Vtuber・乾伸一郎がAPEXで"最協"になるまでの物語 ~忍、三日会わざれば刮目して見よ~

Introducing your Champion.

 生き馬の目を抜くほど移り変わりの早いVtuber業界。生誕、引退、様々な企画など話題に事欠かない、賑やかなところでもある。

 そんなVtuber業界で、2021年も多いに盛り上がったゲームがある。
 APEX Legendsエーペックスレジェンズ)。3人1組、20チーム計60名で最後の生き残り──チャンピオンを目指して争う、FPSバトルロイヤルゲームだ。
 固有の能力を持ったレジェンド(キャラクター)を駆使し、敵を見つけ銃を撃つ。徐々に狭まっていく安全地帯(安置)で、安全な場所を確保し、あるいは敵からポジションを奪い取り、最後の生存部隊となることが目的だ。
 スピード感あふれるゲーム画面と爽快感がクセになるゲームで、2021年4月にはプレイヤー数が1億人を突破している。

 開催される大会も数多くあり、Vtuber・ゲーム実況者・イラストレーター・俳優・芸人などを問わず、幅広い人がプレイすることでも知られている。

 そんなAPEXで、2021年に大きな飛躍を遂げた一人の男がいる。
 乾伸一郎。忍者を生業とするVtuberだ。

 Vtuber黎明期の2018年から活動を始め、今も精力的に配信活動を行っている。活動当初は動画制作が中心、かつサラリーマンとの兼業だったが、2021年10月からは晴れてニートになり、専業Vtuberとなった。
 事実上の休止期間も挟んだため、古参ではあるが意外と知られていないことも多く、昔からのVtuberファンからは逆に「過去の男」扱いをされることもある不憫な忍者である。しかし待ってほしい。
 この忍者、イマだからこそアツいのだ。

 2021年、APEXにおける乾殿の成長はすさまじかった。そして、彼が歩んできた道は、どこを切り取っても最高の物語なのだ。
 「男子、三日会わざれば刮目して見よ」という言葉がある。たった三日会わない間にも人間は日々成長していく。1年間という長い時間、乾伸一郎という男がどんな風に変わったか、筆者の話を聞いてほしいのだ。

 そしてどうか、このnoteを読んでちょっとでも「乾伸一郎っておもしろそう」「乾殿久しぶりに見てみようかな」と思っていただけたなら、彼の配信に一度遊びにきてくれないだろうか。
 きっと夢中になるような、面白くて楽しい時間が待っていることだろう。


年明けとともに訪れた戦い

 乾殿の2021年のAPEXは、VTuber最協決定戦 ver.APEX LEGENDS Season2から幕を開けた。(以降は最協S2と記述する)

VTuber最協決定戦 Ver. APEX LEGENDSとは
APEX LEGENDSにおける“最協のVTuberチーム”を決め 
VTuberの間でAPEX LEGENDSが盛り上がることを目的としたオンラインの大会

 Vtuber界、ひいては日本のAPEXシーンを牽引するインフルエンサー・渋谷ハルさんが主催する大会で、大会自体の完成度、出場する選手の熱量、リスナーからの注目度など、どれをとってもVtuber界にとっては最大規模といっていい。
 乾殿も昨年2020年8月に開催された最協決定戦S1に出場し、最終成績は2位となっている。練習段階から優勝候補筆頭と目されながらも、本番ではあと一歩が届かず、チームで悔し涙を流した。

 最協S2では、ホロスターズ所属の夕刻ロベルさんが、仲の良い関西人の兄ちゃん・歌衣メイカさんと、そのメイカさんの盟友・乾殿をメンバーとして招集したかたちでチームが結成された。

 結成については実は紆余曲折あり、乾殿とメイカさんはランク制限により、最協S1で組んでいたチームメンバーバーチャルゴリラさんと組むことが出来なくなり路頭に迷っていた。同じくリーダー枠のロベルさんだが、彼も彼で普段ゲームをしないためかメンバー選定に頭を抱えていた。段ボールに捨てられたもの同士が身を寄せ合うように組んだチーム、それが乾殿のチームだったのである。

歌衣メイカさん視点の公式動画

 この大会に際して、乾殿は配信で「IGL(=In Game Leader、試合中に戦闘の指揮や安全地帯(安置)への移動を先導する役)を求められているんだと思う」と語っていた。バラエティ色豊かなチームだが、乾殿にとっては中後衛レジェンドを使用する二人を引っ張っていく側として、また8月の最協S1の雪辱を晴らすべく、臨んだ大会でもあった。

 ちなみに最協S2は、全ての試合が大会の少し前に実装された新マップ、「オリンパス」で行われた。移動ルートを選んだり、特定のレジェンドの能力でしか上がれないような高所が満載で、草原などの開けた場所も多い。
 最協S1で使用した「ワールズエッジ」は、建物や自然の遮蔽も多く、オリンパスほどの極端な高所はあまりない。前回と違うマップで、レジェンド構成を吟味し、最適な行動と場所を探るのが、最協S2の鍵となった。


全力のエンタメ 本気でチャンピオン

 本番1週間前から始まったカスタム練習は、それはそれは毎日にぎやかで、リスナーも全力で楽しかった。乾殿のチーム──乾西ノイジーズ(以下KSNと記載する)は、その名に違わぬうるささで、緊張感あふれるはずの練習を楽しみ尽くしていた。
 その最たるもののひとつが「修学旅行事件」だ。

 コーチのあどみんさんの提案で、母艦の中でハイド(隠れる)することになったKSN一行。敵が無警戒で来るところへ不意討ちするための作戦なので、周囲の音に耳を澄ませたり、安置移動に気を配ったりなど、本来は気が抜けないはずの状況なのだが。

 ロベルさんの「ねぇ好きな子いんの?」の一言で、元来ふざけるの大好き、笑わせること命の二人はスイッチが入ってしまった。修学旅行の夜のごとく、架空の恋バナ(?)で盛り上がる3人。あどみんコーチもなぜかノリノリで「お前ら寝てるか~?」と先生役で乱入してくる始末。
 ……動画のサムネでお気づきの方もいるかと思うが、そんな楽しい修学旅行の夜は、いたって真面目にAPEXをしていた敵チームによって終わりを告げた。有利だったはずのハイド3人衆はなぜか物音で存在を看破され、あえなく結成時と同じく段ボール(デスボックス)3人衆となったのだった。

 リスナーの中でも特に印象深かったであろうエピソードを紹介したが、とにかくKSNはふざけ倒したエピソードなら事欠かない。それだけ賑やかで雰囲気のよいチームだった。
 とはいえ、それだけではない。当時最高ランクがプラチナながら、IGLの重責を買ってでた乾殿。大会で戦うにあたっての最重要レジェンド・ジブラルタルを任されたメイカさん。チームの中では一番経験もランクも浅いものの、飄々とした顔で裏で練習し続けたロベルさん。3人それぞれが、「楽しませる」配信をしながら、同時に役割を果たし本気で勝ちに行こうとしていた。それがKSNだったのだ。

 思い出深い「修学旅行事件」とは別に、いちリスナーとして忘れられない試合がある。2回連続チャンピオンを獲った日のことだ。KSNより平均ランクが高いチームばかりの中で、快挙といってもいいものだろう。

最協S2 カスタム練習5日目(1回目のチャンピオン試合の最初から)

 優勝候補に名を連ねる他チームは、全員ダイヤランク(上から3番目のランク)のチームメンバーで固めているところが多いなかで、KSNはダイヤが一人、その下のプラチナが一人、さらにその下のゴールドが一人と、ランクで言うと明らかに他チームとは実力差がある状態だった。そこまでのカスタム練習も、実際に実力が上のチームになかなか勝てない日が続いていた。

 前日はメンバーのロベルさん不在のまま、オリンパスという特殊なマップに適応するため、あどみんコーチとともにレジェンド変更をためしていた。ロベルさんがぶっつけ本番で新たな索敵レジェンドに挑んだ、まさにその日が、2回連続チャンピオンの日だったのだ。

 普段おちゃらけているように見えて、勝ちに全力な熱い男たちの歓声。二回目のチャンピオンで「俺達のこと優勝候補って呼んでいいんじゃないスか!?」そう叫んでフラストレーションを爆発させたメイカさんを見て、応援しているこっちも大興奮だった。

 チーム内でも実力差のあるチームで、敵チームと比べても実力(というよりランク差)で劣っている部分は多々あっただろう。配信で見せていないだけで、本人たちも抱えているものや考えていることはたくさんあったはずだ。
 それをリスナーに見せずに、エンタメとしての最協S2を見せてくれたこと。勝ちに行くことも妥協しなかったこと。3人それぞれ自分の役割を全うしたこと。どれをとっても素敵なチームだと今でも思う。
 私事だが、筆者は全力で応援したAPEXチームはKSNが初めてだったのもあり、こんなに報われて欲しいと思ったチームは他にないくらいに、思い入れが深いチームでもある。

 そんなKSNの本番だが、悔しいことに16位となり、練習の成果は十分に発揮しきれなかった。最終試合、まあまあのトロール(やらかし)でチームが全滅したあと、なぜか笑い出すKSN一同。「え、大会終わった?」「今日練習試合でしょ」と3人はいつものようにふざけているものの、ぽっかり穴があいた感覚と寂寥感で、ああ大会が終わったんだな……というのを感じた。
 本人達も、思わぬミスで最終試合が終わって悔しくないはずがない。それでも、見ているリスナーのことを思って全力でふざけようとしてくれた、これがKSNなのだな、というのも実感した最協S2だった。
 こうして、熱く優しい男たちによる冬が終わったのだった。


 ここからは後日談なのだが、最協S2が終わって数日後、主催の渋谷ハルさんが次回の最協決定戦に向けてルール整備配信を始めた。
 最協S2ではランクポイント制限というのが定められていた。強いランクの人ほど重いポイントが課せられ、決まった上限の中でチームを組む。最協S2では上限は18ポイントだ。そのランクポイントの設定は適正だったか、新たに追加するルールはないか、検討しようという配信だ。

 カスタム練習中、負け続けるチームが出ないようにとの意図からランク合計の下限を設定するか?という話になったときだ。下限の目安はおおよそ14ポイント、ちょうどいいチームとしてKSNを挙げようとしたときに、渋ハルさんは気付いた。KSN、暫定下限に大幅不足の11ポイントじゃね?

 カスタム2連チャンピオンをとるようなチームが、まさかそこまでポイントを余らせているとは誰も思うまい。筆者も想定外だった。KSNの3人は、渋ハルさんをして「逆のバグが起こってて草なんだ」と言わしめた唯一無二のチームとなったのだ。


昨日の敵部隊は今日のランク友達

 本番の戦績はいまひとつだったが、最協S2を経て乾殿の配信に大きな変化があった。他の配信者との交流だ。

 これは乾殿リスナー目線の話になるが、乾殿は2021年の抱負として「積極的に外部へ出る、コラボをする」というのをあげていた。その言葉通り、様々な選手と邂逅した最協S2の前後で、APEXコラボを見られる機会が増えてとても嬉しかったのを覚えている。

 最協S2の後、昔なじみの債務者Vtuber・天開司さんを中心に続いたコラボを2つ紹介する。天開さんは最協の出場選手ではなかったが、もともとAPEX熱が高まっていたのと、観戦してさらに火がついたらしく、この期間頻繁にAPEXコラボをしていた。
 最協S2では敵チームだった西園チグサさんや、チームメンバーだったロベルさんとともに、乾殿はゴールドランクでメンバーを引率していた。

 個人的に大好きで、いまだにコラボを求めてやまない組み合わせが、最協後夜祭で組んだエクス・アルビオさん小森めとさんとのトリオだ。
 最協決定戦は、本番終了後の深夜に後夜祭がある。複数の特殊ルール試合がある中で、色々なリスナーが心待ちにしている神企画がある。その名もシャッフルマッチ。主催・渋谷ハルさんが60人の選手をもてあそぶ……もとい素敵な采配によって、今までになかった組み合わせや交流が生まれるものだ。

 シャッフル開始後、初対面とは思えないほどしゃべり倒し煽りあう3人の姿を見て、渋ハルさんマジグッジョブと心の中でサムズアップした。最協が終わったあとも、3人はAPEXでのコラボや別ゲームでのコラボ配信を企画してくれ、相変わらずの騒がしさでリスナーを笑かしてくれた。

S2高野菜(後夜祭) エクス・アルビオ/にじさんじ 小森めと/ブイアパ


"最強"の敵 AlphaAzur

 IGLという重責を果たし、交流が実を結んだ最協S2期間。そして一息ついたと思った2021年春、ある大会で、乾殿にとってとても大きい出会いをすることになる。後の師・AlphaAzurさんと相間見えたのだ。

 Alphaさんとの乾殿のファーストコンタクトは、2021年4月3日に行われた忍ism Gaming主催「シノビカスタム PRE-TOURNAMENT」だ。ただし、お互い敵同士、別チームとしての参戦だった。

 乾殿は親友の葛葉さん、さん両名と「かんなんしんく」として。Alphaさんは配信者有名カップルK4senさんAjakaさん(ご結婚おめでとうございます!)とともに「ナックル剣山」として参戦。本番で優勝争いを繰り広げた。

 キルポイントを奪い合い、マップ上で出会っては倒し倒されのアツい戦い。かんなんしんくは最終戦inキングスキャニオンで4位6キルで部隊全滅となり、大量19キルチャンピオンを獲得したナックル剣山に逆転される形で優勝を逃す。
 最終試合、かんなんしんくを全滅に追いやったのは奇しくもナックル剣山チーム。高い高い壁としてAlphaAzurさんが立ちはだかった大会だった。

配信アーカイブ(乾殿視点、Alphaさん視点)

 余談だが、この2チーム配信上で互いのことをめちゃくちゃ意識しまくっていた(お互い上位チームで優勝争いをしているので当然ではあるけれど)。ナックル剣山チームはほぼ他のチームから選ばれないヒューズというレジェンドを構成にいれており、かんなんしんく側はヒューズ固有の戦術スキル、アルティメット(必殺技)の姿が見えた瞬間「ナックル剣山だ!!」と戦闘を仕掛けにいくこともしばしば。

 ナックル剣山側も、4試合目、初動で叶さん・葛葉さんの2名をキルしたのに蘇生され、その後かんなんしんくに全滅までもっていかれる悔しい戦闘が発生。「これで大会がアツくなってきた」「次はデスボックスで待つ(蘇生なんかさせないぞ)」と、少年マンガばりのバチバチを見せてくれた。

 葛葉さん迫真の「ア"ル"フ"ァ"ア"ズ"ー"ル"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ウ"ウ"ウ"ウ"!!!!!!」も必見だ。親の仇か??ってくらいの音圧で叫ぶ。ちなみに葛葉さんAlphaさんは一緒にタルコフやったりタイマン勝負で煽り合うくらいには仲良しです。


召集、そして連戦

 大会の熱狂冷めやらぬ2021年4月7日、乾殿がなにやら意味深なタイトルでAPEX配信を開始する。「次なる戦」

 シノビカスタムでの活躍を見出され、別の大会へと召集された旨をリスナーへ嬉しそうに報告し、下から2つ目のランク・シルバー帯でゲス笑いしながら無双する忍者であった(当時兼業Vtuberだったためランクマッチを回す時間がなかったものと思われる)。愛用レジェンド・レイスにて初の4000ダメージの証・ダブハンバッジを獲得し、調整ばっちりで迎えたチーム顔合わせには、かつての”最強の敵”がいた。

Cypha CUP顔合わせアーカイブ(乾殿視点、Alphaさん視点)

 リーダーとして大会へ誘ってくれたのは、シノビカスタムでしのぎを削りあったライバル・AlphaAzurその人である。もう一人のチームメンバーは、にじさんじ所属Vtuberのアルス・アルマルさん。AlphaさんとともにCRカップに出場したこともあり、いつまでも練習し続けられる無尽蔵の体力と、大会で磨いてきたブラッドハウンドの練度を買われ、乾殿とともに「Cypher CUP 第一回」へ招集となった。

 乾殿を大会に誘うにあたって、Alphaさんはシノビカスタムの乾殿視点を全て見たとのこと。「自分のやりたいことを試合中味方へ報告できる」「ジブラルタルがうまい」「301カービンとEVA8ショットガンの当て勘の良さ」などなど、乾殿は開始10分で蕁麻疹が出るほど褒られまくっていた。

 また、Cypher CUPだけではなく、Alphaさんは乾殿を何度かAPEX大会へ誘ってくれている。時系列順に書き出すとこんな感じ。出場したチームの最終順位も示しておく。

4/11 Cypher CUP 第一回 ……14位
6/13 Restart Games Festival -Apex Legends- ……16位
6/19 VISC APEX Tournament -2021 summer- ……15位
7/24 Cypher CUP 祭 ……2位
7/25 Cypher CUP GRAND FINAL ……20位
(Cypher CUP GRAND FINALは祭を勝ち抜いた結果出場しているので、お誘いがあって参加したのは計4大会です)

 順位をみて、ん?と思う方もいるかもしれない。なんか戦績悪くね?と。そう、誘ってもらった大会で全然勝てていなかったのだ。
 有名ストリーマーやプロプレイヤーが集まる大会は、後半になっても生存部隊数が多く、周りは単純な撃ち合いの力が強い人ばかりになる。格上プレイヤー相手に撃ち負けたり、うまく位置取りができなかったりと、健闘およばず悔しい試合が続いた。
 乾殿は当時プラチナランクで、チームの中では2番手3番手の位置になる。「Alphaさんにせっかく誘ってもらったのに申し訳ない」「自分の実力不足で勝てなかった」……大会が続いたこの期間中、そんな風に自分を責めることもあったかもしれない。

 APEXの大会は、各人の最高到達ランクに応じてポイントが割り振られ、決められた上限内でチームを組むことが多い。乾殿は当時プラチナランク(全ランクのなかで真ん中あたり)ということで比較的低いポイントで召集されることが多く、「コスパがいい」「ポイント詐欺」と見られることもあった。ただ、その実力は才能や天賦だけのものでは決してなく、こうした苦しい時期を、乾殿が耐えてきたことでも培われたものなのだと思う。

 順位はあまり奮わなかった大会も多かったが、リスナー目線で言えば顔合わせやカスタムマッチ、本番の観戦は、どれをとっても楽しかった。はじめましての和気藹々とした雰囲気や、それが戦闘になると一転して真剣な報告がとびかうギャップに夢中になった。

 また前述したとおり、乾殿は2021年の目標として積極的な交流を掲げていた。旧友・葛葉さんと叶さんと出場した大会がAlphaさんとの縁になり、それがアルスさんをはじめとした他のチームメンバーとの交流につながったことは、何度思い返しても心がじんわり温かい気持ちになる。
 APEXの大会は20チーム出場がある。優勝チームがいるということは、20位のチームも当然いることになる。結果によらない「楽しい配信」を見せてくれた乾殿、Alphaさん、そしてチームメンバーの方々に本当に感謝しかない。

 また、ざっくりとではあるが、各大会のチーム名・チームメンバー(敬称略)を以下に紹介する。どう見ても徹夜明け7秒で考えて提出しただろみたいなチーム名ばっかなのもオススメポイントだ。
 紹介文の下のほうに大会本番アーカイブも載せておく(RGFesとVISCはカスタム練習もあったのだが割愛する。気になる方はぜひ乾殿のチャンネルからとんでご覧ください!)。

RGFes 伸びールボブヘアー
メンバー:AlphaAzur、乾伸一郎、BobSuppAim(Alphaさんが以前所属していたプロゲーミングチーム「野良連合」のチームメイト)

VISC アーよっこいSou一郎
メンバー:AlphaAzur、乾伸一郎、Sou(歌い手。第五回CRカップでAlphaさん、胡桃のあさんとチームメンバーだった)

Cypher CUP 祭および GRAND FINAL あるあるでござぁる
メンバー:AlphaAzur、乾伸一郎、アルス・アルマル


新たなレジェンドとの出会い

 2021年春~夏にかけての師AlphaAzurとの連戦において、強者との戦闘経験以外にも大きなものがあると思っている。それがレイス以外のレジェンド(キャラ)の経験だ。
 乾殿はレイスになみなみならぬ愛着をもち、大会やランクマッチでもよく使っている。この連戦期間、レイスにこだわらずレイス以外のレジェンドをやり込んだことで、乾殿の視野の広さやサポート意識の高さがより活かされることになったのではないかと筆者は考えている。

 レイスとは、APEX中で能力が強く重宝されるレジェンドである。身体が小さいため被弾を少なくすませられ、スキル「虚空」で無敵となり、危険な敵地の偵察や被弾したときの退却が安全にできる。必殺技の「ポータル」は、味方を無敵状態で最大約75mの距離を移動させられる。
 レイス自身が戦闘に適した特長とスキルをもつだけでなく、敵を迎え撃つための戦略などもレイスを使う人が受け持つことが多い。事実、1月の最協S2では、乾殿が戦闘や移動のオーダー(命令)をこなし、IGL(=In Game Leader)のレイスとしてチームを引っ張っていった。

 また、乾殿がレイスを愛用している理由のひとつに、レイスが「忍者(?)キャラ」であるということが挙げられる。
 レイスの初期衣装は、和服のような見た目をした真っ黒なもので、隠密行動にぴったりだ。課金で手に入れる格闘武器はクナイだし、修正されてしまったがかつてはゲーム内で「ナルト走り」をしていた(走るときに両手を後ろのほうへ流す。その名の通り某国民的忍者マンガの走り方が由来)。

 乾殿はストVでは是空、ブレイブルーでいったらシシガミ=バングが持ちキャラだ。ポケモン配信では「忍者っぽい」ポケモン縛りで殿堂入りまで完走した。そのぐらいゲームの持ちキャラが忍者であることにこだわりをもっている。レイスが大幅な弱体化を受けたときも「レイスを続ける」という言葉を配信タイトルにするぐらい、APEXでの持ちキャラにも強い意思があったはずだ。

 乾殿のレイスへの愛情を知っているからこそ、この期間中の研鑽を思うといちリスナーとしてはうるっと来るものがある。ただでさえ強敵揃いの大会で、レイスと違って無敵がなかったり被弾しやすいキャラは、自分が先にダウンしてしまうことも多くなる。能力の仕様やクールタイム、効果的な使い方も、レジェンドが変わればがらりと変わる。
 どうすればダウンを避けられるのか、どこなら射線を切れるのか、どんな風にスキルやウルトを使えば効果的なのか──。配信でも、配信以外の時間でも、当時兼業だった乾殿が研究や練習に費やした時間はきっと膨大なものだっただろう。
 苦しい中で得た「レイス以外のレジェンドで大会を戦い抜いた経験」は、後述する大会やカスタムに十二分に活かされていると、筆者は強く思うのだ。


"最弱"からの挑戦状

 思うような結果が得られない大会が続く中、ある大会が公示された。昨年8月と今年1月、悔し涙を流し、全力で走り抜けたあの最協決定戦のSEASON3だ。

 最協S3では、最協S1でともに漢泣きをした相棒・バーチャルゴリラさんと再びチームを結成。FPSセンス抜群の成長株、にじさんじ所属の星川サラさんを3人目メンバーに、そして数々の大会をともにしたIGLの名手・Alphaさんをチームコーチに迎え、昨年届かなかった"最協"の座を万全の体制で狙う。
 出場者の中で唯一のAPEX最高ランク・プレデター到達者のゴリラさん。ゴリラさんとの連携ばっちり、かつ中後衛サポートキャラを先の連戦で研鑽した乾殿。ランク以上のエイムの強さと、個人コーチをつけるほどAPEX熱のある期待のホープ星川さん。チーム発表直後から、乾殿のチームはまたもや有力な優勝候補と見られていた。しかし、事件は起こる。ランドマークくじ引きだ。

【ランドマーク】とは、最初のジャンプで降下する場所のことです。
 マップ内では物資状況の良い場所、逆に悪い場所があります。本番で勝つためにはもちろん良い物資がある場所に降下したいので、スクリムの段階で「私達のチームはこの場所に降りる!」という縄張り争いが行われます。

 バトルロイヤルゲームであるAPEXは、試合開始直後、マップに散らばり武器やアーマーなどの物資を集めたあとに安置移動や戦闘を行う。その降りる場所がランドマーク、より良い物資が落ちているランドマークを求めて戦うのがランドマーク争いなのだが、最協S3ではそれがすべて「くじ引き」に変更された。
 試合開始直後に負けてしまうチームは、その後の試合に関われず練習の質が落ちる。また戦闘が起こり続けることで配信が荒れてしまうこともある。それを解決するため、運を天にまかせてランドマークを決めよう、というシステムだ。
 乾殿のチームが引いてしまったランドマークは、ランドスライド。アーマー、武器、バッグ、武器のアタッチメント、戦うのに必要な全てが不足している場所だ。相棒との1年ごしの優勝への挑戦は、"最弱"の荒地からの厳しいスタートとなってしまったのだ。

主催者・渋谷ハルさんのくじ引き配信
(乾殿のチームがくじを引くところから開始します)

 ちなみに、どのくらいランドスライドの物資がひもじいのか、有志の方がデータをまとめてくださっている。以下のツイートの左側、拾えるアーマーの強さが場所ごとに棒グラフで表されている。当然最弱、しかもワースト2位にまあまあ差をつけられてのドベである。あまりの貧弱さから、物資を奪う能力をもつレジェンドを使うことも視野にいれていた(後日変更されている)。

 大きな不安要素を抱えたまま、ついに大会一週間前。始まったカスタムマッチ(本番を想定して行われる練習試合)で乾殿のチーム──ゴリラの惑星エピソード1(以下PG1と記載する)は、想像以上に苦戦を強いられた。

 マップで拾う物資の中には様々なものがある。武器、弾、武器につけて強化擦るアタッチメント、などなど。中でも重要なのが前述したアーマーだ。マップ上に湧くのは、白(レベル1)、青(レベル2)、紫(レベル3)、金(レベル4)の4種類のアーマーだ。一番レベルの低い白は、数値に直すと50の体力しかない。紫、金は100の体力がもらえるのでその差は倍だ。
 白・青・紫のアーマーは、一定以上のダメージを与えればレベルが上がり進化させることもできる。だが、貴重な物資である弾や回復を消費することにも繋がり、「初動の段階で」どれだけいいアーマーを手に入れられるかは、その後の物資ひいては勝敗に直結するといってもいい。

 PG1は当初、アーマーを含めた物資の弱さを克服するためにローバというレジェンドを構成にいれていた。必殺技で一定範囲の物資を奪い取れる「ショップ」を開くことができ、本来鍵がないと入手できないレアな「保管庫」のアイテムも、ショップの破壊と引き換えに1つだけ手にいれることができるようになる。物資さえあれば、他のチームに強気に戦闘を仕掛けてキルし、さらなる物資を得ることもできる。それを狙ったものだ。

 ところが、カスタム練習直前で構成を変更したため、大きな問題が発生した。チームメンバー・星川サラさんの実力が発揮しにくくなってしまったのだ。
 星川さんの普段、そして大会で使う持ちキャラはブラッドハウンドで、スキルも必殺技も索敵に特化している。星川さんは乾殿と同じプラチナランクながら、ランク以上の正確無比なエイム力をもっている。スキルと必殺技で索敵し、鬼エイムでダメージを出し味方のカバーをするのが、星川さんが使っていたレジェンドの役割だ。そんな彼女が索敵キャラから外れてしまったため、チーム全体のフィジカル(撃ちあいの強さ)が低下してしまったのだ。

 APEXはバトロワゲーであるため、自分たち以外以外敵の状況でどう行動するか、という立ち回りも比重が大きいゲームではある。しかし、基本はFPSゲームである以上、撃ち合いにどれだけ勝てるか、という問題はずっとつきまとってくる。
 最終的に、PG1は初動の良い物資を諦め、修羅の道を行くこととなった。レジェンド構成は、星川さんは使い慣れたブラッドハウンドへ、乾殿は大会直前に強化が入ったうえ、最終盤の戦いに強い毒ガス使い・コースティックへ変更された。

 ローバを構成から外したPG1は、覚悟したとおり物資が少ない中で、さらに苦しい戦いが続くことになる。武器、弾、バッグ、アタッチメント、アーマーなどが不足する状況で、全員のフィジカルを活かしきれない。撃ち合いが不利になれば、ますます回復などが不足する負のループに陥り、狭まっていく安全地帯の中でより弱い場所に追いやられることになる。
 カスタム練習を重ねるなかで、着実に成長はしているものの、最良の結果──チャンピオンはまだまだ遠くにしか見えない。気持ちが後ろ向きになると言葉も少なくなり、戦闘への報告が減るとさらに負けが続き後ろ向きになる……。
 そんなPG1を見ていたAlphaコーチは、ある戦略をチームへ共有した。「情報で勝つ」ことを目標にしたのである。


AlphaAzur式情報戦のすゝめ inランドスライド

以下の4つがAlphaコーチが主に提示した情報戦の内容である。
(本当はもっとコーチングしていたこともあるのですが、説明量の関係なので平にご容赦を……!)

① 他19チームの構成、レジェンドのスキン(服装)や
  ランドマークを記憶する
② キルログ(試合中に誰が誰をキルしたかの記録)を管理する
③ 星川さんへのサブオーダー
④ 武器構成

①……他チームの情報を徹底的に集める作戦である。
 とある場所で争っている2チームを見つけたとする。その2チームがどのランドマークから来たのか分かれば、移動した距離やルートを考慮して、次の安置を予想する指標になる。スキンが分かればどのチームのどのプレイヤーなのか、識別と警戒に役立つ。構成が分かれば、自チームの構成と照らし合わせて対策をたてやすくなる。
 敵を知ることが戦況を読むことに繋がり、安置への安全な移動や強い場所をとることにも繋がっていくのだ。

 ……と文章では簡単に言えるものの、つまり全19チーム総勢57名の選手の、使用レジェンド、スキン、ランドマークを1週間足らずで覚えるということだ。しかも変更があり次第更新して覚えなおしていくことになる。
 乾殿はこの莫大な量の記録と記憶を担当していた。スプレッドシートに情報を都度入力し、夜遅くまで何度も見返していたのだろう。

②……試合中、ダウンさせた、ダウンさせられた。キルした、キルさせられた、という記録が、ゲーム画面の右上に文字情報となって流れてくる。このキルログは一定時間後に消えてしまうため、ある程度自分の頭で覚えておく必要がある。こちらも①の情報と同じく、戦闘を有利にしてくれる情報がつまっている。

 例えば、部隊全滅の際はキルログが3人分一気に流れてくるが、確認したキルログは1人のキルで止まった。ということはどこか人数が欠けている部隊がいて、その部隊には人数で有利になるので積極的に戦闘を仕掛けてよい、という判断指標になる。

 あるいは目の前で戦闘があって漁夫を仕掛けたいとき、2チームから2ダウンずつ出ている状況だと、たとえ勝ったほうのチームだとしても戦線復帰は難しく漁夫が成功する可能性が高い。逆に一方的なダウンがキルログで確認される場合、戦線復帰は容易だし、勝ったチームは敵の物資を奪って潤っており漁夫は失敗する可能性が高い。
 というように、戦闘を仕掛ける、あるいは退却する目安になるのがキルログなのだ。

 こちらは移動の合間などに、観戦気分で楽しみつつ頭に入れることをAlphaコーチから伝えられていた。ただの文字列として丸暗記するのではなく、〇〇さんと▲▲さんが戦ってる!という「情報」を楽しんでほしいとの思いなのだろう。

③……まだ大会経験が浅い星川さんへ、サブオーダー(立ち位置や状況説明などの役割)をつける。こちらも乾殿が担当していた。

 星川さんは素晴らしいエイムの持ち主であるものの、大会やランクでの経験が浅く、実力を発揮しきれない時がままあった。逆に言えば、そこをサポートしていけば最強の……いや、"最協"のチームメンバーに化ける可能性を秘めていた。また、戦闘面でもオーダー面でもゴリラさんに大局を任せ集中させるために、星川さんのサポートを乾殿が担ったのである。
 まずAlphaさんから星川さんに、試合中どんな報告があれば味方が動きやすいか、どんな情報を渡していくのか、というレクチャーがあった。報告を受けたのち、ゴリラさんはマップ移動や戦闘合図などのメインオーダーへ。乾殿は星川さんへ、安全な場所、どんな戦闘なのか、誰を撃つのか、などの具体的な指示を出していく。

 乾殿の情報サポートでゴリラさんのIGLを最大効果へ、そして乾殿のサブオーダーで星川さんのとてつもない火力を最大限引き出していく。レジェンドとしても選手としても、乾殿は味方のサポートという重要な役割を任されていたのだ。

④……情報戦の一環として、試合中乾殿は遠くを見て人を識別できるスナイパーを所持していた(弱いアーマーをスナイパーで育てていくこともできるため)。
 またゴリラさんは、紆余曲折あった後、「ウイングマン」というピストルをメイン武器として使うことになった。ウイングマンは弾数消費が少ないながらに高火力を出せる武器である。ただし当てるのが難しい武器としても知られている。
 出場者最高ランクの実力を持つゴリラさんだから出来る武器選択で、弾節約と牽制・戦闘を両立したのだ。

 ここまでAlphaさん仕込みの情報戦について触れてきたが、もちろんこれがすべてではない。Alphaさんが大会後投稿していたコーチングまとめ動画には、安置パターンから読み取れる強いポジションの解説を、安置のバリエーション分だけ載せたものがある。それだけでなく、こちらに記述した戦略の詳細もそちらの動画でAlphaさんが丁寧に解説しているので、ぜひ見ていただきたい。(動画は次のセクションの最後に載せます!)

 絶望的かと思われたランドスライドから、丁寧に勝ちへの道を一緒につくってくれたAlphaさんには、リスナーの身からしても本当に感謝してもしきれないぐらいだ。同じくらい、苦しい状況から腐らず、出来ることを積み上げたPG1のメンバーは、本当に自慢の推しだし胸を張って大好きと言いたい、言わせてほしい。

 情報戦が実を結び、カスタム中盤から徐々に成績を伸ばしてきたPG1だが、本番2日前には念願のチャンピオンを獲得した。こちらは星川さんの代わりにアル川さん……もといAlphaコーチが出場していた。実力差のある星川さんに合わせて、アル川さんはスキルや必殺技の使用、武器なども縛った状態での参加だった。試合後、チームはAlphaコーチから「俺が星川さんだったとしてもチャンピオン獲れる試合だった」とのお墨付きをもらう。
 その言葉通り、翌日──本番前日のカスタム練習では、とうとうフルメンバーで感動のチャンピオン獲得と相成った。

 昨日の勝利は、一番近くで見ていたAlphaコーチ、そして神視点実況をしていた主催の渋谷ハルさんもチームの背中を押すものではあったが、どうしても「でもコーチが代わりだし…」の声は聞こえてくる。アル川さんとのチャンピオン獲得後、「さっきチャンピオンとったって本当ですか」と星川さんが不安そうにする場面もあった。
 そんな全ての不安と周囲の声を払拭する、フルメンバーで13キルの大勝利。相変わらず物資が乏しいなか、安置外で体力を削られながらアーマーを強化し、取りたい場所に後入りで、戦闘で奪いとって掴んだ、文句なしのチャンピオンだ。

 緊張の糸が切れたのか、「ヤッター!!!!!」と叫び大泣きする星川さん。「4人でとれた」と涙声の乾殿。興奮冷めやらぬ中、言葉少なに勝利を噛み締めるゴリラさん。今までの努力が、道のりが、糧となったことを、PG1は「4人で」証明したのだ。

本番前日のカスタム練習
(チャンピオン獲得試合の開始時点から)


”最協”を証明せよ

 ついに迎えた本番、荒地でくじけずに努力をした4人を見ていたのか、ランドスライドの女神は微笑むどころか大爆笑の拍手喝采だった。アーマーや物資状況が、全試合通じてカスタム練習よりも圧倒的に良い。今までずっと最低保障だったガチャが、単発5回まわしたらSSR3枚SR2枚に化けたみたいなものだ。控えめに言って観戦しながらテンション爆アゲだった。
 アーマーは白2青1、悪ければ白3枚が普通だったのが、本番ではなんとランドスライド産紫アーマーも出現した。一定確率でしか手に入れられない、レア物資の山へアクセスできる「保管庫の鍵」も、5試合中2試合で出現し、チームの戦績、そして何より士気高揚に一役かってくれた。

 緊張の1試合目、最協S3最初のキルを獲得したのはPG1だった。
 本番で上振れたとはいえ、最初の物資が厳しい中で試合を戦い抜くのは難しい。そこでAlphaコーチから授けられた戦略は、「戦闘を仕掛けて物資を奪え」だった。
 戦闘をして勝利すれば、近くに敵のデスボックス……つまり物資のつまった箱ができることになる。ひとり分の物資をつくることができれば、武器や弾、回復に余裕ができる。その余裕をつくることができれば、PG1の実力なら負けることはない。そうAlphaコーチは踏んだ。

 ただしこの作戦は、同時に大きなリスクを背負うことになる。本番では敵も味方もお互い緊張感に包まれている。本番の魔物にのまれ、逆にキルされることになったら? いや、全滅でもしたら? この作戦はAlphaコーチも語っているが、0キル20位で試合が終わってしまうことも念頭においた、かなりリスキーなものだった。
 そして彼らはそれをやってのけた。

 最下位の恐怖を振り払い、冷静に敵のレジェンド構成を見極め、敵にコースティックの毒ガスが有効だと分かるやいなや攻撃を仕掛けた。そのチームからは、最初に落とした選手、そしてそのバナー(蘇生に必要なアイテム。味方のデスボックスから回収する)を拾いにきた選手の合計2キルを獲得した。

 その後も物資とポジションを敵から奪いとり続け、気付けば残り2部隊。最協S3本番、初戦のチャンピオンをかけた大一番だ。PG1は乾殿が直前の戦闘でダウンしており人数不利の状況だったが、有利な建物の屋根の上を陣取っていたのが功を奏した。星川さんのR301カービンとゴリラさんのグレネード(手榴弾)で敵の体力を大きく削り、最後はゴリラさんのウイングマンで試合終了。キルポイントの上限3の試合ながら、圧巻の14キルチャンピオンだった。

 また、最協S3の大きなターニングポイントだったと思うのは、2戦目の星川さんのビッグクラッチだ。
 安置内への移動中、ポジションを奪うために仕掛けたファイトで、メインアタッカーのゴリラさんが最初にダウンさせられてしまう。その後星川さんが敵を一人ダウンさせるものの、乾殿も落ちて1vs2の不利状況となった。しかし、星川さんがダウンした二人のコールを聞いて、乾殿と戦って体力が少なくなった敵から落とす。残る1vs1、301 カービンの腰撃ちで削り、ラストはショットガンで落としきった。きっちり味方のカバーをし、コール通り体力がローの敵から削り各個撃破し、一人で3キルをもぎとった、驚愕の「オーマイガークラッチ」だった(AlphaAzurさんの応援配信より)。
 この試合は最終順位が3位。もしあの場面で負けていたら、順位ポイントが0となる17位で終わっていた。その差は順位ポイント分だけで実に7ポイント。大きく優勝へ近づいた、転換点となる試合だった。

 個人的に印象的なのが、戦闘後、ビッグプレーに沸くチームメンバーとチャット欄とは裏腹に、星川さん本人が終始不安そうな声だったことだ。いつもは前に立っている仲間が先にダウンし、自分のプレイがチームの勝敗を左右する状況に置かれた心境は、想像するに余りある。プレッシャーに耐え、最高のプレイを見せてくれた星川さんは、最高にかっこよかった。
 戦闘中落ちてしまった二人も、立て直しの時間ずっと「次はあっち側をスキャンして、ここで蘇生しよう」「自分が蘇生用アイテムを持ってるから落ち着いて」など、星川さんを混乱させないように具体的かつ穏やかめなコールが飛び交っていて、1週間で培ったチーム力を存分に発揮してくれた。

 ちなみに、1戦目残り2部隊で戦ったチーム、そして2戦目で倒したチームのリーダーは歌衣メイカさん。昨年の最協S1でゴリラさん・乾殿とともに悔し涙を流し、最協S2でロベルさん・乾殿とともにふざけ合ったチームメンバーだった。戦場で敵として相見え、互いに銃を向け合う展開になるとは、なんとも因果を感じてしまう。

星川さん視点の最協決定戦本番 
(2戦目のクラッチシーンから)


 ライバルチームと僅差で迎えた最終試合は、5試合中最も物資が厳しかった。中盤の戦闘で弾や回復などのリソースを全て吐ききり、ぎりぎりの状態で生存を模索する。途中星川さんがキルされてしまい、残るは乾殿とゴリラさんの二人だけ。
 そんな中、二人のオーダーがぶつかった。ゴリラさんは不足している物資を求め、ダウンさせた敵のいる場所へキルしに行こうと提案する。対して乾殿は、不確実なキルポイントよりライバルチーム以上の順位に上がることを目指して安全な場所を示す。どちらも違う考え方のもとで発された、両方とも同じくらい正しいオーダーを、高い熱量でぶつけあう。そんな二人から、長年の信頼関係が見えて胸熱だったのを覚えている。

 最終試合、PG1は2位7キルでのフィニッシュとなり、競っていたどのライバルチームよりも高い順位でこの試合を終えた。うち乾殿は6キルし、チームのポイントへ大きく貢献した。
 そして迎えた、結果発表の時。

最協S3本番アーカイブ
(優勝チーム発表を待っているところから開始します)

 チームで一番最初に、誰よりも大きな声で、「ヤッターーーーーーーー!!!!!!」と叫んだのはAlphaAzurコーチ。3人を誰よりも近くで見守っていたAlphaコーチの歓声に目がうるみ、涙声の3人の声を聞いて、画面の向こうの筆者も涙腺が崩壊した。
 チームメンバーの名前にかけて、「ゴリランドスライド」と愛されつつバカにされていたランドマーク。案の定苦戦したカスタム練習。4人で情報戦に取り組み、それぞれの課題と向き合い、恐怖を乗り越えた先には、信じられないくらいの幸せがあった。

 昨年届かなかった"最協"の座は、こうして夢ではなく現実として、乾殿の手に舞い降りてきたのだ。

AlphaAzurコーチのコーチングまとめ動画


"最強"の仲間 アルゴリ忍者

 感動のフィナーレを迎えた最協S3から少し経ったある日、コーチAlphaAzur、そしてPG1のメンバーであるゴリラさん、乾殿の3人──チームアルゴリ忍者FLARE CUPに出場することが発表された。

 APEXの有名ストリーマーを多数招待した記念大会で、賞金総額は30万円。ランクによるポイント制限は上限26ポイントで、これだけでも大会のレベルの高さが伺える。
 最協S3まではプラチナランクだった乾殿だが、最協S3に向けて鍛錬する中でランクはついにダイヤモンドに達した。そのランクポイントが初めて反映された大会である。
 最協S3からほぼ2ヶ月後の10月20日、FLARE CUPが開かれた。

使用レジェンドは、Alphaさんが情報戦に長けたクリプト、マップ上をチームを連れて飛行できるヴァルキリー、重力を操り高所を我が物にできるホライゾンを柔軟に使い分ける。ゴリラさんが移動に適した能力をもつオクタン。そして乾殿が使うのは、これまでAlphaさんと出た大会の多くで使ってきた、最難関レジェンドとしても知られるジブラルタルだ。

 最協S1、S2をともにした乾殿の盟友・歌衣メイカさんは、ジブラルタルの名手としても知られるが、その難しさをメイカさんはこう表現する。「ジブのおかげで勝つし、ジブのせいで負ける」

 ジブラルタルのスキルは「ドームシールド」というもので、弾を通さない半球型のドームを展開する。遮蔽物のない場所に置いて安全に移動するためにも使われるし、インファイト(接近戦)の際、自チームは有利に、敵チームは不利に働くような遮蔽をつくるのにも必須だ。
 必殺技は「空爆」で、一定範囲に高ダメージの爆撃を浴びせるものだ。特定のレジェンドのスキルや屋根がある場所でないと回避できず、直撃すると視界が悪くなる、動きが遅くなるなどのデバフもつくため、全レジェンドの中でもかなり強力だ。

 ジブラルタルは強い能力を持っているがゆえに、効果的に使いこなせるようになるまでが難しい。下手な使い方をすれば、逆に敵に利用されてしまうこともある。ドームシールドも空爆も、チームの戦闘や動き全体に関わる能力のため、ジブラルタルがチームの勝敗を分けるというのは、誇張ではなく事実なのだ。

 そんなFLARE CUPの乾殿のジブラルタルだが、端的に言って大活躍だった。味方を覆いつつ敵は使えない完璧なドームや最終盤の神爆撃で、味方を完璧に支えていた。
 AlphaさんIGLの的確なオーダーとポジション選び、ゴリラさんの縦横無尽な展開と火力、そして乾殿のカンストした戦闘サポートで、アルゴリ忍者はライバルチームをかわしきり優勝をかっさらっていった。

 4試合中、チャンピオンが二回。2位が一回。チーム総キル数44。
 安定した生存と火力を両立し、本配信では実況席に「最終安置には必ずこのチームがアクセスしている!」と言わしめた。

 このFLARE CUPの優勝は、筆者にとっては悲願ともいえるものだった。
 前述の最協の優勝を知っている方からすれば、この気持ちに首を傾げるかもしれない。コーチをいれて記念大会で優勝、おめでたいことだけど、そんなに嬉しいものか、と。

 めちゃくちゃ嬉しかった。2021年4月から始まった縁が、半年経ってこうして実を結んだことが、ただのリスナーの身からしても最高に嬉しいのだ。
 配信終了間際に、「Alphaさんとようやく勝てた」と沁みいるように語る乾殿をみて、いちリスナーも4月のシノビカスタム、初夏の連戦、そして最協を思い出してぐっときていた。

 夏に"最協"を証明した彼らは、別の大会でも"最強"であることをリスナーに示してくれた。FLARE CUPは、乾殿を応援していた2021年の配信の中でも、特に忘れられない大会になった。


芽生えた誇りと未来

 乾殿の2021年の大会参加は10月のFLARE CUPで最後だが、その後もカスタムマッチ(大会のように招待された人だけで試合ができる)やランクマッチなどのAPEX配信を行っている。

 仲良しグループのカスタムに助っ人でお呼ばれしたり、盟友メイカくんのお友達とのランクマッチに誘われたりと、相変わらずAPEXを通じた交流も続けている。
 以下に配信URLとランクマッチの参加者を敬称略で掲載する。芸人旅団カスタムは参加者が多いため、気になるかたはぜひ配信を開いていただくことをおすすめする。

芸人旅団(ゴリラさんが所属している仲良しグループ)のカスタムマッチ
毎試合メンバーをシャッフルして楽しむカジュアルカスタム

新マップでのランクマッチ
乾伸一郎、歌衣メイカ、Shu3(ゲーム実況者。徹底的なやり込みに定評がある。実況者グループ「ナポリの男達」のメンバー)

新マップでのランクマッチ
乾伸一郎、歌衣メイカ、奏手イヅル(ホロスターズ所属のVtuber。APEXではマスターランク(上から2番目)。独特の声質による歌が人気)


 また、最協S1~3の主催者の渋谷ハルさんは、毎週木曜に「渋谷ハルカスタム」を開催している。これは複数の招待されたチーム(配信者やVtuber、その他有名人など)と、応募して抽選に受かった視聴者チームが参加できる、カジュアルカスタムだ。チャンピオンを獲得するとアマゾンギフト券がもらえる。
 こちらにも以前よりお呼ばれする機会が増えている。

11月11日開催 渋ハルカスタム特別編
(渋ハルカスタム一周年記念で、招待チームのみの参加だった)


12月2日開催 渋ハルカスタム

 最協S1で涙をのんだ乾殿、ゴリラさん、メイカさんのチーム(漢度3000倍、KD3とも呼ばれる)だが、あの日獲れなかったチャンピオンを求めてこうしたカスタムに出場してくれる。
 ちなみにチャンピオンはまだなのだが、試合を見ていても、顔を合わせるたびに3人ともに実力をつけてきているのが分かる。念願のチャンピオンの時間の問題なのではないだろうか。

 12月2日には相棒のゴリラさんとともに渋ハルさんチームでカスタムへ出場した。使用するレジェンドの話になったとき、乾殿は「ジブラルタル、コースティックなら自信がある」と発言した。
 乾殿はもともとレイスに愛着があった、という話を前に筆者は述べたのだが、愛着あるレジェンドから離れて大会でやりこんだレジェンドを、「自信がある」とまで言えるようになったことに感激しきりだった。

 苦しい中で一緒に成長したレジェンドが、今の乾殿のAPEXを代表するひとつになっている。年の瀬に観戦したカスタムマッチは、これから先の乾殿の未来を、明るく照らしてくれているようにも思えた。


We have our APEX Champions.

 ここまで筆者の長文乱文にお付き合いいただいたが、少しでも忍者Vtuber・乾伸一郎さんの魅力が伝わっていれば幸いだ。

 また、このnoteでは乾殿の2021年のAPEXに関する活動に焦点を当てたが、もちろん他のゲームやライブ活動なども行っている。
 強者たちにわからされる30代の悲鳴が聞ける格闘ゲーム配信、
 リスナーたちと時に煽りあい時に質問したりしながら進める単発ゲーム、
 穏やかな声でマシュマロを食べつつ最近の出来事を振り返る雑談配信(極めてレア)、
 などなど、おすすめ配信アーカイブは枚挙に暇がない。

 2021年の乾殿の物語は、年越しのためそろそろ終わってしまうが、過去の配信も、そして「これからの乾殿」のことも、いつでも思い立ったときに応援に来て欲しいと、切に思うのだ。

 改めて、筆者のつたない文章にお付き合いいただき誠にありがとうございました。これまでの乾殿、これからの乾殿が、ぜひ見てくださったあなたの心に刺さったなら幸いです。


チャンネル登録よろしくお願いします

 冒頭でもお伝えしたが、このnoteで少しでも「乾殿すげー!」「乾殿ちょっと気になるかも」そう思っていただける方がいたら、ぜひ乾殿の配信に遊びに来て欲しい。そして、もっと見たいと思ったのなら、ぜひ専業Vtuberになった乾殿のチャンネル登録をよろしくお願いします!!

 以下、乾殿と大会に出たメンバーのチャンネルを記載する。こちらもぜひ遊びに行ってほしい。(敬称略)
  歌衣メイカ、夕刻ロベル、AlphaAzur、バーチャルゴリラ、星川サラ
  アルス・アルマル、BobSappAim、Sou、あどみん


 こちらにはnote中で話題に出した方々のチャンネルを記載する。(敬称略)
  渋谷ハル、小森めと、エクス・アルビオ、天開司、西園チグサ
  Shu3、奏手イヅル