始める。

恐怖感にかられた太田はライフル銃を奪いAの頭部を1発撃ち、続けてAの妻であるBと次男であるCの頭部を1発ずつ撃った
その後太田は2階へ上がり、逃げようとしたAの長男であるDの頭部を1発撃った
その後、倒れた4人全員の頭部にAとBには2発ずつ、CとDには1発ずつ撃ち込み殺害した。

太田は1年後の1980年に逮捕され、死刑判決を受け1999年に獄中で自殺した。

wiki平取事件より

細かい点は違うが、事件の全容は同じ。

そして今回の事件がそのif展開だという事を考えると、真二の目的は復讐ではない気がしている
復讐じゃないなら何なのかと問われると、自分の中の怒りや後悔…即ち復讐心や絶望感との訣別だと推測している。

自分は家族を3人失っているのに、相手は1人死刑になっただけじゃ割に合わないという怒り
自分がいれば家族は死なずに済んだかもしれないという後悔
この想いは最もだと思うし、スタートは間違いなく復讐心だと思う。
でもそれと同時にこの絶望を消し去りたい…楽になりたいって気持ちの方が大きかった。

恒夫が死んだら気持ちは晴れて前向きに生きられるかと思ったがそれじゃ絶望感は消えなかった
だからこそ、恒夫の娘である沙雪を殺せば復讐心も消えて楽になれると思った。
そして復讐を達成したら過去を清算して前向きに生きれると考えた。

しかし真二にも想定外があった。
それは加害者の家族である沙雪もまた、自分と同じ様にずっと苦しみ続けていたという事。

真二は本宮母娘は事件の事を忘れて前向きに幸せに暮らしてると想像してた。
だから絶望させ殺すつもりだった。

だが沙雪は恒夫の事件をキッカケに中学時代から補導されるほど精神的に追い詰められ、自傷行為をし、売春をし、愛した人には裏切られ、ずっと絶望の中にいた
それでも父親である恒夫を憎みきれず、そして死刑を執行されたやり切れない苦しみもあった。

生きる価値が無い、もう疲れた、この10年間良い事なんか一つもなかった…
真二から銃を向けられた沙雪から出る言葉は命乞いではなく寧ろ殺して欲しいという懇願。
しかも10年間真二が抱えていた絶望と同質の感情を持っていた事も理解してしまう。
だから
「自分と同じ絶望を背負っている彼女を殺してはいけない」
と許す気持ちになってしまった。
演技で近付いた際に沙雪の解像度を上げてしまった事も原因かもしれない。
何よりそんな沙雪を殺す事は苦しんで生きてきた自分自身を殺すにも等しい。

[津村真二]
こんな奴じゃない…
僕が殺したかったのはこんな奴じゃない!
これじゃまるで僕と一緒じゃないか!
何でお前が僕と一緒なんだよ…

相棒2「白い罠」

この太字にした部分は個人的に『相棒』全犯人の慟哭で最も印象的。

右京は真二へ
「どんなにツラくても人間は許す事が大事」
と説いたが家族を失った彼にとってはこの言葉も非常に残酷。

憎しみも悲しみもそのままで相手を許して絶望感と折り合いを付けようと言うのは簡単。
でもわざわざ復讐場所を教会と定め、数年の実刑を覚悟してまで生き直したいと思っていた真二からしたら先述した通り残酷な選択に他ならない。

でも沙雪を殺せなかった時点でその選択しか選べないのもツラい。
憎くて殺してやりたいのに、それを上回る同情心が勝って殺せない
沙雪を殺せなかった事や正体を知った工藤を殺さなかった事から考えると、真二の根本は優しい人なのも伝わる。

今後生き続ける中で、彼が自身の絶望と折り合いをつけて生き直せる日は果たしてあるのだろうか…。

ただ、真二は傷害罪と銃刀法違反だけじゃなく殺人未遂でも逮捕されるべきなのでそこを甘くするのはNGよ。

《死刑》

[工藤伊佐夫]
罪人なら悪人のまま刑を執行したかった!
それを立派な人間にして殺すなんて…!

相棒2「白い罠」より

工藤の正体は死刑執行を行う刑務官

自身と境遇が似ていた恒夫に同情し、優しく接していく中で絆も生まれ、でも最後は自らの手で刑を執行しなければならない…
それにしては誰よりも早く執行ボタンを押してた気はするが、そこはご愛嬌。

とにかく恒夫も含め、刑を執行する事で加害者家族も被害者遺族も一区切りがついて苦しみから解放されるんだと自身を納得させていた。

しかし本作では加害者家族である沙雪は父の刑が執行されてから自傷行為を始め、被害者遺族である真二は苦しみが晴れず復讐に走った。

そうなると工藤がしてきた事は司法による執行だとしても感情としては、人殺しだと自身を責めてしまってもおかしく無い。
だから工藤は沙雪へコレッジョの画集をプレゼントする事で心を保ってきた。
勿論、恒夫に報いたい想いもあるが沙雪へ奉仕する事で気持ちが楽になっていた面もあったんだと思う。

しかし直接会うと結果として本宮親子からは明確な拒絶を受ける。
そうなると自分は誰も救えていない、更生した善人を殺しただけの殺人者になってしまう。
そりゃ帰りの電車で絶望するわ

でも沙雪は亀山君の言葉で心が動き、最後に工藤の思いや父の愛情を理解し受け入れてそれを伝えに来てくれる!
これは『相棒』屈指の感動シーンよ!!

これで沙雪は絶望から前に進めたし、工藤への感謝も伝わる。
沙雪が絶望していたのは自身の境遇もだが父親が自分を愛していたのかも分からなかった事にあったと思う。
それを工藤が確定させ、亀山が素直に受け入れさせた。
そしてその下地を作ったのは優しく見守ってきた美濃部刑事や母親。

また、今回で地味に分かるのは右京は死刑を容認しているという事。
死刑を嫌っているのであれば
「今の日本では死刑は合法ですが、いつまでそんな野蛮な制度を維持してるのでしょうか」
みたいなS2「消える銃弾」のように拳銃否定みたいな発言があっても良かった。
賛成かは不明だが、否定的ではない。
まぁS4「予告殺人」で犯人に死刑宣告をしてるので

ここからは自分の意見だが、死刑は圧倒的に賛成派
幸いな事に私は親族や友人を殺人により亡くした経験が無く、遺族は全員犯人の極刑を望む訳でないとも考えているので"遺族の処罰感情"を理由にした死刑賛成派という訳ではない。

だが、死刑相当の重犯罪者が数十年の時を経て出所した際に再犯を行い自身を含めた親類縁者がその被害者になるのが恐ろしい
またそんな危険人物を生かして衣食住に税金をかけるのも無駄でしかない。

殺人犯が社会復帰するリスクとメリットを天秤にかけると確実にリスクの方が大きい
全ての殺人犯を死刑にしろとは思わないが、可能な限りは厳罰化して、2度と表には出てこないで欲しい。

死刑廃止論者の人々からしたら極論かもしれないが、殺人犯と友人だった人間の一意見として気楽に受け取って欲しい。

《今回のMVP》

亀山薫

生きる価値の無い人間なんていない筈だよ
お父さんは君を思って拘置所から手紙を出し続けていた
美濃部刑事は長い事君を立ち直らせようとしていた
その君が立ち直ろうとした時、お母さんは本当に喜んだ
そして工藤さんは何年も君を見守り続けていた
君はそうゆう人達にずっと愛されてたんだよ!
なのに生きる価値が無い!?
ふざけんなよ!!
君はずっと大切にされてきたんじゃないか!

相棒2「白い罠」より

正直今回はMVPの選出をかなり迷った。
工藤の正体を速攻で調べて共有した官房長。
真二の正体を調べてくれた美和子。
真二達の所在地を導き出した右京。
まさに総力戦。

でも事件解決ではなく、沙雪と工藤の心を救ったのは間違いなく亀山薫。
ここで亀山君が沙雪に正面から思いをぶつけたのが最後の感動に繋がった。

またラストシーンで亀山が涙を流しているが、寺脇さん曰く1番の芝居

次点は若杉栄一
重苦しい本作のコメディ部分を担当し、鬱屈した雰囲気のカンフル剤として機能していた。
また真二を探す時の足になったり気絶した工藤を発見するなど功績も著しい。
しかも無賃でやってくれてる可能性が高い
気付かぬ間にフェードアウトしたので、特命係との別れを描かれなかったのが残念。

【小ネタ&雑感】

•開始からOP
•開始直後に死刑場面はショッキング過ぎる
•札幌から小樽まで遠いかなと思ったら片道40分くらいだった
•公式あらすじだと前回工藤が沙雪を庇ったって事になってるが庇ってないぞ
•「警視庁特命係所属 司法警察官の処遇について」を読みたい!!
•特命係は官房長のお陰で6年ほど生存が許され、死亡後も14年経過してる件(というか官房長いた頃の方が潰されてる
•官房長にコケにされる部長w
•沙雪生意気だけど店の手伝いするのは偉い
•伊丹「特命係の亀山の同棲相手の記者さん」←後に亀子呼び
•亀山を心配してる伊丹良き良き
•右京「何でも疑ってかかるのが僕の悪い癖」
•亀山「何でも信じてしまうのが俺の悪い癖」

【次回】

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