相棒 第12話「午後9時30分の復讐~特命係最後の事件」感想
前編はこちら
サブタイ通り「特命係、最後の事件」…なおここから現在まで約20年以上活動する模様。
【あらすじ】
右京は薫を警察庁へ呼び寄せた。
そして、小野田のもと、警察庁で15年前の外務省公邸人質篭城事件を洗い直すことになった。
15年前、武装グループの人質となったのは当時外務省条約局長だった北条晴臣ほか高官が北条邸に閉じ込められた。
強行突入の結果、犯人を全員射殺。
5人の突入班のうち隊員3名と高官の人質・柳田が流れ弾を受けて死亡したという。
柳田以外、北条ほか人質は無事に救出されたが…。
15年経った今、その人質だったうちの3人がこの1年の間に謎の変死をしている。
右京と薫はまず、公邸料理人をやめて現在レストランを経営しているという、15年前の事件の人質の生き残り・鈴原を訪ねるが、鈴原はすでに何者かに殺されていた。
脚本:輿水泰弘
監督:和泉聖治
【ゲスト】
当時19歳という若さにも関わらず、卓越したお芝居を見せてもらい大満足。
あと閣下も愛人にしたくなるのも当然と思ってしまう程に可愛い。
今回の連続殺人を始動させてしまった戦犯という見方も可能だが、閣下が邪悪過ぎただけなので擁護も出来る。
でも閣下というパトロンがいなくなって大学を続けられたのかは疑問。
元事務次官かつ特命全権大使という凄い肩書をもっている権力者こと閣下。
人物像は後述するが、立場としては法務省の事務次官の日下部さんと同じかそれ以上で、外務省所属という事だと外務大臣でもあった片山雛子の父親とも繋がりがありそう。
あと今回なのかS4の再登場時なのかは覚えていないが"ゾウさん"を歌ったのは長門さんのアドリブらしく、他にも暴走しまくってスタッフに
「閣下、やり過ぎです」と嗜められたエピソードが大好き。
1人目の緊急対策特命係隊員。
石嶺は前回がメインだったので今回は添え物程度の出演。
希望としては面会に来た荻原との会話を見たかった。
2人目の緊急対策特命係隊員。
27クール(6年9か月)テレビドラマに出演し続けた日本記録を持つ内藤さんが超初期に『相棒』へ出演。
『科捜研の女』では土門さんとして毎年死ぬ死ぬ詐欺をされている印象がある。
【感想】
《愚かで哀れな人》
物語としては閣下が部下の柳田と工藤隊員の二人を籠城事件のどさくさに紛れて殺した所から始まる。
15年後に殺人が漏れ、柳田の娘である蘭子と元隊員の荻原の2人が閣下への復讐に動き出す…というもの。
特筆すべきは閣下の悪辣さ。
奥さんが死んでいるとはいえ子供よりも年下の女子大生である蘭子に欲情、"閣下"呼びで無いと返事もしない、自分より立場が弱い相手を犬呼ばわり、挙句の果てには保身の為に2名を殺害し、そしてその殺人の発覚を恐れて部下へ3名の殺害を命じて実行させている。
しかも荻原に殺されかけた時てビビり散らかす小心者でもあり、特命係に明らかにされても一切悪びれたり改悛の情も無く自身は選ばれた人間だから許されると開き直って怒り出し命を救われた恩義も感じていないというまさしく人間のクズ。
こんな奴に5名もの人間が殺され、繭子を含めた多くの人生が狂わされたと思うと憤りしかない。
でも何が凄いって、長門裕之さんの演技でこんなレベルのクソ野郎なのにどこか可愛げがあるという事。
この可愛げっていうのは重要で、これが無いとヘイトを貯める段階で視聴継続意欲よりも不快感が勝って視聴を止めてしまう。
この可愛げのお陰で閣下の外面が良い部分にも納得感が出てくる。
実際に小野田とのやり取りや、荻原に拉致される直前のパーティーでも一般的な振る舞いができていた。
まぁそもそもそういったマトモさを有している人物じゃないとここまで出世できないのもあるが…。
またこの可愛げが先述した悪辣な人間のクズ要素とも絡み合うと、狡猾さも出るという相乗効果が発揮されている。
そして"悪辣・可愛げ・狡猾"これらが全て合わさった閣下が魅力的な悪役なので、結果として彼を倒そうという復讐者達には同情するし、彼を追い詰める特命係はよりカッコ良く見える。
もちろん閣下が魅力的な悪役という事は変わらないので、近い内にS4「閣下の城」を見て再度その悪役っぷりを楽しんで視聴しようと思います。
《どうせ死ぬ命》
末期癌になり死ぬ前に"復讐"という為すべき事を為そうと動き出した荻原。
工藤隊員が今わの際に残した言葉だけで、証拠は無いが確信はあるという不確かな状況。
それでも工藤隊員を信じて動く姿はカッコいい。
でも裏を返せば、死んで自暴自棄になって最後に復讐をして散っていきたいという回りくどい自殺のようにも考えられる。
そんな中で右京さんは荻原の心情は汲みつつも殺人と自殺を全否定している。
殺人については引用したセリフの通りで、如何に愚かで哀れな人物だろうと、命は命で罪を償わずに殺す事は許さないと決めてる。
後のS4「予告殺人」でキングチャイルドにさらっと死刑宣告をしているので死刑制度自体は否定していないんだけどね。
自殺についてはS20「ある晴れた日の殺人」で明確に答えが出ていて、自分を殺すのが自殺で即ち殺人と同じだから否定するっていうのは今回の右京の考えとも矛盾しない。
何より死ぬとしても精一杯最後まで生きろっていうのは正しくて強いけど残酷という良い意味でも悪い意味でも安定の杉下右京っぷりが伝わる。
また荻原も荻原で、部下を失って命の重みを誰よりも理解している杉下右京の前で殺人は犯せないっていうのも良い。
失敗したとはいえ自殺を試みたっていうのもあるけど、右京の前で自殺をしても良いのかと躊躇した一瞬があったからこそ止められたと信じたい。
でも最大のツッコミ所があり、別に荻原は鈴原殺す必要性なくない?
工藤の言葉で閣下への復讐を考えたなら初手で閣下を狙えば良いし、閣下は鈴原へ元部下達の殺害を指示してたんなら殺さずに捕まえて証拠を掴んだ方が良かった。
特命係に対して「証拠は無いんですよ」って連呼してたけど、証拠を消したのは荻原自身だからな。
鈴原個人への恨みがある訳でもなかったので、マジで殺すメリットが0過ぎる。
またこれは前回の石嶺の際にも似たような事を言ったけど、緊急対策特命係メンバー同士の関係性が薄すぎるんだって!!
緊急対策特命係配属前からの付き合いなの!?
萩原と工藤はどんな関係だったの!?
圧倒的に情報が足りてない!!
そりゃ視聴者に想像の余地を与えるっていう手法があるのは知っているし、その手法も好きだがあまりにも分からなさすぎる。
この緊急対策特命係絡みの設定や物語は大好きなんだけど、杉下右京と小野田公顕以外に深みが無い。
ここ以降で緊急対策特命係事件がピックアップされるのはS9「予兆」で大河内が神戸に説明する場面くらい。
もう20年以上経過してるので今後掘り下げられる事も望みだから、S2~S7とかでもっと深掘って欲しかったなぁ。
《大局的正義》
最後の最後に特命係に立ち塞がったのは殺人犯の閣下でも復讐に燃えていた荻原でもなく、味方だった筈の小野田公顕。
閣下の起訴が難しいと悟るや否や、司法取引で保釈と引き換えに外務省の膿を出させて省庁の改善を行うっていう高度な政治的判断。
落しどころとしても妥当で、隠居状態の老人1名を殺人(しかも起訴できるかも微妙)で無理やり裁こうとするよりも確実に旨味がある。
でもこの判断は中々できる事じゃない。
小野田は前回で「石嶺と荻原と杉下になら殺されてもいい」と覚悟を決めているほど過去の事件を悔いている。
なので私情としては部下を殺した閣下に対して憤っているだろうし、右京と同じように粘りたいって思いもあるはず。
そもそも死なせた隊員達への想いがなければ、事故死扱いの3名が全員過去の籠城事件の人質だと気付くこともなく事件化もしていなかった。
でも小野田の凄いのはそういった想いを私情だと完全に理解したうえで切り離し、大局的正義を貫ける事。
このように私情を完全に捨てて己の正義を実行する強さがあるのは、作中で杉下右京と小野田公顕の二人しかいない。
右京だと今回荻原を止めず怒りと憎しみのままに閣下を死なせるという選択肢もあった。
でも"悪人でも善人でも命の価値に違いは無い"という絶対的正義を貫いた。
やっぱりこの二人は根っこは限りなく同じだけど、計算式と出力される結論が余りにも違い過ぎるから永遠に衝突するんだと思う。
官房長は杉下右京を倒せる唯一の人物だったから本当に惜しい人を亡くしてしまった…
《今回のMVP》
まさにスカッとジャパン!
やっぱり閣下をブン殴ったり、官房長による根回しを断ったのを断ってまた断ったりと右京と小野田と全く違い私情と人情で動く人間っていうのが本当に好き。
2人の超人や理解不能な領域にいる閣下など様々な思惑が渦巻く中に直球勝負の人物が際立つ。
事件解決の貢献度について皆無に等しいんだけどね。
でもその事について悩んだり、スーツを着るか考えたり、官房付になって調子に乗ったり、運転技術を褒められて複雑そうにしたり、蘭子の前で父親を馬鹿にした閣下に詰め寄ったりと見せ場は多かった。
やっぱ亀山君は最高よ!
また引用したフォロワーさんからの情報だと、寺脇さんはこの前後編で右京さんが亀山君を頼った場面が役者人生で一番の嬉しかったとの事。
この話は『相棒』という作品としてだけでなく寺脇康文という俳優さんにとってもターニングポイントというのが感慨深い。
MVP次点は料理人の鈴原。
地味に3件の完全犯罪を達成してる化物。
1日2組の客しか取らない超一流のシェフという事だけど、殺し屋に転職した方が良いだろと思わされるほど優秀。
強いて言うなら期間を空けなかった事と仕事をあまりにも完璧に達成し過ぎた事で官房長から疑われる事になったが、それを差し引いてもマジで殺し屋として超有能だと思う。
逆に酷いのは富士見署の警察官。
署長とはいえ絶対に様子がおかしい奴と閣下を二人だけにするという察しの悪さ。
抵抗しろとまでは言わないが何故自分達は返されたのか、署長たちはどこへ行くのかなどは確認しろよとは思う。
《おまけ》
この台詞は個人的にメチャクチャ印象に残ってる。
社会人1年目の4月にあった厳しい合宿研修明けに人事から新卒一人一人に手紙が書かれていて、自分への手紙にはこの台詞が引用されていた。
これが根本にあるから厳しい社会人生活でも腐らずに頑張れたし転職した今でも前職の方々への恩義は尽きない。
伝わるかは分からないが、この場を借りて感謝の意を残しておきたい。
【小ネタ&雑感】
・籠城中に酒を飲むな武装組織
・暇かつ正気を保つ為にポーカーもするわな
・ロイヤルストレートフラッシュ決めるとか閣下強過ぎだろ
・閣下の15年前と現在が変わらなすぎる
・閣下が人にお礼を言うなんて…
・亀山君の服装で賭けるな笑
・賭けに負けるのもだけど官房長相手に右京さんが奢るのは珍しい←「裏切者」は自腹だったけど奢るのは今回だけかな?
・そりゃ亀山君も不機嫌にネクタイ緩めたくなるわな
・盆栽好きな閣下
・この新北條邸は後のシリーズでも使われてる気がする
・亀山君が外の仕事でもスーツだと違和感ある
・スーツかMA1かで悩むな笑
・美和子の右京さんモノマネに笑った
・亀山君がMA1着て右京さんが若干嬉しそうなの良い
・はい、レストランへ違法侵入ね(いつもの)
・本当に冷蔵庫の中に隠れてました
・思い出したように出るヤマカンは神がかりに近い←言っとる場合か
・伊丹「警察庁の亀山様〜」←超レアな呼びかけ
・長官官房付の亀山大先生←神戸と峯秋と長谷川と同じ役職
・亀山「バカモン!」←笑った
・余計なお世話を米沢に焼く右京
・37.5万のワインとか一生飲まない
・米沢さんが右京を"アナタ"呼び←以前の回で"杉下警部"呼びをしてなかったか?
・名刺を片手で渡すな亀山(営業マン的感想)
・亀山様と伊丹の小競り合い良き
・そりゃ"閣下"呼びはビビるよな伊丹
・官房長と3人で庶民的なラーメン屋に行くの良いね
・右京が不躾な質問してたのはガチ
・亀山君15年前の事件喋りすぎだろ
・右京さんの銃創の回復早過ぎる
・美人女子大生を愛人にするのは素直に羨ましい(最低)
・使えるコネがあれば最大限利用する←いいなぁ
・悩ましき青年の亀山薫(右京さんは亀山君のそうゆう所が好き)
・肺癌なのにタバコを吸うな
・S1の頃は三浦さんの方が過激
・長いものに巻かれて生きる伊丹
・たまきさんの着物が赤すぎるくらい赤い
・右京「暇ですか?」←課長大喜び
・特命係が好きな課長可愛い
・蘭子告白を聞いてるとか閣下の登場タイミングと耳が良過ぎる
・メンチ切りながら閣下にお願いする亀山
・食品にメモ入れるのは有能だけど危な過ぎ
・寺脇さん大先輩の長門さん相手に超良い演技するよな
・閣下転ぶなよ笑
・たまきさんの着物パステルカラーかなってくらい黄色
・旧北条邸管理してるのタツミ開発かよ笑
・一歩間違えば殺される状況で悪態をつける閣下逆に凄いよ
・次の閣下との対決は3年後…
・20年後に冠城と別れる場所が…
【次回】
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