【戯曲】泣いた赤鬼と鶴の恩返し 第1話
M1 【ラブ草紙】
逗子の浜辺 武男と浪子 二人連れ
ねえ武男さん 人間はなぜ死ぬのでしょう
なにを言うぞ お前がぼくを愛すなら
きっと治る きっと治るよ その病気
ええきっと治るわ ねえあなた
千年も万年も未来まで
死んでもあなたの妻ですわね
泣いて血を吐く想いの ほととぎす
ナレーターA 昔々あるところに、よひょうという働き者の若者がおりまし
た。
ある時、よひょうは罠にかかった一羽の鶴を見つけました。
よひょう おや、鶴でねが。罠に引っ掛かってしまったのか、可哀想に。
ほれ、取ってやるから逃げろや。
ナレーターA 鶴はよひょうにお礼を言うようになんども振り返りながら飛ん
でいきました。
その晩、村はずれに住むよひょうの元に、ひとりの女が尋ねてき
ました。
つう わたしは旅の者です。吹雪きの中、道に迷い、くたくたで歩け
ません。どうか一晩泊めていただけませんか。
よひょう わりぃが、おれは男一人のやもめ暮らしだ。
あんたみたいな若い女を泊めるわけにはいがね。この先の家に
頼むとええだ。
つう でもひどい吹雪で、もう一歩も歩けないんです。
よひょう おや、怪我をしているでねえか。・・・そうが、わがった。
狭くて汚いところだが、どうぞ上がってくんろ。
ナレーターA 吹雪がおさまっても、女は旅に出ようとはせず、よひょうの身
の回りの世話をするようになりました。
M2 【トリセツ】
この度はこんな私を選んでくれてどうもありがとう
ご使用の前にこの取扱説明書をよく読んで
ずっと正しく優しく扱ってね
一点物につき返品交換は受け付けません
ご了承ください
急に不機嫌になることがあります
理由を聞いても
答えないくせに放っとくと怒ります
いつもごめんね
でもそんな時は懲りずに とことんつき合ってあげましょう
定期的に褒めると長持ちします
爪がキレイとか
小さな変化にも気づいてあげましょう
ちゃんと見ていて
でも太ったとか余計なことは気づかなくていいからね
もしも少し古くなってきて目移りする時は
ふたりが初めて出逢ったあの日を思い出してね
これからもどうぞよろしくね
こんなわたしだけど笑って許してね
ずっと大切にしてね
永久保証のわたしだから
ナレーターA 女は、名を「つう」といいました。
よひょうとつうは夫婦になり、仲良く暮らし始めました。
※
ナレーターB 昔々ある山に、気の優しい赤鬼が住んでいました。
ある日、家に遊びに来た青鬼に、赤鬼はこんな相談をしました。
赤鬼 人間は俺を怖がり、嫌っている。俺は人間と仲良くなりたいと思
っているのに。
青鬼 元気を出せよ。きみが優しい鬼だっていうことは、そのうちみん
なわかってくれるさ。
赤鬼 無理だ、人間は俺の姿を見ただけで逃げてしまう。声をかけるこ
ともできない。
一体どうしたら、俺は怖い鬼じゃないってことをわかってもらえ
るだろう。
青鬼 うーん、そうだ。いいことを思いついたぞ。手紙を立札に貼りつ
けて、村の人間に読んでもらうんだよ。
赤鬼 なるほど、やってみよう!
『心優しい鬼の家です。どなたでも遊びに来てください。美味しい
お茶とお菓子を用意しています』
よし、できた。
青鬼 これできっと人間たちがたくさん遊びに来てくれるさ。
ナレーターB 赤鬼はお茶とお菓子を用意し、人間が遊びにきてくれるのを
来る日も来る日も待ち続けました。
M3 【待つわ】
可愛いふりしてあの子 わりとやるもんだねと
言われ続けたあの頃 生きるのがつらかった
行ったり来たりすれ違い あなたとわたしの恋
いつかどこかで結ばれるってことは 永久の夢
青く広いこの空 誰のものでもないわ
風にひとひらの雲 流して流されて
わたし待つわ いつまでも待つわ
たとえあなたが振り向いてくれなくても
待つわ 待つわ いつまでも待つわ
他の誰かにあなたがフラれる日まで
ナレーターB しかし、待っても待っても赤鬼の家に遊びにくる人間はいませ
んでした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?