【短編小説】望月のころ 第10話
第10話
そこで目が覚めた。
詰めていた息を吐いた。横隔膜が震える。
片方の手で顔を半分覆った。暗闇の中に、愛しい人の姿が浮かんでくる。
「さくら」
名を呼んだ。とたんに、涙があふれる。
すべて終わったはずだった。
それなのに、炎はまだここにある。
激しく燃え盛るのではなく、静かに、けれどもしたたかに、僕の心を震わせている。
行き先を失った僕の心を灯している。
存在したがっている。
生きたがっている。
ああ、と声が漏れた。温かい涙を感じる。
なにもいらない。
僕は本当に、なにもいらない。
きみが世界のどこかで笑っていてくれたら。
それだけでいい。
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